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伝説と衝突って本気か!?

6話

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「にしても旨かったなぁ。正直、初めは悪魔を落とすために旨いって言うつもりだったんだが、ほんとに旨くってビックリした。」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、悪魔はやめて?ちょっと気にしてるから。」
真顔で答えるミシェルの顔が、むしろリアルで怖かった。
 
ゆったりとした、食後の一時。リリーは現在入浴しており、ミシェルは洗い物をしている。
宝探しもとい、目の前のアホ堕天使討伐を追え、ようやく俺たちの日常が帰って来た気がした。
 
俺は目の前にある紅茶に手を伸ばし、少しすすってボーッとする。優雅だ。そして、なんて素晴らしいんだ。
そんな俺の静かな食後の時間を、バラキエルが打ち壊してくれた。
 
「ところでなんだが。」
「どうしたの?バラキエル。」
「おぉ、バラキエルは長いからバラクで良いぞ、悪魔の王。いや、俺はどこで寝れば良いんだ?」
「バラク、悪魔はやめてっていってるの。地味に王様にグレードアップさせないで。」
 
ミシェルの返しにバラキエルはニヤニヤしている。
こいつ、面白がってるな?
あ、あと、俺もお言葉に甘えてバラクと呼ぶことにしよう。どこかの大統領の顔が浮かんでしまうのが玉に瑕だが。
 
…こいつ今寝る場所って言ったか?
こいつ、ここで寝泊まりするつもりか、冗談じゃない。
 
俺はバラクの方を向く。
「おい、バラク。今寝る場所って…」
「ん?仲間になったんだから住んでも良いだろ?金もないし、ここしかないんでな。」
 
なんで、ゴッドはここに天使を送る度に金を渡さないのだろうか。天界は財政難なのか?
「でも、ここにはもう泊まる場所なんてないぞ?」
「あぁ、だから誰かの部屋に入れてもらうわ。」
「いや、俺の部屋は…」
ただでさえ寝付けないというのに、隣に誰かいたら眠れる訳がない。
 
バラクはため息をつくと、俺に真顔で言い放った。
「誰が好きこのんでお前と寝るんだ。俺は男は恋愛対象じゃない。」
その心配じゃねぇよ。
まぁ、良かった。俺の部屋では寝ないらしい。
俺は安心してまた紅茶に手を伸ばした。
 
「俺はガブの部屋で寝るぞ。」
「ちょっと、なぜですか?」
ガブが冷たく言い放った。
「昔一緒によく寝たじゃないか。何を今さら恥ずかしがっているんだ?」
「それ以上余計なこと言ったら、どんな手を使ってでも殺しますよ。」
天使の台詞じゃないな。こいつ、よく堕天しねぇよな。
 
「ガブよ。わがままいってる場合じゃないぞ?お前の部屋に泊めてもらえなかったら、俺はどこで寝れば良いんだ?」
「知りませんよ、勝手にリビングとかで寝れば良いじゃないですか。」
「ベッドじゃなきゃ眠れないだろ。何を訳のわからないことを言ってるんだ。」
わがままってなんだっけ?
 
「あのなぁ、そもそもお前らがあの洞窟から引っ張り出してきたせいで俺は棲みかをなくしたんだぞ?なら、その責任を負うのは当然だろう?」
 ああ、わかった。こいつ無茶苦茶な理屈を押し付けてくるやつか。
頭はまともなやつだと思ったのに、うちのパーティーにはどうして普通の人は来てくれないんだろう。
てか、そもそもとして、完全な人間すら二人しかいないし。
 
強気に出てるバラク。でも、流石にここはガブも怒るだろう。
「ううぅ、最もな意見ですね…。ど、どうしましょう。」
ほんとだよ。どうしてくれようか、こいつの頭を。
こんなのに今まで正月とか祈ってたと思うとアホ臭いな。もう二度と天には祈らない。
 
 
そうこうして、なんとなくガブの部屋に泊まることになりそうになっていた。
「何をそんなに揉めてるんだ?風呂まで聞こえてたぞ?」
湯上がりのリリーがやって来た。
 
「おう、処女!戻ってきたか!」
「待って!本当にその名前はやめよ!?な!?」
良かったな、バラク。日本ならお前今の一発でセクハラだぞ。
 
仕方ないので、俺からリリーに事情を話した。
リリーはうんうんと頷いて少し考える。
「じゃあ、私がミシェルの部屋で寝れば良いんだろ?」
「それです!そうしましょう!でも、リリーさんは良いんですか?その…下着とか…」
「あぁ、まぁ、うん。それは嫌だな。ミシェルの部屋に先に運んでおくわ。」
俺の正面の元堕天使から舌打ちが聞こえてきた。
お前のその神経の図太さはすげぇよ。 
 
「それに、思ってたんだけどな?この家を売って、そのお金と今回の報酬でもう少しだけ大きな家に住まないか?」
「まぁ、そうだな。今回のやつを倒したことでかなりの金になっただろ?それ使えよ。」
お前が倒されたんだろうが。お前は今どんな気持ちでそれを言ってんだよ。
 
「まぁ、そうだな。半年もろくにここに住んでないけど、今後を考えるとそれが良いかもな。場所も変えるのか?」
「あぁ、そのつもりだ。今後のことを考えて、全ての町のおよそ中心にあるツヴァイに行こうかと。」
「いいわね!ツヴァイ!あの町は水の都だものね!」
「じゃあ!決定ですね!ツヴァイ!クランケットから離れるのも名残惜しいですけど、お引っ越し楽しみです!」
 
恐ろしいくらいに話がトントン拍子で進んでいく。
「じゃあ、明日にでも商人に今の家を売って、そのままツヴァイに行こう!」
リリーの司会進行であっと言う間に明日にでも引っ越しとなった。
 
…もう少しゆっくりしようぜ。
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