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似たもの親子
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<side昇>
「昇さん、パパが帰ってきましたよ。おやつ食べましょうって」
玄関チャイムが鳴った時からドキドキが止まらなかったけれど、こうして直くんに呼びに来られると行かないわけにはいかない。
「あ、ありがとう。直くんのお茶淹れるから直くんは絢斗さんのところに先に行ってて」
「はーい」
笑顔で駆けていく直くんを見送りながら、俺はフーッと深呼吸した。
状況は説明して謝罪もしたけど、既読になったまま返信なかったな。
もしかしたらものすごく怒ってたり……?
伯父さんは優しいけれど、絢斗さんが絡むととんでもなく怖くなるからな。
特にさっき俺が見てしまった動画の絢斗さんは、俺がいつも見ている絢斗さんよりもずっと可愛かったし。
あれは絶対に見ちゃいけないやつだったはず。
伯父さんに会うのが怖くてたまらないけれど、呼ばれているのに行かないのも変だろう。
意を決して俺はキッチンに向かった。
そっと中を覗き込んだけれど、伯父さんからは怒りの様子は見えない。
だけどリビングにいる絢斗さんと会話しているようだから、絢斗さんに気づかれないように表情に出していないだけかもしれない。
「お、伯父さん。おかえり」
怯えていたからか、声が震えてしまった。
俺の声にさっと顔を上げた伯父さんに一瞬ビクッとしたが、伯父さんはいつもと変わらない様子。
それどころか、むしろ機嫌がいい。
「昇の好きな<星彩庵>のみたらし団子買ってきたぞ。一緒に食べよう」
笑顔で誘われて戸惑ってしまう。
一体なんなんだ?
すると、伯父さんは俺に笑顔を見せ、あの動画は俺が見ても問題ないものだと教えてくれた。
なんだーっ、そうなのかよ。
めちゃくちゃドキドキしていたのに。
でもよかった。
そして、伯父さんからはさらに俺の提案を受け入れて改名する方向で動くことにしたと報告があった。
どうやらじいちゃんたちも賛成してくれたみたいだ。
手続きを始めたら二週間くらいで認められるらしい。
受験の時には間に合わないかもだけど、入学する時にはもう<磯山直>になれるってことだ。
それなら新しい学校では最初から<磯山直>として過ごせるのだから問題ない。
以前の状況から苗字も名前も変わって、本当に新しく生まれ変われるんだ。
昔の記憶のせいであんなにも苦しめられていた直くんだから、名前が変わったと聞いたらきっと喜ぶだろうな。
それにしても<磯山直>か……。以前の名前よりもずっと直くんのイメージに合っている気がする。
というか、最初からこの名前だったんじゃないかという気さえしてくる。
うん、きっとこうなる運命だったんだろうな。
そんなことを考えているうちにさっきまで伯父さんに怯えていた気持ちはあっという間にどこかに行ってしまった。
直くんと俺用のお茶を淹れて、同じく絢斗さんと自分のお茶を用意した伯父さんと一緒にリビングに戻ると、<星彩庵>のお菓子を前に直くんと絢斗さんが嬉しそうにおしゃべりしているのが見えた。
上から覗き込むと、俺の好きなみたらし団子が見える。
そのほかにも絢斗さんが昔から好きな抹茶プリンやどら焼き、それに草餅まで入っている。
<星彩庵>の草餅は蓬の香りが良くて美味しいんだよな。
俺のイチオシはなんと言ってもみたらし団子だけど。
直くんはやっぱり絢斗さんと同じ抹茶プリンを選ぶかなーなんて思いながら、何を食べたいか聞いてみた。
すると直くんは少し悩みながら俺の好きなものを聞いてきた。
俺がみたらし団子が好きだと言って直くんにも勧めてみると、思いっきり笑顔で頷いてくれた。
俺の好きなものを、共有したいってことなんだろうか……。
ああ、可愛すぎる。
俺はみたらし団子の串を一本取り、直くんの口に近づけた。
一つが小さいこの団子なら直くんでも食べられるだろう。
味はどうかな?
気に入ってくれるかな?
