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穏やかな時間
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ちらっと要さんがいるテーブルを見ると、ケーキとワインが置かれているのが見える。
「あれは……」
「悠真くんのところのマンゴーワインと、イリゼホテルのマンゴータルトだよ。都合が悪かったらワインとタルトだけでも持って行きたいって言っていたから、会えてよかったよ」
浅香さんはそんなに要さんと一緒に過ごしたかったんだな。
「こちらこそお誘いいただいて、要さんもすごく喜んでました。こうして夜に友人たちとの時間を過ごすのは初めてだそうですよ」
「初めて? そうか、喜んでくれたならよかった。実は、もう一つ冬貴に届け物があるんだ」
「届け物、ですか?」
周平さんのところに私宛てのものということか?
でもどうして?
「伊織からだよ。冬貴あてに例のチーズケーキを送ってきた」
例のチーズケーキとは、甘いものが苦手な涼平くんが恋人である朝陽くんの誕生日だけは一緒に同じケーキを食べてお祝いをしてあげたいと言い出したことがきっかけで作られたケーキだ。
同じく甘いものが苦手だが唯一チーズケーキだけは食べられる料理上手な倉橋くんと、イリゼホテル石垣の料理人をしている安慶名がタッグを組み、試行錯誤を繰り返し出来上がったもので、その名も『マリアージュ』
最高の組み合わせと名付けられたそのチーズケーキは、私たち仲間内でも特別なケーキだと称されるようになった。
「でもどうして周平さんのところに?」
「確実に受け取れるようにという配慮じゃないか? 冬貴は緊急で家を空ける場合もあるだろう。だから前もって伊織から連絡をもらっていたんだ。まぁ、敬介が久代さんを気に入ったという話を悠真くんにしていたものだから、届け物という理由があれば敬介が久代さんを遊びに誘いやすいと考えたのかもしれない。伊織はそういうところに気が回るからな」
安慶名は私には何も言ってなかったな。
本当にとことん私を驚かせようとする。
もしかしたらサプライズ好きな悠真さんに感化されたのかもしれない。
「伊織のチーズケーキは冷蔵庫に入れてあるから帰る時に持って帰るといい。あれは二人で食べないと意味がないからな」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ私たちも少しワインを楽しむとしようか」
周平さんが立ち上がったので私も付き合い、一緒にキッチンに向かった。
すでに頼んでくれていたワインのつまみのチーズ盛り合わせとグラスを運び、周平さんにワインをお願いした。
「どうだ? いいワインだろう?」
見せてくれたワインのエチケットには<シャトーマルゴー>の文字。
しかも、九十六年当たり年のものだ。
「こんなすごいワインを開けていいんですか?」
「楽しい時間を過ごすにはこれくらいないとな」
ソムリエナイフで開けるのも手慣れたものだ。
あっという間にコルクを抜いた周平さんは、ソムリエ顔負けの動きでテイスティングした後、私のグラスにも注いでくれた。
「あちらはあちらで楽しんでいるようだから、私たちも楽しもう」
要さんと浅香さんの楽しげな声をBGMに乾杯して口に含んだ。
「本当に美味しいですね」
「口に合ってよかったよ」
周平さんとの会話を楽しみながらワインを口にして、時折つまみをいただく。
そんな穏やかな時間が流れる最中、私はあることを思い出した。
「そうだ、氷室から連絡が来たんですよ」
「ほお、もう終わったのか」
連絡が来たと言っただけでもう解決したと思われるほど、周平さんの中で氷室の能力はかなり優秀なものなのだろう。現に優秀なのだが、ここから先の話は流石の周平さんも驚くだろう。
「ええ、ですがそれだけじゃなく例のデザイン料まで全額返還を約束させたそうです」
「なに? 本当か?」
「はい。先日、初めて氷室が舞川さんとビデオ通話で話ができたと報告があったので、その時に周平さんから伺ったあの横領疑惑の話をしていたんです。その時は調査してからまた報告すると伝えていたんですが、氷室と成瀬ですぐに調査に入ってくれたようで、退職の話に会社訪問したついでにデザイン料搾取の件も話をしたそうです。あちらも顧問弁護士を用意していたようですが完璧な証拠の数々に認めざるを得なかったようですね」
周平さんは黙って聞いてくれていたがその表情に驚きの色が見える。
というかあまりの仕事の早さに驚きしかないと言ったところだろう。
「近日中に退職金と一緒に全額返金されたデザイン料が振り込まれるそうですから、それで全て解決です」
「あの名だたる大富豪たちからのデザイン料ならかなりの物だろうな」
「はい。氷室からは九桁目前だと」
その金額には周平さんも驚くかと思ったが、冷静に頷くだけ。
「それくらいあって然るべきだな」
「そんなものですか?」
「ああ、唯一無二のデザインにはそれくらいの対価が与えられるものだよ」
同じような業界にいるとやはりわかる物なのだな。
確かに周平さんのデザインしたドレスも全てかなりの金額がついているし、唯一無二というのはそれだけ価値があることなのだろう。
「明日は冬貴は休みだったな? よければ明日にでも舞川さんと話がしたい。お前の部下に話をしてみてくれるか?」
「わかりました。新海も明日休みですのですぐに連絡を取ってみます」
舞川さんと甘い時間を過ごしているのでなければ電話をとってくれるだろう。
私は新海に急いで電話をかけてみた。
「あれは……」
「悠真くんのところのマンゴーワインと、イリゼホテルのマンゴータルトだよ。都合が悪かったらワインとタルトだけでも持って行きたいって言っていたから、会えてよかったよ」
浅香さんはそんなに要さんと一緒に過ごしたかったんだな。
「こちらこそお誘いいただいて、要さんもすごく喜んでました。こうして夜に友人たちとの時間を過ごすのは初めてだそうですよ」
「初めて? そうか、喜んでくれたならよかった。実は、もう一つ冬貴に届け物があるんだ」
「届け物、ですか?」
周平さんのところに私宛てのものということか?
