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379.メダリオン王家の存続危機(爆弾発言)✔
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緊急鳩便で国王陛下からの呼び出しが届いた。何が起きたのかと慌てて登城したんだ。直ぐに対処できるようにと飛行中に色々とシミュレーションしてみたんだけど、俺の予想は外れてしまった。というかこんなの当たらないよ。
キャスペル殿下に婚約の話をしても全く興味を示さないと相談されたんだ。俺にそんな相談されてもね、本人にその気がないのにどうしろって話だよね。
王妃様からも真剣な表情で言われたし、アルテミシア様も真剣なんだよ。途中まではそうですかと話半分的な感じで聞いていたんだけど、陛下がとんでもない爆弾を投下してきたんだ。
もしキャスペル殿下が婚姻しないときは、俺とアルテミシア様にこの国を継がせる可能性があると言うんだよ。だからアルテミシア様もこんなに真剣になっているんだな!
きっと、俺がそこまで真剣に考えていないことを感じ取ったんだろうね。完全にミスったよ、どこで気が付かれたんだろうか? おかしな態度とかしてはいないんだけどな、反省しないとね。キャスペル殿下がいるのに押しのけて国王とか絶対に嫌だよ。
本気で協力しないと酷い目に遭いそうだ。そうだ、かわいい双子の赤ちゃんを見たら欲しくなるかもしれない、そのために結婚する気になるかも……。
結婚しないと有名だったエンゲルベルト皇帝も、生まれた子供にデレデレなんだから、キャスペル殿下も可能性があるんじゃないかな。
それにポート公爵家の四姉妹とかキャスペル殿下にもってこいだよね。身分的にも釣り合うし、みんなかわいかったよ。俺達がやらされた一対多数のお見合いをキャスペル殿下にも経験してもらえばいいよね。
本当の事を言うと、俺が双子の赤ちゃんを見たいだけなんだけどね。流石にキャスペル殿下と婚約者のアルテミシア様が一緒なら四姉妹も絡んでこないよね。
早速、陛下と王妃様に提案すると、「ポート公爵家か……よろしく頼む!」陛下が考えてから了解が出たんだ。王妃様は四人とお見合いになると伝えたら、すごく嬉しそうにしていたからね。ただ、気がかりなのは陛下の態度なんだよね。
知らないと上手くいかなくなることもあるから聞いてみたんだよ。
王妃様がポート公爵家の五人はどうかと話したことがあるそうなんだ。聞く耳すら持ってはくれなかったみたいだけどね。キャスペル殿下には想い人でもいるのかな? キャスペル殿下にそういった話がないんだよね。お茶会とかパーティーとかも好きではないみたいだからね。
脚が元に戻ってからというもの、熱心に魔法剣士の訓練に取り組んでおり、フラムソードの火の魔法も発動できるようになったし、身体強化魔法も上達したから楽しくて仕方ないんだろうね。
一度は諦めかけていたから、反動がでているんじゃないかな。だとすると、脚を治して魔法を使えるようにした、俺にも少しは責任があることになるのかな?
