ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
372 / 718

安心する存在になれたら……

しおりを挟む
紅茶のお代わりを淹れたり、お菓子の追加を皿に載せたり、その度に直くんから声がかかって楽しくて仕方がない。
直くんも俺が横に行くたびにうっとりとした顔で見てくれるし、意外とこの姿を気に入ってくれているみたいだ。
この執事服を家でも着たら直くん喜んでくれるかな……。

そんなことを考えて直くんのドレスのことを思い出した。

「宗一郎さん。直くんが着ているあのドレスなんだけど……」

俺以上に皐月さんたちの様子に気を配っている宗一郎さんに忘れないうちに声をかけてみた。

「あのドレス、よく似合っているな。可愛らしくて直くんにぴったりだよ」

「うん。だから、あのドレス……俺に買い取らせてもらえないかなって……」

今日のお茶会のために宗一郎さんと皐月さんが用意してくれたドレスだけど、俺が直くんのために買ってあげたくて申し出た。

「ははっ。元々ドレスはプレゼントするつもりで用意しているから買取なんて気にしないでいい」

「でも……」

宗一郎さんからの贈り物だと思うと、なんとなく複雑な感情が込み上げる。
俺の反応でそれに気がついたのか、宗一郎さんはあのドレスについて説明してくれた。

「あれは皐月から直くんへの贈り物なんだよ。だから皐月の気持ちを汲んでくれないか? それだけ直くんと会えるのを楽しみにしていたんだ」

「えっ……皐月さんからの、贈り物?」

そうか、宗一郎さんの贈り物じゃなかったんだ。
それがわかっただけで胸のざわつきが消えていくなんて俺も調子がいい。

「もし、昇くんが気になるなら周平くんから普段着も準備してもらっているからそっちなら買い取ってくれて構わないよ」

「普段着? わぁ、喜んで!!」

「ははっ」

あっという間の俺の変わりように、宗一郎さんだけでなく伊織さんも成瀬さんも笑っているように見えた。

しばらく伯父さんたちと会話をしながら、直くんの様子を気にかけていたけれど、急に直くんの声が聞こえなくなった。
気になって駆け寄ると、寝落ちしかけていることに気づいた。

「直くん。急に静かになったなと思っていたけど、どうかしたの?」

「すみません、直くん。眠くなったみたいです」

「それは大変。客間のベッドに寝かせてあげて。宗一郎さん!」

皐月さんの呼びかけで宗一郎さんがこちらにやってくる。
俺は座っている直くんを腕に抱きかかえながらすみませんと謝った。

「磯山から途中で眠くなるだろうと聞いていたからベッドの準備はしているんだ。だから気にしないでいいよ。こっちに連れてきてくれ」

直くんがお腹いっぱいになったら眠くなってしまうことを伯父さんが伝えてくれていたらしい。
ちゃんとこういうことも情報共有してくれていて助かる。

「一応、診ておこうか」

「お願いします」

成瀬さんも優しい言葉をかけてくれて、俺は直くんを抱きかかえて宗一郎さんが案内してくれる客間に向かった。

ここも皐月さんが直くんのために準備してくれたんだろうか。
可愛いベッドには可愛いぬいぐるみがたくさん並べられていて、直くんが起きたら喜びそうな部屋だ。

直くんをベッドに寝かせると、成瀬さんが床に膝をついて直くんの脈をとった。

「うん、大丈夫そうだね。しばらく寝かせておくといい」

「ありがとうございます」

急に眠くなる病気というのもあるから、それを心配してくれたんだろうが直くんの場合は体質もある。
でも成瀬さんに大丈夫だと言われると安心する。俺も直くんにとってそんな存在になれたらいい。

宗一郎さんと成瀬さんは俺に直くんを任せて部屋を出て行った。

俺は直くんの寝顔を見ながら、そっと頬にキスを落とした。

<side卓>

直くんの様子にいち早く気づいた昇が直くんに駆け寄り、直くんの昼寝部屋を用意してくれていた志良堂に案内されてサンルームを出て行った。
一緒に成瀬くんもついて行ってくれたのは直くんのためだろう。
ありがたいことだ。成瀬くんのこんな姿を見たらきっと昇は更にダブルライセンスへの憧れを増すことだろうな。

しばらくして志良堂と成瀬くんが戻ってきた。

「直くんはどうだった?」

「眠っているだけですから何の問題もありません。まだ身体が今の生活に慣れていないんでしょうね。学校に通わせるようになったら早めに学校側と少し話をしておいた方がいいかもしれません。桜守なら午後に少し保健室で休めるような対処もしてもらえるでしょう」

「成瀬くん、ありがとう。そうできるように話をしてみるよ」

こういう時に理事長が知り合いだと話しやすい。
近々、アポイントをとって話をしに行ってくるとしよう。

「私たちがいた頃も、結構柔軟に対応してくれたから直くんも大丈夫だよ。ね、絢斗」

「そうそう。午後の時間はいつも休みだった子がいたけど、みんなで交代でノートとか渡してたよね」

「わぁー、すごく優しいですね」

そこから桜守の話になっていったが、悠真くんも真琴くんも興味津々な様子で話を聞いている。
直くんももうしばらくしたら桜守の一員になる。

楽しい学校生活を過ごしてくれたらいい。そう願わずにいられない。
しおりを挟む
感想 1,343

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

複数番ハーレムの中に運命の番が加わったら破綻した話

雷尾
BL
合意を得なきゃだめだよね。得たところで、と言う話。割と目も当てられないぐらい崩壊します。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...