ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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楽しいクリスマスのために……

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「あら、専門店ができたって聞いていたけどここにあったのね」

「あ、ここのシュトレン。前に秀吾くんが差し入れで持ってきてくれてすごく美味しかったよ」

村山の母さんと絢斗さんが店の前に置かれたメニュースタンドをみながら楽しげに話をしている。
シュトレンって季節ものだと思っていたけど、専門店なんてあるんだと驚きだ。

シュトレンというのはたっぷりのバターが入った生地にドライフルーツやナッツなどが練り込まれた、ドイツ発祥の菓子パンのこと。クリスマスが近づくとあちらこちらのパン屋やケーキ店なんかで売り出される。季節の風物詩的なものだ。

「しゅと、れん?」

「ドイツ発祥のお菓子でクリスマスによく食べるものだよ」

「えっ、でもクリスマスまであと一か月くらいありますよ」

「ナオ、このお菓子はね。クリスマスまでの時間を楽しく過ごすために毎日少しずつ味わって食べていくものなんだよ。食べ始めた頃とクリスマスが近づいた頃ではどんどん味が深くなって美味しくなるんだ」

俺の説明に、カールが付け足してくれる。

「クリスマスまでの時間を楽しく過ごすために……それ、素敵ですね」

直くんは今までどんなクリスマスまでの時間を過ごしてきたんだろう。
冬休みを前にワクワクしている同級生の姿を見ながら、自分とは関わり合いのない世界だと思って過ごしてきたんだろうか……。

「せっかくだから入ってごらん」

そう声をかけたのは、意外にも大おじさんだった。

「わぁ、入っていいんですか?」

「ああ。散策しながら入りたいお店に入っていいんだ」

「行こう、ナオ!」

カールは直くんの手を取って、お店の扉を開けて中に入った。
カランカランとドアベルの澄んだ音が聞こえる。

「私たちも入ろう」

絢斗さんと村山の母さんが中に入っていく。
割と小さな店だから俺たちまで入るとかなり手狭になるだろう。
俺たちは邪魔にならないように扉の前から少し離れて並んで待っていた。
可愛い店の前に並ぶ大男たちの集団に、かなり視線が集まっていたけれど俺は店の中にいる直くんのことで頭がいっぱいになっていた。

<side直純>

美味しいクレープを食べて、歩き始めた時にカールが何かを叫んで立ち止まった。
そこがクリスマスを楽しく過ごすためのシュトレンという菓子パンの専門店だと聞いてすごく興味が湧いた。

中に入ってみたい……そう思ったけれど、お店に入るのは勇気がいる。
どうしようと思っていると、おじいちゃんが入ってごらんと言ってくれた。

ドキドキする僕に、カールも

「行こう、ナオ!」

手を差し出してくれて嬉しかった。

友人とお店に入るのって初めてじゃないかな?
多分、きっとそうだ。

中に入ると、甘くて香ばしい匂いに包まれる。

「いらっしゃいませ」

ショーケースの向こうから可愛い制服姿の人に声をかけられた。
こういう時どうしたらいいんだろう……と思っていると、僕たちの後ろからあやちゃんと村山さんのお母さんがやってきた。

「あら、一口サイズで売ってるのね。可愛い」

「そうそう、これこれ。いろんな味が楽しめてすっごくよかったよ。直くん、気になるのある?」

さっと僕とカールのところにきてくれてホッとする。

するとショーケースの向こうにいたお店の人が、僕たちに小さなトレイを見せた。

「よろしければご試食ください。こちらはレーズンとオレンジピールが入ったオーソドックスなタイプのものです。こちらは先ほどの物の生地にチョコレートをが練り込まれています。こちらはドライバナナとチョコチップ、そして胡桃が入ったものになります。最後にこちらは今年のおすすめで、たっぷりのドライフルーツとローストしたナッツ、そして丹波栗を使った栗のシュトレンです。どれも表面に和三盆をたっぷりとふりかけていて美味しいですよ。どうぞ」

一口サイズのものをさらに小さく切り分けてあって食べやすそう。

「直くん、試食してみようか」

あやちゃんに誘われて、僕は恐る恐る手を伸ばした。
まずはオーソドックスと言われたもの。

口に入れると、しっとりしたクッキーみたいな食感の中にいろんな味が押し寄せてくる。
でもなぜか口の中でまとまってものすごく美味しい。

「おいしい……すごく、おいしい……」

ふわっと不思議な香りもするけれど、それがまた食べたくなる感じがする。

「ん! このStollen、すっごくおいしい!」

本場の人であるカールが美味しいというくらいだから、きっとここのは美味しいんだろうな。

「他のものもどうぞご試食ください」

何個も食べていいのかなと思いつつ、手を伸ばし今年のおすすめだと言っていた栗のシュトレンを食べてみた。

「んー!!」

さっきのもすっごく美味しかったけど、これはびっくりするくらい美味しい。

「直くん、気に入ったんだね」

「これ、すっごく美味しいです!」

「じゃあ、買おっか」

「えっ? いいんですか……?」

「もちろん、一緒に食べながら楽しいクリスマスが来るのを待とう」

「一緒に、クリスマスを待つ……」

その言葉が嬉しくて、僕は大きく頷いた。
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