アルテミシア様と打ち合わせして、キャスペル殿下を連れ出してもらうことになった。
ベビにお願いすれば日帰りできて、道中の護衛は必要ないからね。
そうそう、精霊が出してくれた案なんだけど、赤ちゃんを見るためだけに使うようなものではなかったよ。光学迷彩のようなモノといえば伝わるかな、精霊が体の周りを覆ってくれて、周りの映像に合わせて見えなくしてくれるんだ。
最初はすごくいいなと思ったんだけど、この方法には大きな欠点があったんだよ。試してみたんだけど、見えないせいで、人が多い場所だと高確率でぶつかられるんだ。ドアの開閉のタイミングも、認識されていないからまだ通過していないのに閉められたからね。
潜入や隠密行動にはすごくいいけど、赤ちゃんの顔を見るためには向かないかな。ぶつかられた時の言い訳も苦しいからね。
それに魔石爆弾によるテロが横行してからというもの、上位貴族は魔力を測る宝玉を使用するようになっているんだ。だからその前を通れば、ピカって反応するんじゃないかな。この魔道具の設置にも俺が関与しているんだけどね。我ながらいい仕事していると思うよ。
計画は順調に進んでいるそうで、キャスペル殿下をアルテミシア様が連れ出す日時が決まったと連絡があったんだ。
ベビの背中に六人乗りの籠を取り付けていたら、サーシャも双子の赤ちゃんが見たいと言い出した。
籠に乗り込み俺の膝にサーシャを乗せ……られなかった。以前の俺なら膝に乗せられたんだが、乗せるとサーシャで前が見えないため並んで座ったよ。早く元の身長に戻りたい……。
〈ベビ、メダリオン城の中庭に向かってくれる?〉
〈任せてなノ!〉
ベビはゆっくりと上昇するとグンとスピードを上げた。以前よりもスピードが出ている、それに風を全く感じない。風の制御が完璧にできているな。
予定よりも早くメダリオン城に到着してしまった。ゆっくりと中庭に降下する。まだ、早かったはずなのに、キャスペル殿下とアルテミシア様が現れた。いつでも出発できるように、準備して待っていてくれたようだ。
着地すると籠に乗り込んできた。俺の前の席にキャスペル殿下とアルテミシア様が座った。
「おはようございます、今日はいい天気ですね」
「天気はいいな、アルフレッド、どうしたんだ? 小さくなって変わってしまったのか?」
「前と変わっていませんよ」
「なんか様子がおかしいな」
キャスペル殿下に疑われてしまった。アルテミシア様がちょっと頬を膨らませており、目でしっかりしてくださいと言われているようだ。
つい、隠しているお見合いのことが後ろめたくて、態度に出てしまったようだ。
「アルテミシアお姉ちゃん、キャスペルお兄ちゃん、サーシャ会えて嬉しいノ!」
サーシャが満面の笑みで挨拶し、俺は救われた。
「サーシャちゃん、わたしも会えて嬉しいわ!」
アルテミシア様もにっこり微笑んで挨拶を返してくれた。
「サーシャおいで!」
キャスペル殿下がそう言うと、俺の横に座っていたサーシャはベルトを緩めて、下に降り、そのまま一八〇度向きを変えると万歳をした。
キャスペル殿下は慣れた手つきでサーシャを抱き上げると膝の上に座らせ、ベルトを締めた。
「準備できたぞ!」「やったーなノ!」
キャスペル殿下の膝の上でサーシャは嬉しそうにしている。
俺はアルテミシア様に目で合図した。すると小さく横に首を振る、どうやらいつものことのようだ。
以前にもロリコンなのかと疑ったことがあったが……「お兄ちゃん」と呼ばせているし、考え過ぎだろうな。
ポート公爵の城が見えてきた。ハイルーン領の半分の距離なので直ぐに到着した。結婚式の準備の時も龍が現れるとものすごい騒ぎになっていたが、今日も大変な騒ぎになっている。早く着地して人化させないと怪我人が出てしまう。
ベビは新調したワンピースが気に入っており、よく似合っている。といっても、持ち運べるようにシンプルなスパイダーシルク製のワンピースなんだけどね。
案内されて城の一室に向かう。サーシャはキャスペル殿下に抱えられており歩く気はないみたいだ。何度も止めなさいと言ったが、キャスペル殿下とアルテミシア様が甘やかすんだ。きっと、俺がいない間もこんな調子だったんだろうな。
廊下を進んでいると、小さいが元気な泣き声が聞こえてきた。さらにもう一つ泣き声が加わった。ひとりが泣きだすとつられて泣きだしたんだろうな。きっと並んで寝かされているんじゃないかな。
部屋に案内されると中からドアが開かれた。普段は乳母が赤ちゃんの世話をするはずなので、俺達が来るから連れて来てくれたんだろう。
ポート公爵を筆頭に家族が並んで出迎えてくれる。王族のふたりが来るとなればそうなるよね。
当たり障りのない挨拶を交わして、双子の寝かされたベットを覗き込む。今日は妹の四姉妹も大人しい、ちゃんとキャスペル殿下にアピールしてくれないと困るんだけどな。
