異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)

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342. 重なる月のルナ(賢者の書き残したもの)✔

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 待ち遠しかったルーナとルナが重なる日がやって来た。

〈アル様、行きましょう!〉

 ベスが念話してきた。

〈ちょっと待って、今行くから!〉

 すぐに料理と食材を詰め込んだ箱を持って庭に出た。ベスとベルは犬の姿をしており一度別荘まで行くと言うので、背中に乗せてもらう。

 サーシャが行きたそうにしていたが、少し遠くに行くと伝えると、アルテミシア様との約束があったみたいで助かったよ。簡単に諦めてくれたんだ。また、チビが迎えに行くんだろうな。待てよ、ベビだけでルナに行けるんだろうか? 少し心配になってきたぞ。

 ベスとベルのスピードがどんどん速くなっているが、不思議なことに風圧を全く感じないんだ。チビやベビと同じようなモノで体を覆い飛んでいるのではないだろうか。ベスのやつ、今まで飛べることを隠していたんだな。

 別荘に到着すると、ベルがレックスからカットしたオーク肉を受け取っている。ルナで焼くつもりなんだろう、火が使えるなら準備した食材で料理もできそうだぞ。

〈レックスが狩ったの?〉

〈ベルに頼まれたから、オーク迷宮に行って狩ってやった!〉
 
 また、上位種のオークを狩りに行ったみたいだな。もしかして火山の噴火で塞がった迷宮に新たな出入口ができたんだろうか?

〈地震は感じなかったけど、新しい迷宮が現れたの?〉

〈以前のオーク迷宮の出入り口を復活させたのだ! どうだすごいだろう……〉

 土魔法を使えるようになったのかと驚いたが違っていた。流石は元魔狼王、風の制御による力押しであの硬い溶岩に大穴を穿っていた。子供たちも協力したと言っていたから、
風の制御が上達していそうだぞ。

〈アル様、ルナとルーナがもう少しで重なるので乗ってください行きますよ!〉

ベスが言う通り、見上げると二つの月が重なりそうな位置に近づいている。ベスの背中に跨るとベスとベルは大きくなりだした。

 ベスとベルの周りに結界のようなものが現れて覆っている。

〈気を付けて行ってこい。オーク肉を好きなだけ焼いて食べさせればいいぞ!〉

 レックス家族が尻尾を振りながら見送ってくれている。 
 
 ベスとベルの体がふわりと浮き上がり、気球のようにどんどんと上昇している。

 地上を見下ろすとレックスたちが豆粒のように小さくなっている。

 さらに上昇を続けていくと空が暗くなってきたので成層圏を出たのだろう。周りの結界のようなものが解除されると、体液が流れ出て即死するんじゃないだろうか?

 ルナはこの星を一日に二周しているんだけど、想像していた月よりも小さくて近い距離を高速で飛んでいるようだ。

 ルーナの方が大きい、ルーナと同じ大きさに見えていたけど、ルナに近づいて初めて大きさに違いがあることを実感した。

 国際宇宙ステーションの高度四百キロメートル、気象衛星ひまわりは三万六千キロメートルになるんだけど、月は三十八万四千四百キロメートルも離れていて、アポロ十一号が到達するのに秒速十一キロメートルで四日と六時間かかって到達しているんだ。

 それをほんの数時間ほどでルナに到着したからね。それに月から地球を撮影した映像よりも、国際宇宙ステーションから地球を見た動画の方が近いんだ。

 実際にはもう少し離れているようだけどそれでも月との距離よりは、はるかに近い所を周っているようだ。ルナからルーナの距離の方が離れているんじゃないかな。

 ルナの周りには結界が張られており、ベスの周りを覆っていた結界ごと吸収されるようにすり抜けた。

 地表には草木や水もあるようなので空気もあるな。

 あ、小さな建物がふたつ見えて来たぞ。

 ベスの結界が解除されゆっくりと着陸した。人工衛星よりも少し高高度を飛んでいるみたいだ。

〈到着しました!〉

〈ありがとうべス、ベルお疲れ様!〉

 建物は土魔法で造られているようで、長方形のマッチ箱のような形をしている。

 予想になるが、ほとんど雨は降らないんじゃないかな。だって結界までそんなに離れていないから雲とか無さそうだからね。

 ルナだが、どう見ても自然にできたモノではなさそうだ。きっと女神様が造ったんじゃないかな。もし、賢者アールス・ハインドが造ったとしたらとんでもない魔法師ということになるだろう。

