ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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毒牙を抜かれる

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栗原先生→栗原穂積
城戸先生→城戸利明


  *   *   *


<side城戸(昇たちの担任)>

校門にできていた人だかりが気になって、穂積ほづみさんのあとを追いかけて見に行くけれど、人が多すぎて何も見えない。すると、突然人だかりが消え、中学生くらいの可愛い女の子? か男の子かわからないけれど、とにかく可愛い子が磯山に向かって駆け寄ってきた。

もしかして、磯山のファンが高校まで乗り込んできた? そんな考えが一瞬頭をよぎったけれど、磯山の表情を見てそれは違うとすぐにわかった。だってそれが穂積さんが私を見る目によく似ていたから。だから私はすぐにあの子が磯山の大事な子だと理解した。

磯山は嬉しそうに駆け寄ってくるその子をしっかりと受け止め、顔を近づけて何やら話をしている。
話の内容まではさすがに聞こえないけれど、楽しそうな会話をしているのはわかる。

磯山の見たことのない姿に磯山に好意を寄せている子たちが、地面に頽れたまま茫然とした表情を見せている。
あれだけ違いを見せつけられたら諦めざるを得ないだろう。ある意味、これが磯山に群がる生徒たちへのいい牽制になりそうだ。これでよかったんだ。そう思っていたのに、磯山はとんでもない爆弾を投下した。

この百人以上の観衆の前で、あの可愛い子と熱烈なキスをしたのだ。

重なる口元は故意なのか偶然なのかわからないが、器用に隠されていたけれど誰が見てもあれはキスをしているだろう。その瞬間、学校の外にも響き渡るほどの生徒たちの悲鳴に包まれた。

抱き合っているだけでも十分だったのだから、ここまで牽制しなくてもよかったのに……。
さすがに大騒ぎを引き起こしたとして、穂積さん……いや学年主任から大目玉を喰らいそうだ。

私もなんとかしてあげたいがここまでくるとどうしようもない。

穂積さんは、「磯山! ちょっと来い!」と声を張り上げて、二人の元に近づいて行った。
するとその時、穂積さんの対面から磯山と可愛い子に近づく二人の姿が目に入った。
えっ、あの人は……それに気づいた時には、その人は穂積さんの前に笑顔で立っていた。

「あー、やっぱり栗原くんだ。久しぶりだね」

笑顔で穂積さんに声をかけたその人は、桜城大学法学部の緑川教授だ。男性だけど、とても綺麗な顔立ちをして五十歳をとっくに過ぎているとは思えないほど美しい。桜城大学の経済学部の教授の鳴宮教授と並んで、桜城大学の女神と称されている。

私も急いで駆け寄ったけれど、相変わらずの屈託のない緑川教授の笑顔にすっかり穂積さんの毒牙が抜かれてしまっている。

「緑川教授! それに磯山先生までどうしてこちらに?」

「ごめんね、大騒ぎしちゃって。この子、うちの子なんだ。昇くんに報告したいことがあるっていうから連れてきたんだよ。それでちょっと興奮しちゃって……ねぇ、直くん」

緑川教授の言葉に磯山の胸に顔を埋めていた子がゆっくりと顔を上げる。

「あ、あの……先生、ごめんなさい……僕、嬉しくてつい……」

「くっ!!」

涙を潤ませ、先生ごめんなさいと見上げる可愛い子の姿に穂積さんはすっかりノックアウトされてしまったらしい。

「い、いや。君は何も悪くないから気にしないでいい」

「でも……昇さんは……」

可愛い子は自分が叱られることよりも磯山のことが気になって仕方がないいらしい。

「あ、いや。磯山には経緯を尋ねようとしただけで叱るわけではないから気にしないでいいよ」

本当は注意するつもり満々だった穂積さんだけど、あんなに縋る目で見つめられたらそう言わないわけにはいかないだろう。穂積さんがあっという間に籠絡されているのを見るのは恋人として面白くないはずなのに、あの可愛い子ならそれも仕方がないと思ってしまう。あの子ならいうことを聞いてしまうのも無理ないかな。

あの磯山が落ちたのもわかる気がする。
外見の可愛さだけじゃなく、内面も清らかで素直で真面目な感じがありありと溢れている。
天使のような可愛さというのはあの子のことを言うんだろうな。

穂積さんがあの子にあたふたしている姿を見て楽しくなっていると、

としくん。こっちにおいで」

と緑川教授に笑顔で手招きされてしまった。

私を利くんと呼ぶのは、緑川教授と鳴宮教授だけだ。
いつまで経っても可愛らしい笑顔で名前を呼ばれて慌てて駆け寄った。

「お久しぶりです。緑川教授。磯山先生もお元気そうで何よりです」

「ああ、ありがとう」

笑顔の緑川教授と違って、磯山先生の表情がやけに固い……というか、怖い。
なんとなく威圧めいたものを感じるのは気のせい、だろうか?

それに、磯山も若干怯えているような?
いや、それはないな。だって、磯山先生は優しいお方だ。きっと私の気のせいに違いない。
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