異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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319.4グラン帝国潜入調査4(完敗)✔

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 馬車は羽あげ式の橋を渡り、城門を抜けるとどんどんと進んで行く。深そうな堀まで作ったんだな、掘った土は城壁に使っていそうだ。ラウンドアップとラウンドダウンの土魔法だな。これだけ規模がデカいと魔法のスクロールも高くつきそうだ。門番に呼び止められもしなかったな。

「着きました!」

「ここまでありがとうございました!」

 俺は馬車から降りると商人に礼を言い、門に後戻りしようとしたが、後ろは兵士が塞ぐように立っていた。

 商人がにっこりと微笑んでいる。

「魚を届けたいのでそこまで護衛お願いします! さあ、おふたりも一緒にどうぞ!」

 やられた! どこでへましたんだろうか? やはり戦闘を見られたのが致命的だったんだろうな。

 仕方ないな。商人の後について歩いて行く。おい、魚は置いて行くのかよ、ここは商人設定を続けるところだろ!

 新しい城は以前の城より機能的になっているようだ。帝都もお城も臭くないからね。

 城の建物の大きな扉に商人が入って行った。俺達もついて行く。まだ兵士もついて来ている。絶対に逃がさないつもりのようだ。

〈チビ、ベビ、大人しくしていてね、火炎も風の刃も使わないでね!〉

〈任せてダォ! 殴ればいいダォ!〉〈ママ、ピンチなノ? バチーンてやっちゃうノ!?〉

 剣に手をかけるのは止めて!

〈違うから! やっちゃだめだから! ベビ、剣を握らない!〉

 長い廊下を歩き豪華な扉の前に到着した。他の扉とは明らかな違いがある、場所からしても皇帝の部屋の可能性が高い。

「お連れしました!」

 商人が言うと中から扉が静かに開いた。扉の豪華さとは対照的に室内は機能重視で飾り気がない、質素倹約とかだろうか?

「どうぞ、中へ!」

 部屋の正面にグラン帝国の皇帝であるエンゲルベルト、ボルトマン将軍、他にも左右に分かれ、位の高そうな者が立っていた。

 いつ連絡したんだよ、揃ってのお出迎えですか?……そうか、昨日の宿で別れた時だな。

「なかなか姿を見せないから、心配していた! 身長も伸びたようだが、見た目が変わり過ぎているぞ、どうなっているんだ! アルフレッド・ハイルーン公爵!」

 俺が困っている姿を面白がっているのか、皇帝がやたらと楽しそうにしている。なんで俺だとバレたんだ!?

「その顔はなんで分かったんだと言いたげだな! 実は、数日前に邪神教の調査に出ていたワイバーンが、龍に怯えだし、危うく竜騎士もろとも墜落するところだった! それで色々と対策をしておるところにお前が飛んで来たということだ! ボルトマン将軍、後の説明は任せた!」

 暗い中の飛行だったが見つかっていたんだな。なんだよ、最初に気が付かれていたのか、でも暗いから誰かまでは分からないはずだけどな。

「えっ!……ここからは私が説明します!?」

 いきなり説明するように言われたボルトマン将軍が驚いて、顔から汗が噴きだしている。ハンカチで拭きながら説明を始めた。きっと打ち合わせには無かったんだろう、疑問形だったからな。

 帝都の移転は邪神教対策だったんだな。新しく造れば、隠れて邪神教の施設を造るなんて不可能だ。確かにこの方法なら帝都から完全に排除できる。普通なら、考えることはあっても、費用も掛かるし大掛かりだからやらないけどね。

 邪神教の病原菌テロであれだけ大きな被害を出したからなんだろう。もう少し対処が遅れていたら、壊滅的な被害が出ていてもおかしくなかったからな。

 旧帝都に邪神教の狂信者が来ると考え、ひとつずつしらみつぶしに調査していた。治安が悪くなることも織り込み済みで見張っているそうだ。俺はその見張りの網にも引っかかったんだな。
 
