異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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262.5ドワーフの町5(吟遊詩人の話。ほぼ聞き逃したのでガンツさんの話)✔

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 結局ガンツさんは、ミルト達に取引継続の条件をふたつ提示してきた。ひとつ目はグラッパを飲ませること。ふたつ目は酒の製造方法を習うため、帆船にドワーフを乗せること。ミルトがかぶり気味に承諾すると、ガンツさんの機嫌が直った。「今まで通り取引してやる」と言われ、ミルト達エグザイルエルフが顔を見合わせながら〈〈〈良かった〉〉〉と、申し合わせたように念話していた。

 これで問題が解決したなと安堵したけど、ガンツさんとドワーフ達で誰が酒の製造方法を習いに行くかで揉めている。直ぐに決まりそうにないからこの後どうするのかと聞かれた。

 龍の所にエリクシアを貰いに行くと伝えると、滅茶苦茶驚かれた。ドワーフの町でも数日前に大きな龍が目撃され、対策を検討中だったそうだ。しかし、現実的な提案がされないまま、先延ばしになっていた。そこに龍の所へ行くと話が出れば驚くのも分かる気がする。

 町で目撃された龍の色や大きさを聞いたところ、ママ龍さんで間違いなさそうだ。そこで、目撃された龍なら意味もなく襲うことはないと言うと、なぜ、そうだと言えるのか説明を求められてしまった。そのためチビとベビの母親の龍で、会話したことがあると説明するしかなかった。ドワーフたちは驚いていたが、会話できることが分かると少し安心したようにも見えた。

 龍の話題が出たついでにママ龍の言っていた話『勇者が苦難の道を進んで、龍からエリクシアを手に入れる話』について聞いてみた。この話は魔大陸では誰もが知っている有名な話で、俺が知らないことに逆に驚かれてしまった。『正規の手順』についても尋ねてみたけど、言葉自体も聞いたことがないそうだ。

 丁度、吟遊詩人が来ているはずだからと、ガンツさんが連れて行ってくれた。リュートを奏でながら面白おかしく歌い聞かせており、観客が盛り上がっているところだった。話からすると終わりが近いみたいだ。「……勇者は、褒美にエリクシアを貰い、お姫様と幸せに暮らしました」終わってしまった。みんなが盛大に拍手して帽子の中に小銭を入れている。話のほぼ全部を聞き逃してしまった。残念そうにしていたら、ガンツさんが何度も聞いて分かるからと、物語を話して聞かせてくれた。

 内容は、勇者が邪神の使徒を倒すために旅に出て、数々の試練を乗り越えながら、仲間と共に邪神の使徒を倒す。最後は龍からエリクシアを貰って姫様と結婚するハッピーエンドなお話だった。

 話の半分近くは、ドワーフが勇者の仲間で、邪神の使徒を倒すために活躍する話だった。しかし、どこの国の姫なのかは分からずじまいだ。

 ミルトが念話で教えてくれたんだけど、仲間についてはよく分かっていないらしい。どの種族も勇者と自分達が協力して、邪神の使徒を倒したと言うそうだ。これについてはなんとなく分かる気がする。吟遊詩人がその種族を仲間として話を聞かせたからだろう。ちなみにエルフ達の語る物語では、エルフが勇者の仲間として活躍するんだって。

 姫様はどこの国なのか、ミルトに聞いてみたが物語の中では語られていないらしい。ガンツさんが説明を省いたわけではなかった。勇者や仲間は空を飛べるのかも聞いてみたが、そんな話は聞いたことがないそうだ。

 メダリオン王国の絵本の内容とはかなり違っているが、別の話なのかもしれないな。吟遊詩人だと口伝みたいなものだから、何が本当なのかは確認のしようがない。ただ、龍からエリクシアを手に入れる時に、お姫様が一緒だったことに違和感を感じた。

 邪神の使徒のことだけど、これは邪神教の狂信者のことではないだろうか。だとすれば、魔大陸でも古くから暗躍していたことになる。エリクシアの取得も大切な目的だが、邪神教の本部を見つけて潰すことができればいいんだけど、そう都合よくはいかないだろうな。

 宴会のテーブルやイスに使われていた樽には、やっぱりワインが詰まっていたみたいだ。今はほとんどの樽が空になっている。しばらくワイワイと宴会は続いていたが、ワイン樽が空になったため、やっとお開きになるようだ。いくらなんでも飲み過ぎではないだろうか。

 ワイン樽を動かすと沈殿物が再度混ざっている筈なんだけど、ドワーフは渋いワインでも平気なんだろうな。ガンツさんも渋いワインが嫌いではないと言っていたからな。

 よくあれだけ多くの樽を空にできるな。ドワーフとエグザイルエルフは、俺の血はワインでできているとか言いそうだ。

 ベビもチビも辛い料理はあまり好きではないみたいだ。そこで宿の名物が、蜂蜜をかけながら焼く鳥料理だと聞いていたので、宿の食堂に戻ってお願いすることにした。

 二十分ほど待っていると、運ばれてきたのは皮付きの丸々一羽の鳥で、表面は飴でコーティングされているように光沢がある。焼け焦げた部分もあるが、ナイフを入れると、パリッとした皮の下にしっかりと詰まった肉の感触があった。ナイフで切り取りながら食べるそうだ。

 ベビとチビに食べさせたいが、店の皿を使うのは嫌われそうなので、お皿のまま裏のヤーク車置き場に移動した。直ぐに土魔法で皿を作り、鳥を切り分ける。

 ベビとチビはガブリと一口で頬張る。ムシャムシャゴックン。ちゃんと味わって食べてもらえないだろうか。

〈ママ、まだ食べたいノ〉〈もっと欲しいダォ!〉足りないよね。直ぐに三羽を追加注文した。また、二十分ほど待つこととなったが、この町で食べた料理の中で一番美味しかった。

 そのことを宿の人に伝えると喜んでくれた。だが、この調子でふたりに食べ続けられると、ミルトから渡されたお金は直ぐに無くなってしまいそうだ。

 蜂蜜で焼かれた鳥を食べていたら、ソフィア母さんがよく、魔蜂蜜をかけながら鳥を焼いてくれたことを思い出した。みんな元気にしているだろうか。ベスとレックス家族が護っているから、安全面の心配はしていないが、チビがいないからサーシャが寂しがっているかもしれないな。

 ドワーフとの取引継続が決まり、心配事が無くなったからだろう。ミルト達が楽しそうにほろ酔い状態で宿に帰って来た。

 呂律が少し怪しいが「明日朝出発する」と告げて、ミルト達は宿の部屋へと戻っていた。俺も幌ヤーク車にテントを設営しているので、ベビとチビと眠ることにしよう。

 辺りが明るくなり始める頃、ガンツさんの使いだと名乗るドワーフが尋ねて来た。「朝九時に工房に寄ってほしい」と言い残すと早々に立ち去ってしまった。

 なんで呼ばれたんだろうか? 誰が行くか決まったのかな? 行けば分かるか。 遠くでカンカンと金属を叩く音が聞こえ始めた。仕事を始めるのが早過ぎるだろ。近所迷惑だと苦情を言われないのだろうか?
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