事前に伝えておいたんだけどちゃんとお願いしますよ。ポート公爵と夫人に視線で合図し合う。ふたりは小さく頷くと四姉妹の背中を軽く押した。
キャスペル殿下だけ知らない一対五人のお見合いの始まりだ。俺は未婚の長女セシルさんもお見合いの人数にカウントしているんだけど、参加する気はないみたいだ。
俺はいいからキャスペル殿下にほら、アプローチしてよ。なんで小さな俺に絡んでくるんだよ。俺は赤ちゃんを見に来たんだからね。情けないがアルテミシア様に視線で助けを求める、するとアルテミシア様が俺の横に入り込んでガードしてくれた。
ありがとうアルテミシア様。やっと、ターゲットをキャスペル殿下に定めたようで四人が取り囲むように近づいて行く。しかし、相手は王太子だからだろう、俺の時のように絡んで行かない。というか、サーシャを抱きかかえているキャスペル殿下に絡みにくいのかもしれない。
二人が双子の赤ちゃんが可愛いと話しているが、妹たち四人は二人の間には入れないようだ。サーシャを連れて来たのは失敗だったかもしれない、これでは進展しにくいぞ。
後ろを振り向いて確認したらポート公爵も夫人も俺と同じように渋い表情をしていた。申し訳ない。次はサーシャに留守番させますから許してください。
四姉妹から「あなた行きなさい」、「婚約」とか聞こえてくる。今回は失敗だな、これでは進展は見込めそうにないぞ。
さっきの「婚約」という言葉にキャスペル殿下が一瞬反応していた。
胃が痛くなってきたぞ。こんなに子供の体なのに胃が痛くなるんだと新たな発見をしてしまったよ。あ、でも、もう治ったけどね。俺の体だが自己治癒能力が異常に高いんだ。指を切ってもすぐに修復されるからね。やってみようとは思わないけど、指なら欠損したらニョキリと生えてきそうで怖いんだよ。
ちょっと赤ちゃんを抱かせてほしいと思いはしたが、首が座っていないため、自重した。首が座ってからもう一度見に来よう。その時はサーシャはお留守番させないとね。
進展のないまま、メダリオン城に向かって飛行している。陛下と王妃様になんて報告すればいいだろうか? かなり期待していたからな……あー胃が痛い、直ぐに治るけどね。
「ねえ、キャスペルお兄ちゃんは婚約しないノ!」
突然、サーシャが上目遣いにキャスペル殿下を見上げながら、とんでもない爆弾を投下した。俺とアルテミシア様は大きく目を見開き戸惑いまくっている。キャスペル殿下は膝に乗せているサーシャの顔を見ており微笑んだままだ。
キャスペル殿下がどう答えるのか固唾をのんで待つ。
「……まだいらないかな、どうしてもという時はアルテミシアとアルフレッドに任せればいいからね!」
そう言うとこれ以上ないほどの笑みを浮かべて、俺とアルテミシア様に視線を投げかけてきた。これは、黙ってお見合いを設定した仕返しだろうか? サーシャの発言にも怒っていないようだからいいのかな、サーシャこれ以上何も言っちゃだめだよ。心の中で祈る。
「サーシャがキャスペルお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるノ!」
「「へ!」」「ほう!」
俺とアルテミシア様がおかしな声をハモらせてしまい、キャスペル殿下はまんざらでもなさそうな表情をしている。サーシャときたらなんてドヤ顔なんだろうか。これは相手がいないならサーシャが結婚してあげようか的な発想なんだろうな。
「サーシャは優しいね、どうしようか、サーシャが成人した時にまだそう思うなら考えようかな?」
「ふーん、サーシャはアルお兄ちゃんとアルお姉ちゃんの次にキャスペルお兄ちゃんのこと好きなノ! 家族になってあげるノ!」
サーシャは悪びれた様子もなく天使のような微笑みを振りまく。珍しくキャスペル殿下が「三番目か」と言って大笑いしている。
カオスな時間が過ぎ、メダリオン城に戻って来た。とても報告できそうにない、アルテミシア様、報告はお願いします。視線で合図してみたが首をブンブンと横に振られてしまった。
俺は疲れ果て、報告義務を忘却の彼方へ投げ出すと帰路についた。
疲れたのだろう、サーシャは頭を俺の膝に乗せて横の席で眠っている。
キャスペル殿下に婚約の話をしても全く興味を示さないと相談されたんだ。俺にそんな相談されてもね、本人にその気がないのにどうしろって話だよね。
王妃様からも真剣な表情で言われたし、アルテミシア様も真剣なんだよ。途中まではそうですかと話半分的な感じで聞いていたんだけど、陛下がとんでもない爆弾を投下してきたんだ。
もしキャスペル殿下が婚姻しないときは、俺とアルテミシア様にこの国を継がせる可能性があると言うんだよ。だからアルテミシア様もこんなに真剣になっているんだな!
