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宝の地図で借金返すって本気か!?

25話

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「金ならクランケットの町で払うから、馬車と腕の良い冒険者を貸してくれ。」
いや、もうほんと。この宝の地図の一件は頑張りすぎた。その上で改めて歩いて帰るなんてうんざりなんだよ。もうそろそろ精神的に限界だ。

俺はすがるような思いで町長に願い乞う。
静まる式典会場。
え、ダメなのか?

「あはは!流石はリーダーだな!無欲かよ!」
隣で爆笑し出したリリー。それにつられて会場も謎に包まれた。
「そんなあなただからこそ、ここまでこの町に尽くしてくださったんでしょうね。」
ひとしきり笑った後で微笑みながら話す町長に、俺も釣られて笑ってしまった。

うん、なんか、いい気分だ。

「とびきりの馬車と町一番の運転手を準備させて頂きますね。」
そういうと、町長は式典から姿を消し、そのまま閉会となった。

俺たちはとりあえず宿に戻り、荷物をまとめる。
「ミツルさん!恥ずかしかったんですけど!なんで私をパジャマのまま連れていったんですか?」

殺してやろうかこの天使。
俺は無言のままガブを無視して荷物まとめを進める。
「この町でなら婚活も上手くいきそうな気がするわ!あ、ミツル!私良いこと考えたの!」
荷物をまとめているミシェルが俺に声をかけてくる。やめてくれ、お前のその悩みの理由を恐らく知ってしまっただけに、今までより聞いてて苦しくなる。

「なんだよ、ミシェル!言ってみろよ!」
リリーよ。世の中には知らなくても良いことというのもあるんだぞ。
俺は顔を背け、自分の作業に集中した。

「いい?まず、皆とこうして冒険を続けるの。そうしたら色んなに行くことになるわ。その行く先々で今までみたいにトラブルを解決していくのよ。そうしたらその町の英雄になれるわ!」

この先はクランケットでのんびりと暮らしたかったんだけどな、本当は。

けど、龍の激流触れた今、そういう訳にはもういかないんだろなぁ。せめて、それまではゆっくりしたいのに、それすら出来ないのかよ。

ミシェルは意気揚々と続ける。
「そうしたら英雄が結婚相手探してます!って募集をかけるのよ!もう男が湧いて出てくるわ、困っちゃう!」
1人デレデレとにやけだすミシェル。
ほんともう困っちゃう。この人デビルキングの血を引いてるとか聞いたら卒倒しちゃいそうで。

リリーはミシェルに近づくと、肩に手を置いた。
「まぁ、そうだな。その、頑張れよ!応援してるからな!」
「あら、どうしたの?いつになく応援してくれて。なんか、可愛くなったじゃない。」
違う。リリーも真相を知ってとうとう聞くに耐えなくなっただけだ。
もう、真相言いたくなくなってきた。

そんなこんなで荷物をまとめていると、宿の一階の方から声がかけられた。
「ミツルさんご一行!馬車の支度が整いました!」
さて、出発するとしよう。たった数日とは思えないくらいに濃い時間を過ごしたような気がする。
このアインスの町ともこれでお別れだ。


俺たちが馬車の前につくと、そこにはたくさんの人が待っていた。
人混みを掻き分けて、町長が出てくる。
「いや、皆がどうしても見送りがしたいというので
。」

そうか、こんなにも感謝されると流石に嬉しいな。もう暫くはクエストを受けたくないのには変わりないけど、今度受けたときもこんな風になるなら良いかもな。

俺達はお互いを少し見合うと、照れたような笑みを浮かべ、馬車に乗り込んだ。

「思えば、この旅。初めから最後まで無茶苦茶だったよな。」
俺はふと、懐かしむように呟いた。

「そうですね。リリーさんの借金から旅に出ることになり、馬車を借りれば途中で大破。三日かけて歩いてくれば町は感染症。その治療をしてダンジョンに入れば幽霊騒動に遭い、宝探しかと思えば堕天使の討伐。遺族の運搬に表彰まで。」

「あはは!ほんと無茶苦茶だな!どっと疲れたわ!」
「事の発端が何を偉そうに言ってるのよ。でも、見て。」
ミシェルが見やる方に視線を向けた。

「また来いよー!」
「お前らのこと、忘れないからなー!」
「ありがとう!ほんとうにありがとーう!」
「本当に世話になった!」
「達者でなー!」
たくさんの町の人たちの見送りがそこにあった。

ガブがこっちを見て満面の笑みを見せる。
「良い旅でしたね!」
「あぁ、そうだな。」
俺は少し照れ臭くて、馬車の窓からうつる空に目線を移した。
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