コミュ症の精霊魔術士〜『呪い』持ちのせいで追放されましたが、精霊には超絶愛されてるので問題ありません〜

第1話 コミュ症

「なぁなぁ裕介君！なんか喋ってみろって！俺達と仲良くおしゃべりしようぜ！」

　目の前に居た青年は笑いながらそう言い放つと、僕が座っていた椅子を思い切り蹴り飛ばした。
その結果、僕は盛大に尻もちをつき、隣の机に側頭部をぶつけてしまう。
その様子を見ていた他のクラスメイト達は、『ああならなくて良かった』というような顔をしながら、視線をそらす。

自分達がこの男の遊びの対象にならないようにと。

「あ、あ、あはは……」

　僕は床に零れた食べかけのご飯に目を向け、男にこれ以上ちょっかいを出されないように笑顔を作る。
この行為に何も意味が無いことは自分でも分かっているというのに、僕はそれを止めることは出来なかった。

「ちょっとやめてよね、大和。私の机が汚れちゃうじゃないのよ」
「悪いなぁ香織！でもこいつが悪いんだぜ？俺が折角話しかけてやってるっていうのに、返事も返さないんだからよ！」

　男──大和はそう言うと、僕の頭を踏みつける様に足を乗っけて来た。
話に入ってきた香織はそれを見て呆れたように溜息を零すと、食事をしていた席へと戻っていく。

「そんな暗い奴ほっといて週末の旅行について話しましょうよ。光輝も春奈も何とか言ってやって頂戴！」

　香織は少しむすっとした表情で共に食事をしていた男女へ話しかける。
彼女の言葉を聞いた男は、僕の方を一瞥した後、大和の顔を見ながら話し始めた。

「別にいいんじゃないか？そもそも大和が話しかけているのに、裕介君がそれを無視したのが悪いんだろ？大和が怒る気持ちも俺には分かるよ。直ぐに返事くらい返せばいいだけじゃないか」

　ケロッとした表情で言い放たれた光輝の言葉に、僕の胸はギュッと締め付けられていく。

（……それが……それが出来ないんだよ！！なんで分かってくれないんだ！！）

　昔から人の目を見て喋る事が苦手だった僕は、人と会話を始めるのに常人の倍以上の時間がかかってしまった。
それでも昔はもう少し上手く人と接することが出来ていたのだ。

　それが、大和達と出会ったせいで悪化してしまった。
　
「私も光輝の意見に賛成。でも香織の言うとおり、そんな失礼な人構うのも時間の無駄だと思うけどね」

　光輝の言葉に何度も頷きながら話を続ける春奈。
彼等には僕が抱えている悩みの事など１ｍｍも理解できないのだろう。
だからこんなことが言えるんだ。

　結局、友人達に諭された大和は、「それもそうだな！」と僕の頭から足を離して彼らの元へ行ってしまった。

　僕はホッと胸を撫で下ろし、床に散らばったおかずを手で拾い上げていく。今日はこの程度で済んだ。いつもだったらお昼の時間が無くなるくらい玩具にされてしまうから、それを考えればいくらかマシだ。

　こぼれたおかずを拾い集め、空になった弁当箱へと戻していく。
　
　その瞬間、掴んでいた弁当箱の蓋が跡形も無く姿を消えてしまった。それどころか視界の半分以上を占めていた茶色の机すらも、破片一つ残さず無くなっている。

「え、え、な──」

　目の前で起きた理解不能の出来事に慌てふためく僕だったが、周囲から驚いたような悲鳴が聞こえて来たので、急いで顔をあげて状況を確認する。

　すると、僕の机が消えたように他の生徒達の机や椅子もドンドンと姿を消していった。そして最後の椅子が消えた瞬間、地面に紫色の光が現れ始めた。その光はアニメで見た魔法陣のようなモノを床に描いていく。

　その魔方陣が教室の床一面に広がり、光は一段とその明るさを増していった。

光が収まったとき、教室には何も残ってはいなかった。