 小さいからだろうね、大気に動きが感じられない、風がないんだ。

 建物に窓ガラスが嵌っていない、というかドアすらなかった。室内が丸見えになっている。机に本棚、怪しげな実験道具が見える。

 建物に入ると机の上に木簡が積み上げられていた。

 何が書いてあるんだ。…… 

 お前がこれを読んでいるという事は、無事に転生して戻ることができたんだな。

 女神様とワシの計画は順調に進んでいるか?

 きっと、ワシの記憶は失われているはずだから、大事なことを書き残しておいた。

 女神様が、運がよければ記憶が戻るかもしれないと言っておられたが、かなり可能性は低いらしいからな。

 邪神のことから書くとするか。

 前の勇者が王族に嵌められ、恨んだ結果、力を制御できなくなり邪神になってしまった。

 勇者は意識を保てている際に、何度も倒してくれと言っていたが、勇者の力の暴走にどうすることもできなかった。

 ワシもボロボロになり、聖女の癒しの魔法に助けられながら何度も倒す努力はしたんだぞ。しかし、邪神と言えど、神と名が付く存在に人であるワシや聖女がどうにかできるはずなどなかった。聖女が大怪我をさせられてからは、逃げ伸びるのが精いっぱいの悲惨な状況になってしまった。

 女神様は邪神に直接、手を下すことは出来ないそうだ。ならばと考えたのが転生を繰り返す方法だ。

 女神様は転生させる際に、一人にひとつの力を授けることができるそうだ。本来、転生の際は以前の力を抹消するらしいが、うっかり消し忘れれば引き継げるのではないかという話になり、ワシはこの計画を思いついた。

 ひとりの人間に賢者、勇者、聖人の力を授けるのだ。そうすれば、神に近い存在になるのではないかとな。

 邪神を倒す方法だが、勇者の亡骸に聖剣エクスカリバーを突き立てれば倒せるのではないだろうか。誰もやったことなどないから、成功する保証は出来んがな。

 いいか、聖剣エクスカリバーは勇者でなければ扱うことはできんぞ。邪神の攻撃は苛烈を極めるから、近づくためには聖人の力により傷を癒し続けるしかない。

 ひとりに力を授かることなど、女神様も初めてのことで、体が耐えられんかもしれんがな。

 全ての力を引きだすことができなければ、神を倒すことなど不可能だぞ!

 邪神を安らかに眠らせてやってくれ、転生したワシよ後は頼んだぞ! 

 賢者アールス・ハインド
 
 邪神が前の勇者だったんだ!!……爆風竜フラトゥスが持ち去った棺だが、勇者の亡骸の可能性が高いな。

 俺は賢者で勇者で聖者だったなんて! もう無茶苦茶だな! マイバイブルのラノベでは見たことがないぞ。 

 突っ込みどころが多すぎて頭が整理できないな。
 
 まずは聖剣エクスカリバーを探さないと邪神を倒せる可能性はないみたいだな。しかし、とんでもない事が書かれていた。

 ベスはこのことを知っていたんだな。

 前世でのプログラミング無双は賢者の力、古武術無双は勇者の力だったんだな。この異常なまでの癒しの魔法は聖人の力。

 もしかして、聖人の力に気が付いていたら過労死も防げたのか……死んだ後で聖人の力を授かっているから無理だな。書いてなかったがあれも計画されたことなんだろうか?

 魔法の無詠唱や同時発動は賢者の力だな!……なんかストンと胸に収まった。

 まさか邪神を倒すための転生だったなんてビックリだ。もっと力を使えるようにならないと邪神は倒せそうにないな。
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