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0章
0-1.アルスのはじまり
しおりを挟む(――あたたかい。)
じんわりと全身が暖かな光に包まれたのを感じた。
それは、とても、懐かしい温度で。
「お前は今、死を迎えた。わかるな?」
(――死んだ? そう、死んだはず)
ぼんやりとした思考が、少しずつ定まってくる。
「お前の魂に色が付いた。
よって、お前は循環の輪から外れて、世界の裏側の存在になる」
(――たましいに、いろ?)
「覚醒が鈍いお前には酷な話だが、お前に選択肢はない。
お前の魂は、このまま私が預かることになった」
(――あなたは、だれ?)
「お前は私の名を知ったはずだ」
(――ぼくは、しっている)
「さて、契約をしよう。
私の名を呼んでごらん」
(あなたの、なまえ)
「そうだ。私の名前だ」
(あなたの、なまえ、は、、、そうだ。あなたは――ルナマリヤ)
「そうだ。私の名前はルナマリヤ」
(くろのもりの、だいまじょ、さま)
「お前の名前は?」
(ぼくの、なまえ)
「そうだ。お前の名前だ」
(ぼくの、なまえは――アルス。ただの、アルス)
「そうだ。お前の名前はアルス」
どこからか、女性の歌声が聴こえはじめた。
とても綺麗な綺麗な歌声。
どこまでも突き抜けていく、やわらかなコラール。
「さあ、アルス。
私の手を取りなさい」
ふと、歌声が消えた。
真っ暗で何も見えなかったのに、目の前が暖かな光でいっぱいになる。
「私の弟子となり、私の手足となり、異なる世界たちを渡り歩きなさい」
全身が光で包まれて、火を噴きそうなほど熱くなる。
たまらず真っ白な世界に手を伸ばすと、誰かに手を掴まれた。
――途端に、全身が重くなり光が一瞬で消える。
真っ黒だ。
「目を開けて」
気怠い体に鞭を打って、その声に答えようと瞼を持ち上げる。
目の前には闇に浮かぶ美しい人がいた。
彼女が持つ杖から黒い光が飛んできて、僕の体に張り付いた。
それはすぐに体の中に入り込み、なじむように消えたのが分かった。
「体は、少々いじって使えるよう治したぞ」
僕の体は、どうやら宙に浮いているようだ。
ふと、黒の大魔女ルナマリヤが手を伸ばす。
慈しむように、頬に手が添えられたのを感じる。
彼女に触れられたことに、胸が張り裂けそうなほどの喜びを感じる。
「少年アルス、我々は君の魂を歓迎しよう」
不意に背後から、彼女ではない、誰かに体を支えられた。
瞬時に浮遊感が失せて、その誰かの腕の中に僕は収まる。
誰なのか、わからない。
けれど、そんなことより、目の前の魔女から目が離せなかった。
目の前に広がる世界は、そう。
絶望的にどこまでも綺麗だったから。
「世界の裏側へようこそ」
柔らかく、そしてどこまでも冷めた漆黒の瞳が、金色にキラリと光った。
僕の意識が、暗闇へと落ちた。
そうして、僕は生まれた。
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