きっと、俺がそこまで真剣に考えていないことを感じ取ったんだろうね。完全にミスったよ、どこで気が付かれたんだろうか? おかしな態度とかしてはいないんだけどな、反省しないとね。キャスペル殿下がいるのに押しのけて国王とか絶対に嫌だよ。
本気で協力しないと酷い目に遭いそうだ。そうだ、かわいい双子の赤ちゃんを見たら欲しくなるかもしれない、そのために結婚する気になるかも……。
結婚しないと有名だったエンゲルベルト皇帝も、生まれた子供にデレデレなんだから、キャスペル殿下も可能性があるんじゃないかな。
それにポート公爵家の四姉妹とかキャスペル殿下にもってこいだよね。身分的にも釣り合うし、みんなかわいかったよ。俺達がやらされた一対多数のお見合いをキャスペル殿下にも経験してもらえばいいよね。
本当の事を言うと、俺が双子の赤ちゃんを見たいだけなんだけどね。流石にキャスペル殿下と婚約者のアルテミシア様が一緒なら四姉妹も絡んでこないよね。
早速、陛下と王妃様に提案すると、「ポート公爵家か……よろしく頼む!」陛下が考えてから了解が出たんだ。王妃様は四人とお見合いになると伝えたら、すごく嬉しそうにしていたからね。ただ、気がかりなのは陛下の態度なんだよね。
知らないと上手くいかなくなることもあるから聞いてみたんだよ。
王妃様がポート公爵家の五人はどうかと話したことがあるそうなんだ。聞く耳すら持ってはくれなかったみたいだけどね。キャスペル殿下には想い人でもいるのかな? キャスペル殿下にそういった話がないんだよね。お茶会とかパーティーとかも好きではないみたいだからね。
脚が元に戻ってからというもの、熱心に魔法剣士の訓練に取り組んでおり、フラムソードの火の魔法も発動できるようになったし、身体強化魔法も上達したから楽しくて仕方ないんだろうね。
一度は諦めかけていたから、反動がでているんじゃないかな。だとすると、脚を治して魔法を使えるようにした、俺にも少しは責任があることになるのかな?
