エリート警察官僚はようやく見つけた運命の相手を甘やかしたくてたまらない!

波木真帆

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大人げない

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「真壁、さん?」

「あ、すみません。ぼーっとしてしまって。朝食を用意しておきますので、顔を洗ってきてください」

「は、はい。ありがとうございます」

急いで寝室を出てキッチンに向かうが、さっきの姿はなかなか頭から離れなかった。

トーストとオムレツにサラダ、それにスープ。
とりあえず今日のところはこれでいいか、

明日の朝食はもっと手の込んだものにしよう。

スープを温めていると、リビングに久代さんがやってきた。その顔が少し赤い。

「あ、あの真壁さん……」

「はい。何かありましたか?」

「あの、着替えをしようと思ったんですけど、部屋に洋服がなくて……」

パジャマでリビングまで来てしまったから顔が赤いのか。可愛い。
でもそういえば洋服のことに関しては話をしていなかったな。

「ああ、すみません。お伝えするのを忘れていました。申し訳ありません。ご自宅にあった洋服は全て処分させていただきました」

「えっ? そう、なんですか?」

「ええ。久代さんを怖がらせるかと思って黙っていたのですが、あの容疑者の部屋に久代さんの私服姿の写真も数枚あったんです」

「えっ?!」

「おそらく休日に病院にお見舞いに行かれた時のものだと思いますが、容疑者が仲間に久代さんのその写真を見せている可能性もありますので、洋服で久代さんを特定できないようにお手持ちの服を処分させていただきました。勝手なことをしてしまって申し訳ありません」

「い、いえ。真壁さんが私の安全を思ってしてくださったことですから。それに……もうボロボロでそろそろ捨てないといけないと思っていたところだったんです。だから謝らないでください。理由がわかって納得しました」

笑顔を見せる久代さんを見ると少し心が痛い。
特定できないようにという理由は確かにある。
服でかなり印象も変わるから、久代さんの安全のためには変えたほうがいい。
だがそれ以外に、あの男の目に入った服を久代さんのそばから排除しておきたかったという気持ちが大きい。
久代さんには嫌なことを全て忘れてこれから過ごしていってもらいたい。だから全て服を処分したんだ。

「今日中に久代さんの洋服は準備しますから、それまでは私の服を着ておいてください。ちょっと待っててくださいね」

私は前もって今日の服にと準備しておいた服をクローゼットから持ってきて、久代さんに渡した。
彼はそれを持って着替えに向かった。

その間に朝食を準備していると、久代さんが着替えて戻ってきた。
嬉しそうに見えるのは気のせいではないと思いたい。

「あの、どうでしょうか?」

「――っ!! とてもお似合いですよ」

可愛い! と叫びそうになるほど可愛い。
私の服なのに、久代さんが着るだけでこうも可愛くなるなんて驚きだな。

「ありがとうございます。こういうの着るの初めてなんですが、私も気に入りました」

「それならよかった」

少し、いやかなり大きめだが、服の雰囲気はよく似合っている。
この系統で揃えたら良さそうだ。

「さぁ、朝食にしましょう」

椅子に座ってもらい、目の前に料理を並べると目を輝かせてくれる。
最後に温かいスープを出すと、

「美味しそう!」

と可愛い声を聞かせてくれた。

「朝はパン派ですか? ご飯派ですか?」

「どちらも大好きですけど、普段は食パンを齧るだけが多かったです。朝からこんなに作れなくて……真壁さん、すごいですね」

「朝から食べておかないと動けなくなるんですよ。だから、これからは久代さんにも付き合っていただきますね」

「はい。こんな美味しそうな朝食が毎日食べられるなんて幸せです」

可愛い久代さんとの朝食時間はあっという間に終わり、あっという間に出勤時間。
手伝いたいと言ってくれた久代さんに片付けを任せて、私は家を出た。

警視庁に着き、あの資料を見ながらまずは崇史さんに電話をかけた。

すぐに電話をとってくれた彼は、すぐに例の痴漢の件だと気づいたようだ。

ーとりあえずは久代さんへのストーカー行為で逮捕しましたが、家宅捜索をしたところ、痴漢行為の証拠映像が山のように出てきましてすぐに押収しました。その中に平松友貴也さんと思われる人物が大量に映っておりまして、日付を確認したところ、一番古いもので一年半前でした。

久代さんが痴漢行為を受けてから執着されるまでの期間はかなり短かったが、平松さんの場合は、あの容疑者が純粋に平松さんへの痴漢行為を楽しんでいるように見受けられた。おそらく、平松さん自身が痴漢されていることに気づいていなかったために、容疑者の中で絶対に手に入れてやるという対象にはならなかったのではないかと思う。
逆に久代さんは痴漢行為に気付き、車両を変えたり時間を変えたりして対策をとっていたためにかえって容疑者のやる気に火をつけたのではないかと推測している。

平松さんの場合はそれが功を奏したのか、他の被害者のように服を切られるという行為にまでは及ばなかったが、崇史さん的にはそれがよかったのだろう。

とはいえ、犯罪は犯罪だ。

ーそれで、そいつはどれくらいの罪になるんですか?

ー今のところは久代さん以外に数人の被害者を特定して被害届出してもらっていますが、平松さんが被害届を出していただければそれも併せて罪に問えます。どうされますか?

ー平松くんにはこのことを思い出させたくないですから、私が代わって告発します。成瀬弁護士か安慶名さんに代理人をお願いしようと思います。

予想通りの答えに思わず笑みが溢れる。崇史さんが告発しないわけがないからな。
きっと頼むのは成瀬になるだろう。ちょうどいい、成瀬にはもう一つ頼みたいことがあるからな。

私から連絡をとっておくというと、彼はホッとしているように感じられた。
そのまま電話を終えようと思った瞬間、

ーあ、それから久代さんの様子はいかがですか?

と尋ねられて胸がざわついた。
あんなにも久代さんをスルーしたのに、ここで心配する声をかけるなんて……。
だからつい強めの口調で言ってしまった。

ーええ。ご心配には及びません。

ーそう、ですか……それならよかったです、それでは失礼します。

私の声のトーンが変わったことに気づいたのか、崇史さんはそのまま引き下がり電話を切った。

私も大概大人げないな。自分に呆れる。
だがどうしても言わずにはいられなかったんだ。

大きなため息をつきつつ、私は成瀬に電話をかけた。
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