ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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直くんのトラウマ

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< side昇>

お風呂から出てきた直くんの髪を乾かしてから、俺も風呂に入った。今日のことが気になって手早く洗って風呂から出てくると、直くんはベッドに横たわって何かを見ていた。

なんだろう? スマホじゃなさそうだけど……。

気になって少し近づいてわかった。大おじさんが直くんに残したメモだ。あれを嬉しそうに見ている。あれに書かれた連絡先はもうスマホに移したから、見ているのはあのイラストだろう。どうやらよほど気に入ったらしい。俺が風呂から出てきたのも気づかないほど嬉しそうにあのメモを眺めているのは少し嫉妬してしまうが、直くんにとって生まれて初めておじいちゃんという存在ができてその人が渡してくれた愛情のこもったメモだ。嬉しくないわけがない。

ここはちゃんと直くんの喜びを俺も理解してやらないとな。

俺はそっと自分のスマホを手に取り、ベッドで横たわりながら嬉しそうにメモを見る直くんの姿を写真に撮った。シャッター音が出ないから直くんは気がついていない。だからこれは間違いなく直くんの心からの笑顔だ。これは大おじさんに送ってやろう。あんなに直くんを可愛がってくれたんだ。きっと大喜びするだろう。

そして、一呼吸置いてからさも今入ってきたとばかりに直くんに声をかけた。

パッと俺を見て、

「昇さん、おかえりなさい。お風呂、気持ちよかったですか?」

と声をかけてくれる。これはいつものやりとりだけど、今日は余計に嬉しそうだ。

「ああ、直くんの後だったから余計に気持ちよかったよ」

匂いも堪能したし……なんて事までは絶対に言わないけれど、直くんはそんな俺の邪な気持ちには気づかずに

「昇さんが気持ちよかったならよかったです」

と可愛いことを言ってくれる。ああ、もう本当に可愛すぎるな。

「今日は疲れているだろうし、早く休んだ方がいいよ」

「はい。じゃあ昇さん、来てください」

「――っ!! 」

いつもこうして誘われるたびにドキッとする。直くんは素直に抱き枕として俺を求めているだけとわかっていながらも、好きな相手にベッドに誘われるのはドキドキしても仕方がない。

俺の場所を開けてくれる直くんのそばに近づき、直くんの手を取って身体をベッドに滑り込ませる。

自然に俺の胸元に擦り寄ってきてくれる直くんをギュッと抱きしめると、

「昇さん、あったかくていい匂いがします」

と嬉しそうな声が聞こえてくる。

「眠れそう?」

「はい。すぐに眠れそうです」

「直くんが寝るまで少し話をしようか、眠たくなったら寝ていいからね」

俺の言葉に直くんは小さく頷いて、そっと目を瞑った。すぐに寝ちゃいそうだな。

「絢斗さんのお父さん……直くんのおじいちゃんだけど、会ってみてどうだった?」

「笑顔がすっごくあやちゃんに似ていて、抱っこしてくれるのもすごく安心しました」

「そうか。それならよかった。これからはおじいちゃんが直くんの主治医……直くんをいつも見てくれるお医者さんになるからね。それは桜守に通い出しても変わらないよ」

「よかった……」

もうほとんど眠りかけているのかもしれない。それならと、ポケットに入れていたスマホを直くんの背中側にそっと置いて、耳元で優しく語りかけてみた。こうすれば夢現の状態で話が聞けるかもしれない。一種の催眠状態だ。

「直くんは、何か……病院に、嫌な思い出でもあるのかな?」

「ん……」

「思い出したくないなら言わなくてもいいけど、嫌な思い出なら俺は共有したいと思っているから、話せるなら聞きたいな……」

「給食……」

「給食?」

「ん……小学校に入る前……給食を、食べないようにするために……母さんが、診断書書いてもらうって……病院にいった……」

「そうか……それで?」

「アレルギー検査、するからって……裸に、なって……」

「――っ!!」

これだけで怒りが込み上げてくる。でもここで俺が怒りを見せたら最後まで話してくれないかもしれない。湧き上がる怒りを必死に抑えつけながら直くんに問いかけた。

「それで、どうしたの?」

「身体に、いろんなのたくさん塗られて……赤くなったら、それがアレルギーだって」

確かにアレルギー検査では、パッチテストと言って肌に直接いろいろなアレルギー物質のエキスをつけて調べるけれど、裸にする必要は全くないし、エキスもほんの少量だ。その時点でこれが正当なアレルギー検査でないことはわかる。

「僕が嫌がったら、母さんが押さえつけて……先生がいろんなのを僕に塗っていって……それが気持ち悪くて……」

くそっ、直くんの身体を好き勝手しやがって! 本当に許せない! 

「そうか……怖かったね」

「身体中が真っ赤になって……それで、僕が食べていいのが決まって……」

「うん。でも、直くんはアレルギーはないよ。もうなんでも食べられるもんね」

「ん……うれ、しぃ……」

直くんはさっきまでの苦しげな顔から、笑顔になってそのまま眠りに落ちた。

俺はスマホの録音を止めて、直くんの寝息が一定になるまで抱きしめ続けた。あんなことをさせられていたのなら、病院を怖がるのも無理はない。小学校に入る前の直くんの肌に触れ、トラウマまで植え付けたあの母親も医者も俺が絶対に許さない! 

夜は伯父さんたちの部屋に近づくわけにはいかないから、明日の朝にでもこの話を伯父さんにしておかないとな。
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