なんてほんの少し心配したけれど、そんな心配が杞憂だと思うほど、直くんは口に入れた途端とびっきりの笑顔を見せてくれた。
その表情だけで気に入ってくれたのがわかる。
伯父さんはそんな直くんを見て満足そうに、同じように絢斗さんにみたらし団子を食べさせた。
絢斗さんの唇の端にみたらし団子のタレがついているのが目にとまったと同時に伯父さんが優しく唇を当ててそれを綺麗に舐めとった。
絢斗さんは少し恥ずかしそうにしていたけれど嬉しそだったし、愛し合っている二人では当然のことだってわかっている。
だって、父さんたちも宗一郎さんたちも、伊織さんや成瀬さんだっていつもしているのだから。
きっとあの結婚式に参列していた人全員が普通にやっていることなんだろう。
俺だっていつかは……。
そう思いながら、直くんをみると唇の端にほんのわずかなタレがついているのが見えた。
あっ……。
そう思っていると、伯父さんの視線を感じて思わず伯父さんに視線を向けた。
<お前も舐めとってやれ>
そう言われた気がした。
一瞬、俺の願望がそう感じているだけかと思ったけれど、絶対にそう言っている。
後で怒られてもいい。俺がそう感じたのだから。
俺は喜びのままに直くんの唇に自分の唇を当てて、ほんのわずかなタレを味わった。
柔らかな唇の感触と甘辛いタレが俺にはこの上ない極上のものに感じられた。
それで満足していた俺の手から、直くんがみたらし団子の串をとる。
「僕も昇さんに食べさせたいです。あーんしてください」
直くんに食べさせることができて、唇についたタレを舐めとることができたばかりか、直くんからあーんしてもらえるなんて俺はなんて幸せなんだろう。
俺が口を開けると、直くんが食べさせてくれた。
<星彩庵>のみたらし団子ってこんなに美味しかったっけ。
覚えていた味の数倍の美味さに感動していると、
「昇さんもタレが付いてますよ」
と小さな声が聞こえたと思ったら、俺の唇に直くんの唇が当てられる。
ぺろっと小さな舌に舐められた感触がして驚いてしまう。
俺は唇を当ててタレに吸い付いたが、直くんは本当に舌で舐めとってくれたんだ。
やばい! 興奮が止まらない。
流石にここまでは許してもらえなかったかもしれないと思って、そっと伯父さんに視線を向けると伯父さんの唇にも絢斗さんが唇を当てて舐めとっているのが見える。
そして絢斗さんは直くんと顔を見合わせて、美味しいねと笑い合う。
その姿に俺は一生直くんには勝てないなと思った。
と同時に、絢斗さん以上の可愛さを身につけそうな気がして、少し怖くなってしまったのは俺だけの秘密だ。
「昇さん、パパが帰ってきましたよ。おやつ食べましょうって」
玄関チャイムが鳴った時からドキドキが止まらなかったけれど、こうして直くんに呼びに来られると行かないわけにはいかない。
「あ、ありがとう。直くんのお茶淹れるから直くんは絢斗さんのところに先に行ってて」
「はーい」
笑顔で駆けていく直くんを見送りながら、俺はフーッと深呼吸した。
状況は説明して謝罪もしたけど、既読になったまま返信なかったな。
もしかしたらものすごく怒ってたり……?
伯父さんは優しいけれど、絢斗さんが絡むととんでもなく怖くなるからな。
特にさっき俺が見てしまった動画の絢斗さんは、俺がいつも見ている絢斗さんよりもずっと可愛かったし。
あれは絶対に見ちゃいけないやつだったはず。
伯父さんに会うのが怖くてたまらないけれど、呼ばれているのに行かないのも変だろう。
意を決して俺はキッチンに向かった。
そっと中を覗き込んだけれど、伯父さんからは怒りの様子は見えない。
だけどリビングにいる絢斗さんと会話しているようだから、絢斗さんに気づかれないように表情に出していないだけかもしれない。
「お、伯父さん。おかえり」
怯えていたからか、声が震えてしまった。
俺の声にさっと顔を上げた伯父さんに一瞬ビクッとしたが、伯父さんはいつもと変わらない様子。
それどころか、むしろ機嫌がいい。
「昇の好きな<星彩庵>のみたらし団子買ってきたぞ。一緒に食べよう」
笑顔で誘われて戸惑ってしまう。
一体なんなんだ?