アルテミシア様と打ち合わせして、キャスペル殿下を連れ出してもらうことになった。
ベビにお願いすれば日帰りできて、道中の護衛は必要ないからね。
そうそう、精霊が出してくれた案なんだけど、赤ちゃんを見るためだけに使うようなものではなかったよ。光学迷彩のようなモノといえば伝わるかな、精霊が体の周りを覆ってくれて、周りの映像に合わせて見えなくしてくれるんだ。
最初はすごくいいなと思ったんだけど、この方法には大きな欠点があったんだよ。試してみたんだけど、見えないせいで、人が多い場所だと高確率でぶつかられるんだ。ドアの開閉のタイミングも、認識されていないからまだ通過していないのに閉められたからね。
潜入や隠密行動にはすごくいいけど、赤ちゃんの顔を見るためには向かないかな。ぶつかられた時の言い訳も苦しいからね。
それに魔石爆弾によるテロが横行してからというもの、上位貴族は魔力を測る宝玉を使用するようになっているんだ。だからその前を通れば、ピカって反応するんじゃないかな。この魔道具の設置にも俺が関与しているんだけどね。我ながらいい仕事していると思うよ。
計画は順調に進んでいるそうで、キャスペル殿下をアルテミシア様が連れ出す日時が決まったと連絡があったんだ。
ベビの背中に六人乗りの籠を取り付けていたら、サーシャも双子の赤ちゃんが見たいと言い出した。
籠に乗り込み俺の膝にサーシャを乗せ……られなかった。以前の俺なら膝に乗せられたんだが、乗せるとサーシャで前が見えないため並んで座ったよ。早く元の身長に戻りたい……。
〈ベビ、メダリオン城の中庭に向かってくれる?〉
〈任せてなノ!〉
ベビはゆっくりと上昇するとグンとスピードを上げた。以前よりもスピードが出ている、それに風を全く感じない。風の制御が完璧にできているな。
予定よりも早くメダリオン城に到着してしまった。ゆっくりと中庭に降下する。まだ、早かったはずなのに、キャスペル殿下とアルテミシア様が現れた。いつでも出発できるように、準備して待っていてくれたようだ。
着地すると籠に乗り込んできた。俺の前の席にキャスペル殿下とアルテミシア様が座った。
「おはようございます、今日はいい天気ですね」
「天気はいいな、アルフレッド、どうしたんだ? 小さくなって変わってしまったのか?」
「前と変わっていませんよ」
「なんか様子がおかしいな」
キャスペル殿下に疑われてしまった。アルテミシア様がちょっと頬を膨らませており、目でしっかりしてくださいと言われているようだ。
つい、隠しているお見合いのことが後ろめたくて、態度に出てしまったようだ。
「アルテミシアお姉ちゃん、キャスペルお兄ちゃん、サーシャ会えて嬉しいノ!」
サーシャが満面の笑みで挨拶し、俺は救われた。
「サーシャちゃん、わたしも会えて嬉しいわ!」
アルテミシア様もにっこり微笑んで挨拶を返してくれた。
「サーシャおいで!」
キャスペル殿下がそう言うと、俺の横に座っていたサーシャはベルトを緩めて、下に降り、そのまま一八〇度向きを変えると万歳をした。
キャスペル殿下は慣れた手つきでサーシャを抱き上げると膝の上に座らせ、ベルトを締めた。
「準備できたぞ!」「やったーなノ!」
キャスペル殿下の膝の上でサーシャは嬉しそうにしている。
俺はアルテミシア様に目で合図した。すると小さく横に首を振る、どうやらいつものことのようだ。
以前にもロリコンなのかと疑ったことがあったが……「お兄ちゃん」と呼ばせているし、考え過ぎだろうな。
ポート公爵の城が見えてきた。ハイルーン領の半分の距離なので直ぐに到着した。結婚式の準備の時も龍が現れるとものすごい騒ぎになっていたが、今日も大変な騒ぎになっている。早く着地して人化させないと怪我人が出てしまう。
ベビは新調したワンピースが気に入っており、よく似合っている。といっても、持ち運べるようにシンプルなスパイダーシルク製のワンピースなんだけどね。
案内されて城の一室に向かう。サーシャはキャスペル殿下に抱えられており歩く気はないみたいだ。何度も止めなさいと言ったが、キャスペル殿下とアルテミシア様が甘やかすんだ。きっと、俺がいない間もこんな調子だったんだろうな。
