ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
395 / 718

卓さんの葛藤と思い

しおりを挟む
<side絢斗>

「今日の件だが……」

二人きりで部屋に戻ってすぐに、卓さんが話題を切り出した。

「こっちに座ってゆっくり聞かせて」

卓さんの手を取って一緒にソファーに座る。
直くんに関することで卓さんと昇くんが考えたことなら心配はない。
私は黙ってその結果を聞くだけだ。

「昇から、直くんの改名を提案されて、父と賢将さんにも相談してみたが二人とも大賛成でね。改名することにしたよ。明日から手続きに入る」

「直くんの、改名……」

「絢斗の意見を聞かずに決めてしまってすまない。だが、改名は直くんのためにも必要なことなんだ。だから……」

卓さんは私に決定事項を伝えてしまったことを気にしているみたいだけど、名前のことは私も気に掛かっていた。
改名するのはかなりの決断が必要だけれど、そこに行き着くまでの何かの事態があったのだろう。

「名前について、直くんが何か言ったの?」

「いや、夢で魘されていたらしい。自分の名前を実母に怒鳴られてずっと呼ばれていたようでトラウマになっていたようだ。それで昇が改名をした方がいいって提案してきたんだよ」

だからか。
自分で名前を呼ぶ分には問題なくても、直純と呼ばれた時は必ず身体を震わせていた。
だからカールが早々に「ナオ」と呼び出してホッとしていた。
外国人にとってナオズミという発音が難しくて良かったってあの時思ったもんね。

「卓さんは最初から昇くんの提案に賛成していたんじゃない?」

「そうだな。私も直くんの反応は気になっていたからな」

「それじゃあどうしてお父さんたちに意見を聞きに行ったの? 他にも何か気になることがあった?」

私の問いかけに卓さんは少し考えてからゆっくりと口を開いた。

「直くんの……父親のことを考えたんだ」

「お父さんのこと?」

「もし、あの名前を直くんの父親が考えたものだったら、彼の意見を聞かずに改名してしまったら、ますます父親と直くんの繋がりがなくなってしまうんじゃないかと心配したんだよ。直くんは父親から別れの手紙を受け取って泣いていただろう? 同じように直くんが改名したと父親が知れば、自分の息子であるという気持ちが薄らいで傷つけてしまうんじゃないかと……」

卓さんは直くんだけじゃなく、直くんのお父さんのこともちゃんと考えていたんだ。

「だが、本当に子どものことを思うなら、自分の思いより子どもの気持ちを優先させるものだと父に言われて納得した。私は直くんよりも父親の気持ちを優先しようと思っていたのかも知れない。一番に考えないといけないのは直くんだったのに……」

卓さんの声が少し震えている気がする。
きっと卓さんはいろんなことを考えたんだろう。
だからこそ、自分の意見だけで決断するのではなく第三者の意見を聞きに行った。

「そっか。さすがお義父さんだね。でも卓さんの気持ちも大事なことだと思うよ。お父さんのこともだけど、直くんがもし、自分の名前の由来を知っていたら、そしてそれがお父さんのつけてくれたものだと知っていたら、トラウマがある名前だけどそれ以上に悲しみを抱くかもしれない。そういうことも考えたんでしょう?」

卓さんの頷きが全てを物語っている気がした。

「卓さんは皆の気持ちを一番に考えたんだよ。だから、気に病むことはないよ。それにね、私……思うんだ」

私が声をかけると、卓さんが私をじっと見つめる。だから私はそのまま言葉を続けた。

「直くんのお父さんが名前をつけたなら、<直>にしたんじゃないかって」

「なぜだ?」

「だって、直くんのお父さんの名前……保だよ。卓さんたちみたいに、息子にも漢字一文字の名前をつけようって思ってもおかしくないんじゃない?」

私の言葉に卓さんがハッとする。

「まぁ、これは私の推測だし、名前の付け方なんてそれぞれで正解があるわけじゃないけど、もしかしたらお母さんがつけた名前かもしれないって可能性もあるよ。お母さんって「美代」って名前だったよね? 「純美じゅんび」なんて言葉もあるし、もしかしたら自分の名前に関連づけた名前をつけようと思って一文字足したのかも……。そういう可能性だってある。そういったいろんな可能性がある中で、改名したら今度は本当に直くんのことだけを考えてつけた名前になるってこと。直くんもそれはきっと喜ぶんじゃないかな?」

「そう、だな……。その通りだ」

卓さんの表情から憂いが消えていくのがわかる。
改名することに決めてもまだ少し葛藤があったんだろう。
私の言葉で気持ちが晴れやかになったのならよかった。

「直くんにはいつ話すの?」

「受験の時には、新しい名前で書いてもらいたいから、父たちの引っ越しの後にでも話そうと思う」

「うん。それがいいと思う。新しい名前で新しい学校に通う。気持ちもしっかり切り替えられるね」

これで直くんの心も落ち着きそうだ。
しおりを挟む
感想 1,343

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

複数番ハーレムの中に運命の番が加わったら破綻した話

雷尾
BL
合意を得なきゃだめだよね。得たところで、と言う話。割と目も当てられないぐらい崩壊します。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...