でもどうして?
「伊織からだよ。冬貴あてに例のチーズケーキを送ってきた」
例のチーズケーキとは、甘いものが苦手な涼平くんが恋人である朝陽くんの誕生日だけは一緒に同じケーキを食べてお祝いをしてあげたいと言い出したことがきっかけで作られたケーキだ。
同じく甘いものが苦手だが唯一チーズケーキだけは食べられる料理上手な倉橋くんと、イリゼホテル石垣の料理人をしている安慶名がタッグを組み、試行錯誤を繰り返し出来上がったもので、その名も『マリアージュ』
最高の組み合わせと名付けられたそのチーズケーキは、私たち仲間内でも特別なケーキだと称されるようになった。
「でもどうして周平さんのところに?」
「確実に受け取れるようにという配慮じゃないか? 冬貴は緊急で家を空ける場合もあるだろう。だから前もって伊織から連絡をもらっていたんだ。まぁ、敬介が久代さんを気に入ったという話を悠真くんにしていたものだから、届け物という理由があれば敬介が久代さんを遊びに誘いやすいと考えたのかもしれない。伊織はそういうところに気が回るからな」
安慶名は私には何も言ってなかったな。
本当にとことん私を驚かせようとする。
もしかしたらサプライズ好きな悠真さんに感化されたのかもしれない。
「伊織のチーズケーキは冷蔵庫に入れてあるから帰る時に持って帰るといい。あれは二人で食べないと意味がないからな」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ私たちも少しワインを楽しむとしようか」
周平さんが立ち上がったので私も付き合い、一緒にキッチンに向かった。
すでに頼んでくれていたワインのつまみのチーズ盛り合わせとグラスを運び、周平さんにワインをお願いした。
「どうだ? いいワインだろう?」
見せてくれたワインのエチケットには<シャトーマルゴー>の文字。
しかも、九十六年当たり年のものだ。
「こんなすごいワインを開けていいんですか?」
「楽しい時間を過ごすにはこれくらいないとな」
ソムリエナイフで開けるのも手慣れたものだ。
あっという間にコルクを抜いた周平さんは、ソムリエ顔負けの動きでテイスティングした後、私のグラスにも注いでくれた。
「あちらはあちらで楽しんでいるようだから、私たちも楽しもう」
要さんと浅香さんの楽しげな声をBGMに乾杯して口に含んだ。
「本当に美味しいですね」
「口に合ってよかったよ」
周平さんとの会話を楽しみながらワインを口にして、時折つまみをいただく。
そんな穏やかな時間が流れる最中、私はあることを思い出した。
「そうだ、氷室から連絡が来たんですよ」
「ほお、もう終わったのか」
連絡が来たと言っただけでもう解決したと思われるほど、周平さんの中で氷室の能力はかなり優秀なものなのだろう。現に優秀なのだが、ここから先の話は流石の周平さんも驚くだろう。
「ええ、ですがそれだけじゃなく例のデザイン料まで全額返還を約束させたそうです」
「なに? 本当か?」
「はい。先日、初めて氷室が舞川さんとビデオ通話で話ができたと報告があったので、その時に周平さんから伺ったあの横領疑惑の話をしていたんです。その時は調査してからまた報告すると伝えていたんですが、氷室と成瀬ですぐに調査に入ってくれたようで、退職の話に会社訪問したついでにデザイン料搾取の件も話をしたそうです。あちらも顧問弁護士を用意していたようですが完璧な証拠の数々に認めざるを得なかったようですね」
周平さんは黙って聞いてくれていたがその表情に驚きの色が見える。
というかあまりの仕事の早さに驚きしかないと言ったところだろう。
「近日中に退職金と一緒に全額返金されたデザイン料が振り込まれるそうですから、それで全て解決です」
「あの名だたる大富豪たちからのデザイン料ならかなりの物だろうな」
「はい。氷室からは九桁目前だと」
その金額には周平さんも驚くかと思ったが、冷静に頷くだけ。
「それくらいあって然るべきだな」
「そんなものですか?」
「ああ、唯一無二のデザインにはそれくらいの対価が与えられるものだよ」
同じような業界にいるとやはりわかる物なのだな。
確かに周平さんのデザインしたドレスも全てかなりの金額がついているし、唯一無二というのはそれだけ価値があることなのだろう。
「明日は冬貴は休みだったな? よければ明日にでも舞川さんと話がしたい。お前の部下に話をしてみてくれるか?」
「わかりました。新海も明日休みですのですぐに連絡を取ってみます」
舞川さんと甘い時間を過ごしているのでなければ電話をとってくれるだろう。
私は新海に急いで電話をかけてみた。
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