異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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336.名誉公爵再び(勇者の懐剣)✔

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 二毛作の確認のために蒔いた籾が無事に芽を出してくれた。失敗した時を考えて種籾は残し、他の田んぼにも直播しておこう。
 
 エグザイルエルフの移住予定地の開拓も順調に進んでいる。俺も土魔法で協力しているし、マシュー商会が全面的に協力しているからね。ミルトとマシューさんはシルクスパイダー製の糸や布の契約を結んだと言っていたな。

 ミルト達は魔法大国アスラダに魔法のスクロールの仕入れや魔大陸製品販売に行き、そのまま帰国すると言って出港して行った。次に帰って来るのは一年後で、その時は大勢連れて来るみたいなことを言っていたな。

 十人が残って移住地の整備をすると聞いていたんだけど、農業法人を視察したことで二十人が自主的に残りたいと申し出たんだってさ。きっとグラッパやブランデーの蒸留方法が習得したいんだろうね。まあ、そのお陰で移住地の整備計画は早めることが出来るんじゃないかな。

 エグザイルエルフは移住予定だから別に驚きはしないんだけど、帰る予定だったガンツさん達ドワーフまで、帰らないと言い出し、船に乗らなかったんだよ。

 お酒の美味しさに魅了されたか、若しくは船酔いが怖くて帰れないのかもしれないんだけどね。船室でダウンしていたドワーフは、「死にそうだった」と何度も言っていたからね。俺が癒しの魔法を行使しなければかなり危険な状態になっていたのは間違いないからね。

 船酔いが原因で帰れないのなら、チビとベビと魔大陸に飛んで行く時に乗っていくか誘ってあげようかな。

 どちらにしても、一年後までここにいることが確定しちゃったからね。住むためには費用が必要になるんだけど、体で払うって言うから驚いたよ。

 どうやらドワーフ的には、鍛冶仕事をして払うという意味だったみたいなんだ。実はガンツさん達ドワーフなんだけど、製鉄技術がメダリオン王国よりも優れていることが分かったんだ。

 これで一気に鉄製品の品質が上がるかもしれない。本当に移住する気があるなら、町の中に鍛冶屋を作ってあげてもいいかな。

 良質な鉄が手に入るようになれば、造りたいものが沢山あるからね。と言っても、自分たちの蒸留器を製造するために、製鉄関係の施設を造らせようとしているだけなのかもしれないんだけどね。

 あれって、銅製だから鉄よりも低い温度で製造することが出来るんだよ。そうなると、製鉄技術の向上が見込めなくなってしまう可能性も出てくる。

 農業法人の奥様方とも打ち解けているようだから、ほっておいてもやってくれるとは思うんだけど、先に製鉄関係の契約を結んだ方がいいのかもしれないな?

 一年もあるんだから、契約は交わしておいて、気長にやっていこう。

□ □ □

 異神国パズズにも何度も通い、爆風竜フラトゥスに襲われてた人々に、エリクシアを使って復元治療も行った。もしもの時のために五個は確保したけど、残りのエリクシアは今回の復元治療で使ってしまったんだ。

 腕や指は容器に浸けたまま移動できるように改良したので、負担も軽減できたんじゃないかな。指の復元だけなら、たったの二日間で元に戻ったからね。みんな驚いていたんだよ。

 脚の復元はエリクシアの容器にタイヤと椅子を取り付ければ、移動はできそうなんだよ。だけど、トイレと寝る方法については課題も残ったままなんだ。

 借りていたバラバラの木簡も子供たちの協力もあって、全部ではないけど復元できたからね。返却の時に子供たちが協力してくれたと説明したら、パズズ王が驚いていたんだよ。

 また、礼はさせてもらうと感謝されたからね。何が貰えるか今から楽しみだな。

 爆風竜フラトゥスに襲われて壊れた城は修復中だし、邪神教の起こした病原菌テロの後処理も残っているから、すぐの話にはならないだろうな。子供たちの喜ぶものが貰えるといいんだけど、言うと催促になりそうだから止めておくよ。

 何度か復元治療の様子を確認に来ていたんだけど、パズズ王の元に呼ばれたんだ。子供たちにプレゼントかと喜んでいたんだけど、予想は見事に外れてしまった。

 俺がグラン帝国の公爵であることをどこから聞いたのか、パズズ王が名誉公爵をくれると言い出したんだ。別にグラン帝国に張り合わなくてもいいのに、こういうところは変に張り合ったりするんだよね。

 名誉なだけで仕事も領地もないが、国から年金がでるんだって、官吏から詳しく説明をされたんだけど、今回のエリクシアを使用した治療費の分割払いみたいなものだったよ。

 神薬エリクシアをあれだけ大量に使ったから相当高額になると言って、俺が死ぬまでくれるんだってさ。俺がとんでもなく長生きしたら困るんじゃないかな。

 名誉公爵の証だからと、木製の長さ50センチメートルで縦横十五センチメートルの細長い四角い箱を貰ったんだ。蓋を開けて見ると中には、パズズ国に自由に入国できる手形と懐剣が納められていたんだ。

 箱に手を入れて懐剣を握るとほんのりと光り出した。なんだこの懐剣、光るようになっているのか?

 あれ? この懐剣に描かれた『三日月に剣』だけど、どこかで見た気がするぞ。……どこで見たんだっけな? あ! 木簡に描かれていた勇者の印に似ている! 

 辺りがざわざわと騒がしくなりだしたが、いったい何が起きているんだ。

 魔道具ではないそうだが、勇者の使った懐剣だと言い伝えられていた。これ以上ない宝を渡すとパズズ王が言い出したため、俺に渡すことに決まったそうだ。

 騒がしくなった理由だけど、勇者が聖剣エクスカリバーを持つと輝いていたと木簡にも書いてあったな。みんなも言い伝えとかでこのことを知っているんだろうな。

 勇者が持つと輝く? 俺の握る懐剣はうっすらと光っているが、輝くとまでは言えないからギリギリセーフだよね。それにこれは懐剣でエクスカリバーでもないしね。

 この懐剣は神聖力にでも反応していそうだな。だから俺が持つと薄っすらだが光り出したんだろう。きっと勇者も神聖力を持っていたんじゃないかな。

 パズズ王が笑顔なんだよね、また面倒なことに巻き込まれた気がしてきたぞ。名誉公爵なんて貰わなければよかった、分割払いだからと、上手に騙された気がしてきたぞ。
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