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227.旅立ち(魔大陸へ)✔

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 屋敷に戻ると、両親に国王陛下やアルテミシア様、それからお爺様達にも挨拶してきたことを伝えた。

 俺が魔大陸に行くことを聞いて、サーシャが悲しげな顔をしている。

「お兄様、どこかに行っちゃうのです?」

「サーシャを治してくれたエグザイルエルフが、助けてほしいと言っているんだ。お土産を持って、直ぐに帰ってくるからいい子で待っていてね!」

「サーシャも一緒に行きたいのです!」

 サーシャがしがみ付いて来た。

「サーシャ、無理を言ってはダメですよ。アルフレッドを困らせてはいけません!」

 お母様がサーシャを優しく抱きしめ、なだめてくれる。

「お母様、サーシャのことはお願いします。できるだけ早く帰れるようにと思っています!」

「分かっています。無理しないで無事に帰るのですよ!」

 お母様は優しい。しかし、顔には心配の色が見て取れる。

「お父様、領地の事はお願いします。領地の警護はレックスにお願いするので、食事は美味しいものを食べさせてください!」

 お父様は、誰がどう見ても心配そうにしている。

「ああ、任せておけ。体には気を付けろよ!」

「分かりました。気を付けます。カイル兄さんも、お父様を補佐して騎士の仕事も頑張ってくださいね!」

 カイル兄さんに握手を求めると、明るい表情で応えてくれた。

「アルのようには無理だけど任せてくれ。気をつけてな!」

「はい。ありがとうございます」

 俺は、サーシャの横に座っているベスに念話する。

《ベス! サーシャと家族のことを頼んだよ!》

《一緒に行けないのが残念です。レックス家族も護ってくれるのでサーシャ様や、ご家族はお任せください!》

《頼んだよ。サーシャとは念話できそう?》

《できると思いますが、見つかると帰らないといけなくなるかもしれないので……》

《どうしてもという時はお願い!》

《分かりました。チビとベビをお願いします!》

《任せて! じゃあ、行って来るね!》

 カーゴウイングに味噌や醤油などを積み込むと、屋敷の庭から飛び上がる。家族が手を振り続けている。上空で大きく円を描き、別荘に向け進路をとる。

  ◇   ◇

 カーゴウイングを風魔法で、ゆっくりと別荘の前に着陸させる。辺りは大量の土埃や枯れ葉が舞うことになってしまった。

《レックス、ありがとう。変わりはなかった?》

《ないぞ。エルフたちはお前が留守にしている間中、森の中を見回っていたぞ!》

レックスが念話に応じてくれると、家族と集まって来た。

《ちょっとエルフを助けに魔大陸に行って来るから後の事はお願いするね。食事はお父様に出してくれるように言っておいたから!》

《そうか、屋敷に行けば美味しいものが食べれるのだな? 最近はこいつらもかなり連携が取れるようになってきたからな! 俺様達家族に任せておけ!》

 レックスが自分の子供たちを見ながら満足そうにしている。

《チビとベビはもっと大きくなるだろうからママ龍さんの所に連れて行くからね。やっぱり魔大陸で暮らす方がチビとベビにはいいと思うんだ!》

《そうか……チビとベビを連れていくのか!? 寂しくなる! その方がいいのだろうな。だが、大人しく帰るとは思えんぞ! ここになじんでいるからな!》

《だよねー!》

《チビはママやアルママ、レックスおじちゃんとここで暮らすダォ!》

《ベビもここがいいノ》

 いつの間にか、チビとベビがすぐそばまで飛んできていた。

《ふたりとも聞こえていたの?》



 チビとベビが同時に念話してきた。

《ママ龍さんも心配していると思うし、チビとベビは本当なら魔大陸で暮らす筈だったからね。こっちで生まれたのはトラブルが起きたからだよ!》

《それでも嫌ダォ!》《嫌なノ!》

 このままでは難しそうだ、アプローチ方法を変更した方がよさそうだ。

《魔大陸には危険な魔物が多くいるらしいんだ。チビとべビが一緒に行ってくれると助かるんだけどなー》

 チビとべビの様子をチラッ、チラッと窺うが、同意してくれそうには見えない。

《魔大陸に行き、ママ龍さんに会うよ。それでもこっちに帰ってきたいときは、お話してどうするか決めよう! ママひとりだと心細いなー》

 チビとべビが話し合いを始めた。会話は俺に駄々洩れで、二人が俺を護るために一緒に行ってくれることで話がまとまった。

《分かったダォ! アルママはチビが守るダォ!》《分かったなノ! ママはベビが守ってあげるノ!》

《ありがとう! ママを護ってね!》

 そこへ森の中から、エグザイルエルフたちが戻って来た。

「アルフレッド様、どうでしたか?」

 少し心配そうにミルト第二王子が話しかけてきた。直ぐ横でミト第一王女も心配そうにしている。

「お待たせしてすみませんでした。一緒に行きます!」

 ミト第一王女の顔がパッと明るくなったように見えた。

「よかった!」

 ミルト第二王子も胸をなでおろしている。俺は直ぐに出発することを伝え、慌ただしく準備を始める。 

 エグザイルエルフたちと荷馬車で製塩所まで戻って来た。荷馬車を引いてくれたのはレックスの子供たちだ。

「ウーヌス、ドゥオ、トレース、クァットありがとう。助かったよ」

 俺はレックスの子供たちに感謝の気持ちを伝え、持参したスモークした鶏肉を子供たちの口の中に放り込んでやると、一匹ずつ頭を撫でてやる。大人しく撫でられると、鶏肉を催促してくる。追加で口に入れてやると手持ちのスモーク鶏肉が切れた。

「残念。もうない。両手を広げてスモーク鶏肉がないことを伝えた。すると子供たちは離れて行った。

 荷馬車は製塩所の中に戻し、出来立ての塩をエグザイルエルフのお土産にと、白い帆船に積み込む。

 俺が準備したスライムポーションや乳液を、エグザイルエルフ達が白い帆船に積み込んでいる。

 白い帆船が荷を積み込み終わるとロープを解いて離岸した。

 レックスたちに別れを告げ、チビとベビと一緒にハイルーン家の帆船に向かう。

 直ぐに錨をあげると岸壁にいるレックス達に見送られながら、出港した。

 直ぐに白い帆船を追いかける。ハイルーン家の帆船はエグザイルエルフたちの白い帆船よりも、早いため直ぐに追いつくことができた。

 白い帆船のスピードと全く合わない。このままでは一緒に航海は難しい。風魔法でウインチに連結している歯車を回し、二枚の帆を巻き上げ減帆する。これで何とか白い帆船と同じくらいのスピードになりそうだ。

 俺が必死になって操船しているが、チビとベビは帆船の甲板上で寝転がりくつろいでいる。晴天の弱い追い風の中、魔大陸へ向けてハイルーン領を旅立った。

《ママ、あんまり進まないノ!》

《風がないからね!》

《……》なにやらベビとチビが合図をし合ったように見えた。
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