エリート警察官僚はようやく見つけた運命の相手を甘やかしたくてたまらない!

波木真帆

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怒り震える

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部下から送られてきた報告書と成瀬からの情報をしっかりと頭に叩き込み、私は談話室をでて久代さんのいる特別室に向かった。

静かに扉を開けるとまだ眠っているようでホッとする。
点滴は終わったようで、彼の手にはもう管は繋がっていなかった。
きっと沖野がさっき来た時に外しておいてくれたのだろう。

ベッドの横に置かれた椅子に座り、久代さんの寝顔を見つめていると、やはり表情に疲れの色が見える。
点滴を数時間して、睡眠も同じようにとったおかげで、出会った時の顔色の悪さは改善したようだが、健康体と呼ぶには程遠い。

余命わずかな社長とあの愚かな婿との間に挟まれて、精神的にも辛い中、ストーカー被害にまで遭っていたのなら体調を崩してもおかしくない。

可哀想に……大変な目にあったものだ。

そっと手を伸ばし、彼の頬に触れるとふっと久代さんが笑顔になった気がした。

「――っ!!」

その笑顔があまりにも可愛くて私の心に突き刺さる。
やっぱり彼は私にとって特別な存在なんだろう。

考えてみれば、今まで事件の被害者にここまで寄り添い、そばにいたことなんて一度もない。
いくら眠っていたからといって、一緒に診察室に入るなんてこともありえない。
沖野に気持ちを気づかれるのも当然だな。

自分の中に込み上げてくる彼への想いを自覚しながら、じっと彼を見つめていると

「んっ……」

弱い声が漏れたかと思ったら少しの間をおいて、ゆっくりと瞼が開いていく。

一瞬の驚きの表情のあと、何度か瞬きをしたのは自分が置かれている状況が分からなかったからかもしれない。

「大丈夫ですか?」

「わっ!」

「すみません。驚かせてしまいましたね」

「えっ……あ、まかべ、けいし、せいさん……」

私と出会った時に傾眠状態だった彼に名前を覚えられていた。
それだけで嬉しいが、特別な人に肩書き込みで呼ばれたくはない。
本当は名前で呼んで欲しいところだが、最初から押しすぎるのも良くないか。

「真壁だけで結構ですよ。それより体調はいかがですか?」

「あ、はい。すごく楽になりました」

「それならよかったです。目を覚まされたので一応診察してもらいましょうね」

ブザーを鳴らし、久代さんが目覚めたことを告げるとすぐに沖野が部屋にやってきた。
さっと椅子から離れて沖野と代わると一瞬だが久代さんが不安げな表情をしたことに気づいた。

私の時にはなかった。
医師である沖野より私に安心感を持っているのなら嬉しい限りだ。

そんなことを思いながら、久代さんと沖野の会話を黙って聞いていた。

「過労と寝不足、そして栄養失調の傾向が見られましたので、栄養剤を点滴投与しました。今の体調はいかがですか? 眩暈がするなどといった症状はありませんか?」

「え、っと…‥少し、まだぼーっとしてます、けど……身体は楽になった気がします」

「それならよかったです。最近、食事があまり摂れませんでしたか?」

「あ、ちょっと、その……忙しくて……すみません」

「忙しくても食事と睡眠は摂るようにしてくださいね」

「……はい。わかりました」

「今日はこのまま入院して休んでいただいてもかまいませんが……」

「えっ!? いえいえ、そんなご迷惑はかけられません。もう大丈夫です」

「わかりました。では動けるようになったら帰宅していいですよ」

「ありがとうございます」

迷惑はかけられない、か……。
なら迷惑じゃなければいいんだな。
私はどうやったら久代さんをとどめておけるかを考えていた。

今すぐにでもここから帰りそうな久代さんに

「今度は私から少しお話を聞きたいのでいいですか?」

と声をかけた。

警察の事情聴取だと思った彼は少し不安げな表情でその場にとどまってくれた。

「では私は失礼します」

沖野は立ち上がって部屋を出ていく際に「頑張れよ」と私に小声で囁き出ていった。

私は沖野が座っていた席に戻り、

「少しお話を伺いますね。言いたくないことはおっしゃらなくても結構です」

「は、はい」

「堂本、総合病院……」
「――っ!!」

病院の名前を出しただけでこんなにも怯えるなんて……やっぱり成瀬の情報に間違いはないな。

「そこに何かあなたを不安にさせるものがあるんじゃないですか?」

「い、え。そ、そんなことは……」

「隠さなくてもいいですよ。ストーカー、されているんですよね?」

「――っ!! そんなこと、ないです!」

「その相手に、何か脅されているんですか?」

「――っ、そんなことは……」

「大丈夫です。あなたが不利益になるようなことは絶対にしませんから」

「……ほ、本当、ですか?」

「はい。だから安心して話してください。あなたの力になりたいんです」

そっと彼の震える手を握ると、ピクリと反応したものの彼は私の手を離そうとはしなかった。

「その、実は……数ヶ月前から、電車で……ち、痴漢にあっていて……」

「――っ!!!」

彼が痴漢被害にあっていた。
それだけで腸が煮えくり返る思いがするが、ここは冷静に話を聞かないとな。

「それは同一人物、ということですか?」

彼は小さく頷き、口を開いた。

「最初は偶然手が当たったんだろうと思ったんです。でも、それから毎日触られるようになって……ターゲットにされているんだと思って、電車の時間も車両も変えてみたんですけど何故か必ず現れて……恐怖を感じていた時に……」

「何があったんですか?」

「その、直に……お尻を触られて何かかけられたような感覚がして……それで、慌てて電車を降りてトイレに駆け込んだら、ズボンが切られてて、そこに……その、白い粘液が……」

「――っ!!!」

くそっ! そんなことまでされていたのか!
それは食欲も無くなるし、眠れなくなるはずだ。

怒りを必死に抑えていると、目の前の彼がその時の恐怖を思い出したのか、身体を震わせているのが見えて、私は咄嗟に彼を抱きしめた。
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