すると、伯父さんは俺に笑顔を見せ、あの動画は俺が見ても問題ないものだと教えてくれた。
なんだーっ、そうなのかよ。
めちゃくちゃドキドキしていたのに。
でもよかった。
そして、伯父さんからはさらに俺の提案を受け入れて改名する方向で動くことにしたと報告があった。
どうやらじいちゃんたちも賛成してくれたみたいだ。
手続きを始めたら二週間くらいで認められるらしい。
受験の時には間に合わないかもだけど、入学する時にはもう<磯山直>になれるってことだ。
それなら新しい学校では最初から<磯山直>として過ごせるのだから問題ない。
以前の状況から苗字も名前も変わって、本当に新しく生まれ変われるんだ。
昔の記憶のせいであんなにも苦しめられていた直くんだから、名前が変わったと聞いたらきっと喜ぶだろうな。
それにしても<磯山直>か……。以前の名前よりもずっと直くんのイメージに合っている気がする。
というか、最初からこの名前だったんじゃないかという気さえしてくる。
うん、きっとこうなる運命だったんだろうな。
そんなことを考えているうちにさっきまで伯父さんに怯えていた気持ちはあっという間にどこかに行ってしまった。
直くんと俺用のお茶を淹れて、同じく絢斗さんと自分のお茶を用意した伯父さんと一緒にリビングに戻ると、<星彩庵>のお菓子を前に直くんと絢斗さんが嬉しそうにおしゃべりしているのが見えた。
上から覗き込むと、俺の好きなみたらし団子が見える。
そのほかにも絢斗さんが昔から好きな抹茶プリンやどら焼き、それに草餅まで入っている。
<星彩庵>の草餅は蓬の香りが良くて美味しいんだよな。
俺のイチオシはなんと言ってもみたらし団子だけど。
直くんはやっぱり絢斗さんと同じ抹茶プリンを選ぶかなーなんて思いながら、何を食べたいか聞いてみた。
すると直くんは少し悩みながら俺の好きなものを聞いてきた。
俺がみたらし団子が好きだと言って直くんにも勧めてみると、思いっきり笑顔で頷いてくれた。
俺の好きなものを、共有したいってことなんだろうか……。
ああ、可愛すぎる。
俺はみたらし団子の串を一本取り、直くんの口に近づけた。
一つが小さいこの団子なら直くんでも食べられるだろう。
味はどうかな?
気に入ってくれるかな?
なんてほんの少し心配したけれど、そんな心配が杞憂だと思うほど、直くんは口に入れた途端とびっきりの笑顔を見せてくれた。
その表情だけで気に入ってくれたのがわかる。
伯父さんはそんな直くんを見て満足そうに、同じように絢斗さんにみたらし団子を食べさせた。
絢斗さんの唇の端にみたらし団子のタレがついているのが目にとまったと同時に伯父さんが優しく唇を当ててそれを綺麗に舐めとった。
絢斗さんは少し恥ずかしそうにしていたけれど嬉しそだったし、愛し合っている二人では当然のことだってわかっている。
だって、父さんたちも宗一郎さんたちも、伊織さんや成瀬さんだっていつもしているのだから。
きっとあの結婚式に参列していた人全員が普通にやっていることなんだろう。
俺だっていつかは……。
そう思いながら、直くんをみると唇の端にほんのわずかなタレがついているのが見えた。
あっ……。
そう思っていると、伯父さんの視線を感じて思わず伯父さんに視線を向けた。
<お前も舐めとってやれ>
そう言われた気がした。
一瞬、俺の願望がそう感じているだけかと思ったけれど、絶対にそう言っている。
後で怒られてもいい。俺がそう感じたのだから。
俺は喜びのままに直くんの唇に自分の唇を当てて、ほんのわずかなタレを味わった。
柔らかな唇の感触と甘辛いタレが俺にはこの上ない極上のものに感じられた。
それで満足していた俺の手から、直くんがみたらし団子の串をとる。
「僕も昇さんに食べさせたいです。あーんしてください」
直くんに食べさせることができて、唇についたタレを舐めとることができたばかりか、直くんからあーんしてもらえるなんて俺はなんて幸せなんだろう。
俺が口を開けると、直くんが食べさせてくれた。
<星彩庵>のみたらし団子ってこんなに美味しかったっけ。
覚えていた味の数倍の美味さに感動していると、
「昇さんもタレが付いてますよ」
と小さな声が聞こえたと思ったら、俺の唇に直くんの唇が当てられる。
ぺろっと小さな舌に舐められた感触がして驚いてしまう。
俺は唇を当ててタレに吸い付いたが、直くんは本当に舌で舐めとってくれたんだ。
やばい! 興奮が止まらない。
流石にここまでは許してもらえなかったかもしれないと思って、そっと伯父さんに視線を向けると伯父さんの唇にも絢斗さんが唇を当てて舐めとっているのが見える。
そして絢斗さんは直くんと顔を見合わせて、美味しいねと笑い合う。
その姿に俺は一生直くんには勝てないなと思った。
と同時に、絢斗さん以上の可愛さを身につけそうな気がして、少し怖くなってしまったのは俺だけの秘密だ。
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