 だとしても、偽りの姿の魔道具で別人になっていたんだが、特定される理由にはならない。

「なぜ、僕だと分かったんでしょうか?」

 皇帝が勝ち誇ったような満面の笑みを浮かべる。なんて嬉しそうなんだろうか、なんか負けた気がする。

 ここは潔く『偽りの魔道具』を解除しよう。

 ブロンドの髪で瞳はブルーの青年から、プラチナの髪で両目が黒色の元の姿に戻った。

 その場にいる全員が声を上げ驚いている。特に魔道具に耐性のない子供は目が飛び出そうなほど驚き、口をパクパクさせている。

〈チビ、ベビ、剣を握らない! みんな驚いて声を出しただけだから〉

 チビとベビが少し不機嫌そうにしているが、剣から手を離してくれた。 

「おい、見せてやれ!」

 皇帝が言うと、商人は懐から魔道具を取り出した。魔力鑑定眼に見えていた魔力の塊は、この魔道具で間違いない! この魔道具だが、一定の距離まで近づけば、触れなくても魔力量を測定できるそうだ。

 俺達に近づくと通常よりも離れた場所で魔道具が強く反応したため、邪神教の狂信者だろうと見張りを開始していた。

 邪神教の施設や使徒は、魔石爆弾や、結界の魔道具を使うことが知られており、魔石を持ち歩いていることが多い。だから俺も魔力鑑定眼を使い調査していたんだけどね。

 ゴロツキに目を付けられたため、後を付けた。本当に危なくなるようなら助けるつもりだったそうだ。ところが、襲われると殺すこともなく無力化し、子供には優しく対応している。

『侵略しようとした国に食料を送り、命を差し出そうとした将軍には生きて国のために働けと言い、流行り病が蔓延しているところにやって来て自ら治療する。その上、魔力も強く、龍とも仲がいい』

 連れのふたりの子供からも大きな魔力が溢れており、魔道具をいくつも身に着けている。聞いている通りの人物像の少年、アルフレッド・ハイルーン公爵以外、該当する者など考えられない。声を掛けることにしたそうだ。

 魔道具を発動させたまま近づくと壊れそうだと思ったのは、初めてだったと笑いながら言われた。

 俺の脳裏には、過去に宝玉を壊した時のことが浮かんできた。きっと今の俺が触れば、間違いなく壊すだろう。

 自称、商人の男だが、やはり秘密部隊の隊長だった。他にも旧帝都に何人も潜伏しており、潜入捜査官みたいな兵士までいるそうだ。

 俺達の話を聞いて、ふたりの子供はガタガタと震えっぱなしだ。これだけ大勢の兵士に取り囲まれればそうなるよね。生きた心地もしていないだろうな。

 商人が面倒みると言っていたが、ここまで聞かせたという事は、潜入捜査官に育てようとしていそうだな。犯罪を犯していたのは知られているから、逃げられそうにもない。まだ子供だから、あまり厳しくしないでやってほしいが、他国のことなので口出しするのは止めるべきだろうな。

「お前の領地を見に行くか? 案内しよう!」

 皇帝が散歩にでも行くかのごとく軽い口調で言った。俺の貰った領地まで、馬車なら一日か二日かかる。往復なら二日から四日も留守にすることになるんだが、誰も反対しないんだな。

 皇帝は守りと情報収集に力を注いでいることがよく分かった。今回のグラン帝国潜入調査は俺の完敗だ。うちの領地にも諜報員とか送り込んでいそうだぞ。

 取引が増えて人の動きが多くなったから管理しきれていないんだろうな。俺も任せっきりにしているからな。諜報員とか内通者とかは防ぐのは難しいんだよね。……グラン帝国から移民とか受け入れたんだっけな? 帰ったら、その辺りにもう少し力を注いだ方がいいな
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