ルナマリヤの天秤

雷知

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0-0.アルスの最後

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綺麗。

その人はとても美しかった。
言葉では表現できないほどに綺麗だ、と圧倒された。

【黒の森の大魔女】 ルナマリヤ

それが、目の前の美しい存在を成す名前。
誰に教えられたでもないのに、その名が自然と頭の中に浮かんで、深く刻まれた。

闇夜に白く浮かび上がる肌、ささやかな風になびく艶やかな黒髪。
どこまでも見通されている漆黒の瞳。
唯一の黒の魔女である象徴の黒衣から、細やかな指が出て、一本の大きな木の杖を握っている。

(ああ、きれい、だ。)

辺りは湿地帯なのか、真っ黒な土が水に浸っている。
黒い大地から突き出て伸びた黒い水晶の岩々が沼の水に濡れて、
魔女に会えたことを喜ぶかのように虹色の小さな粒光を無数に宿している。
まるで星々を讃える夜空のようだ。

空には虹色のカーテンが煌めき、遠くから風を呼んでいる。
無数の鐘や鈴の音が頭の中で響いてくる。

魔女を守るように、黒い鳥、黒い蛇、黒い豚がすぐ近くでこちらを見ている。

(くろい、まじょが、きれい)

僕は朝になれば処刑されるはずだった。
大切な人に裏切られて、彼らに免罪を押し付けられて……。
僕は命からがら、この黒の森に逃げ延びて、幾度となく殺されかけて
やっとこの場所にたどり着いた。

僕の死ぬ場所。

だが、もうダメだ。
体がピクリとも動かない。

体が重くて、重くて、どうにもできない。
ぬかるんだ真っ黒い土に埋もれて倒れたまま、もう瞼を開けていることすら難しい。
おそらく、僕アルスは、死ぬ。

このまま、すぐに死ぬ。
このまま、傷だらけで泥だらけのまま無残に死んでいくんだ。
僕の命が燃え尽きて静かに消えようとしている。

(ああ、眠たい――すごく、ねむ、たい)

死の直後、絶望と圧倒的な美を感じながら、このまま消えてなくなるのだろう。
ならば少しでもいいから、一秒でも長く魔女の姿を見ていたい。
湧き出るこの感情は、当然の欲求だと思う。

その欲望を支えにしたが、それでも永遠の眠りには抗えない。
死という眠りに。

(どうか、もう少しだけ――もう少しだけでいいから――)

閉じ行く視界を苦しく思いながらも、僕は最後まで見るのをやめなかった。

そうして、少年アルスは確かに死を迎えた。

_________________
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