エリート警察官僚はようやく見つけた運命の相手を甘やかしたくてたまらない!

波木真帆

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番外編

アップルパイを買いに  1

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剣道大会の前に、あのお話の冬貴視点をお届けします。
長くなったので前後編に分けます。
楽しんでいただけると嬉しいです♡


   *   *   *



もうすぐ出勤時間。
離れた場所で身支度を整えていると、要さんがそっとテレビをつけた。

うちに来るまでは朝からのんびりテレビを見る習慣はなかったらしい。
ここにきた最初のころに、私が朝食を終えたあと身支度を整えている間、要さんが暇を持て余すだろうとそっとテレビをつけておいたのだが、ちょうどその時間はどこの局も占いをやっている。

その占いを見るのが楽しくなったようで、その時間になるとテレビをつけるようになった。
だが、私がいるとテレビをつけたくないらしい。
おそらく、私と二人の時間を大切にしてくれているんだろうということが伝わってくる。
だから、私はわざとその時間リビングから離れるようにしておいた。

占いはもちろん毎日いいことばかりじゃない。
だが、いい日も悪い日も楽しめる。要さんにそんな心の余裕ができたことが嬉しい。

いつものように占いを見終えた頃に準備を終わらせて、リビングに戻る。

「冬貴さん。行ってらっしゃい」

「ええ。行ってきます。今日はいつも通りに帰って来れると思いますが、変更があればすぐに連絡しますね」

仕事柄いつも同じ時間に帰宅できるとは限らない。
だから、いつも同じ言葉を告げるが、要さんは笑顔で見送ってくれる。

靴を履き、要さんと向かい合わせに立つと頬を赤くしながら行ってらっしゃいのキスをしてくれる。
私にこんな日常が訪れるなんて……本当に幸せだ。

後ろ髪を引かれつつも家を出て駐車場に向かう。
すぐには出発せずスマホを取り出し、必ず見る映像がある。

それはさっきの占いを見ている時の要さんの様子。
部屋に取り付けたカメラでしっかりと確認しておく。

<今日最も運勢がいいのは、⚪︎⚪︎座のあなた。ラッキーアイテムはパスタとりんご……>

「わぁ、やった! 今日は一位だ!」

無邪気に喜ぶ要さんが可愛い。
そうか、パスタなら夕食にイタリアンに誘うのもいいな。

確か、以前沖野から教えてもらったイタリアンの店が……

そんなことを思い出していると、占いが終わった後、テレビを消そうとしていた要さんの手が止まったのが映像で確認できた。

「美味しそう……」

テレビを見ていた要さんがポツリと呟く。
あまり物欲のない要さんが真剣に見ているのが珍しい。
画面を見ると、<成田空港に大人気アップルパイ期間限定ショップがオープン。行列に並んでも食べたい!>と書かれている。

アップルパイ、か……

そういえばラッキーアイテムはりんごもあったな。

確か、成田空港の安全対策会議が来週入っていたはず。
その担当者から前もって打ち合わせしたいと新海に連絡が来ていたな。

よし、新海の代わりに私が行ってこよう。
そのついでにアップルパイを買って帰れば要さんに持って帰れる。

私はすぐに新海に連絡を入れ、あちらの担当者との打ち合わせをセッティングさせた。
一度警視庁に向かい、新海から資料を受け取る。

「あの、本当に、わざわざ警視正が行かれるんですか? 申し訳ない気がするんですが……」

「気にしないでいい。お前は別の案件もあっただろう。これは私に任せておけ」

そう言って、すぐに警視庁を出て、成田空港に向かった。
空港の敷地から車で五分ほどの場所にある警察署庁舎で打ち合わせをする。
担当者は私が来たことにかなり萎縮していたが、話が始まればとんとん拍子に進みあっという間に打ち合わせが終わった。

「真壁警視正にお越しいただいてよかったです。会議当日もぜひよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げられ、笑顔で見送られた。
予定の時間より早く終わってよかった。

そうして私は成田空港駐車場に足を運んだ。
車を止め、要さんが美味しそうと溢していたアップルパイの店を探す。
広い空港内で小さな店を探すのはかなり難しいかと思ったが、空港に入るとすぐに甘い匂いに誘われる。

これはまさしくアップルパイ。

その匂いを頼りに進むと、行列が見えてきた。

あれだ!

時間帯が良かったのか、そこまで長い行列ではなさそうだ。
最後尾はどこか……

すると一人で並んでいる男性の後姿が目に入った。

「あ、すみません。最後尾はこちらですか?」

その声に振り返った彼は、若いのに明らかに一般人とは異なる空気を纏っていた。

「ああ、はい。そうですよ」

「ありがとうございます。よかった。この分なら買えそうですね」

彼がどんな人なのかを探るために、あえて笑顔で話しかけてみた。
するとあちらも警戒をといたのか、アップルパイが好きなのかと尋ねてきた。

「今朝、ニュースを見て恋人が美味しそうと呟いていたのでこっそりプレゼントしようと思って買いに来たんです」

要さんが喜ぶ顔を想像するだけで笑顔になる。
目の前の彼は私に釣られるように自分も同じようなものだと笑顔で教えてくれた。

「タクシー乗り場に向かう途中で可愛い恋人がこの焼きたての匂いに誘われまして……」

その表情が柔らかい。
きっと彼も私同様に愛しい恋人を頭に思い浮かべているのだろう。

そんな話をしている間に、私たちの順番がやってきた。
それぞれ一箱ずつ購入し、ホッと胸を撫で下ろしていると、彼の表情が一気に硬くなったのがわかった。

「どうかしましたか?」

「すみません、私の恋人が警官に声をかけられているので……」

そう話をしながら、彼の身体はもう走り出していた。
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