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「……以前の、奥様でしょうか?」
「いや、最初の妻だ。すまない、できれば顔を合わせたくない」
「はい、わかりました」
いったいこの旦那様と離婚したのはどんな女性なのでしょうか。興味はありましたが、旦那様がそうお望みならば好奇心は飲み込みます。
私はできるだけ旦那様を影にするように、その女性から離れようとしました。
「トライアン」
「えっ……」
驚いて足を止めてしまいました。
どうやって見つけたのでしょうか。
確かに私は旦那様より身長が低いですが、ヒールの高さもあり、旦那様の顔がすっかり見えてしまうことはなかったはずです。
その女性はためらいなく足を踏み出し、まっすぐこちらに向かってきています。見たことのないドレスの生地が、きらきら、歩むたびに輝いています。やわらかそうな髪が上品な輪郭にかぶり、ふわりと彩りました。
貴族女性らしい優雅でゆっくりした動きではありません。けれど身につけているものは上質で洗練されており、上品さを感じます。
この夜会には貴族だけでなく、貴族に招待された商家の方などもいらっしゃいます。そのような方々と似た空気に思いました。
「来ていたの。ねえ、ずいぶんお久しぶりだわ」
「……ああ」
旦那様はこれ以上ないくらいに無愛想に、仕方なさそうに返事しました。
私なら、こんな返答をされたら話を続けようとは思わないでしょう。どれだけ気が利かなくても気づくほどのひどい対応でした。
「ミラレッタ、アイニア嬢だ。私の最初の妻だった」
「……ミラレッタです。どうぞお見知りおきを」
なんとも困りながら、私はひとまず挨拶をしました。アイニア嬢と呼んだのですから、恐らく再婚はしていらっしゃらないのでしょう。
「ええ、よろしく。お会いできて嬉しいわ。ミラレッタさんには申し訳ないと思っていますの」
「……なにか関わりがありましたでしょうか?」
私は首をかしげました。
いま、こうしていることが迷惑といえば迷惑ですが、謝られることでもないでしょう。それにどちらかというと、旦那様にとって迷惑なようです。
「だってほら、トライアンは私を愛しているでしょう?」
私は訝しく彼女を見つめ、それから旦那様を見上げました。
怒るべきかもしれません。ですが彼女の言っていることはあまりに唐突で意味がわかりませんでした。彼女が愛人ならばわかるのですが、離婚した妻なのです。
それに旦那様は完全に顔をしかめてしまっています。
「離婚を言い出したのは君だし、妻でない君を愛し続ける理由がない。私が愛しているのはミラレッタだ」
旦那様らしい誠実で真面目な言葉です。
もしかすると普通の女性なら、そこに不安を感じたのかもしれません。妻であるから愛する、と言っているのですから。
ですが私にとってそれは安心の言葉でした。妻であるから愛する、家族だから愛する、私にとっては感情よりも確かなものに思えるのです。
「いや、最初の妻だ。すまない、できれば顔を合わせたくない」
「はい、わかりました」
いったいこの旦那様と離婚したのはどんな女性なのでしょうか。興味はありましたが、旦那様がそうお望みならば好奇心は飲み込みます。
私はできるだけ旦那様を影にするように、その女性から離れようとしました。
「トライアン」
「えっ……」
驚いて足を止めてしまいました。
どうやって見つけたのでしょうか。
確かに私は旦那様より身長が低いですが、ヒールの高さもあり、旦那様の顔がすっかり見えてしまうことはなかったはずです。
その女性はためらいなく足を踏み出し、まっすぐこちらに向かってきています。見たことのないドレスの生地が、きらきら、歩むたびに輝いています。やわらかそうな髪が上品な輪郭にかぶり、ふわりと彩りました。
貴族女性らしい優雅でゆっくりした動きではありません。けれど身につけているものは上質で洗練されており、上品さを感じます。
この夜会には貴族だけでなく、貴族に招待された商家の方などもいらっしゃいます。そのような方々と似た空気に思いました。
「来ていたの。ねえ、ずいぶんお久しぶりだわ」
「……ああ」
旦那様はこれ以上ないくらいに無愛想に、仕方なさそうに返事しました。
私なら、こんな返答をされたら話を続けようとは思わないでしょう。どれだけ気が利かなくても気づくほどのひどい対応でした。
「ミラレッタ、アイニア嬢だ。私の最初の妻だった」
「……ミラレッタです。どうぞお見知りおきを」
なんとも困りながら、私はひとまず挨拶をしました。アイニア嬢と呼んだのですから、恐らく再婚はしていらっしゃらないのでしょう。
「ええ、よろしく。お会いできて嬉しいわ。ミラレッタさんには申し訳ないと思っていますの」
「……なにか関わりがありましたでしょうか?」
私は首をかしげました。
いま、こうしていることが迷惑といえば迷惑ですが、謝られることでもないでしょう。それにどちらかというと、旦那様にとって迷惑なようです。
「だってほら、トライアンは私を愛しているでしょう?」
私は訝しく彼女を見つめ、それから旦那様を見上げました。
怒るべきかもしれません。ですが彼女の言っていることはあまりに唐突で意味がわかりませんでした。彼女が愛人ならばわかるのですが、離婚した妻なのです。
それに旦那様は完全に顔をしかめてしまっています。
「離婚を言い出したのは君だし、妻でない君を愛し続ける理由がない。私が愛しているのはミラレッタだ」
旦那様らしい誠実で真面目な言葉です。
もしかすると普通の女性なら、そこに不安を感じたのかもしれません。妻であるから愛する、と言っているのですから。
ですが私にとってそれは安心の言葉でした。妻であるから愛する、家族だから愛する、私にとっては感情よりも確かなものに思えるのです。
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