廊下を進んでいると、小さいが元気な泣き声が聞こえてきた。さらにもう一つ泣き声が加わった。ひとりが泣きだすとつられて泣きだしたんだろうな。きっと並んで寝かされているんじゃないかな。
部屋に案内されると中からドアが開かれた。普段は乳母が赤ちゃんの世話をするはずなので、俺達が来るから連れて来てくれたんだろう。
ポート公爵を筆頭に家族が並んで出迎えてくれる。王族のふたりが来るとなればそうなるよね。
当たり障りのない挨拶を交わして、双子の寝かされたベットを覗き込む。今日は妹の四姉妹も大人しい、ちゃんとキャスペル殿下にアピールしてくれないと困るんだけどな。
事前に伝えておいたんだけどちゃんとお願いしますよ。ポート公爵と夫人に視線で合図し合う。ふたりは小さく頷くと四姉妹の背中を軽く押した。
キャスペル殿下だけ知らない一対五人のお見合いの始まりだ。俺は未婚の長女セシルさんもお見合いの人数にカウントしているんだけど、参加する気はないみたいだ。
俺はいいからキャスペル殿下にほら、アプローチしてよ。なんで小さな俺に絡んでくるんだよ。俺は赤ちゃんを見に来たんだからね。情けないがアルテミシア様に視線で助けを求める、するとアルテミシア様が俺の横に入り込んでガードしてくれた。
ありがとうアルテミシア様。やっと、ターゲットをキャスペル殿下に定めたようで四人が取り囲むように近づいて行く。しかし、相手は王太子だからだろう、俺の時のように絡んで行かない。というか、サーシャを抱きかかえているキャスペル殿下に絡みにくいのかもしれない。
二人が双子の赤ちゃんが可愛いと話しているが、妹たち四人は二人の間には入れないようだ。サーシャを連れて来たのは失敗だったかもしれない、これでは進展しにくいぞ。
後ろを振り向いて確認したらポート公爵も夫人も俺と同じように渋い表情をしていた。申し訳ない。次はサーシャに留守番させますから許してください。
四姉妹から「あなた行きなさい」、「婚約」とか聞こえてくる。今回は失敗だな、これでは進展は見込めそうにないぞ。
さっきの「婚約」という言葉にキャスペル殿下が一瞬反応していた。
胃が痛くなってきたぞ。こんなに子供の体なのに胃が痛くなるんだと新たな発見をしてしまったよ。あ、でも、もう治ったけどね。俺の体だが自己治癒能力が異常に高いんだ。指を切ってもすぐに修復されるからね。やってみようとは思わないけど、指なら欠損したらニョキリと生えてきそうで怖いんだよ。
ちょっと赤ちゃんを抱かせてほしいと思いはしたが、首が座っていないため、自重した。首が座ってからもう一度見に来よう。その時はサーシャはお留守番させないとね。
進展のないまま、メダリオン城に向かって飛行している。陛下と王妃様になんて報告すればいいだろうか? かなり期待していたからな……あー胃が痛い、直ぐに治るけどね。
「ねえ、キャスペルお兄ちゃんは婚約しないノ!」
突然、サーシャが上目遣いにキャスペル殿下を見上げながら、とんでもない爆弾を投下した。俺とアルテミシア様は大きく目を見開き戸惑いまくっている。キャスペル殿下は膝に乗せているサーシャの顔を見ており微笑んだままだ。
キャスペル殿下がどう答えるのか固唾をのんで待つ。
「……まだいらないかな、どうしてもという時はアルテミシアとアルフレッドに任せればいいからね!」
そう言うとこれ以上ないほどの笑みを浮かべて、俺とアルテミシア様に視線を投げかけてきた。これは、黙ってお見合いを設定した仕返しだろうか? サーシャの発言にも怒っていないようだからいいのかな、サーシャこれ以上何も言っちゃだめだよ。心の中で祈る。
「サーシャがキャスペルお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるノ!」
「「へ!」」「ほう!」
俺とアルテミシア様がおかしな声をハモらせてしまい、キャスペル殿下はまんざらでもなさそうな表情をしている。サーシャときたらなんてドヤ顔なんだろうか。これは相手がいないならサーシャが結婚してあげようか的な発想なんだろうな。
「サーシャは優しいね、どうしようか、サーシャが成人した時にまだそう思うなら考えようかな?」
「ふーん、サーシャはアルお兄ちゃんとアルお姉ちゃんの次にキャスペルお兄ちゃんのこと好きなノ! 家族になってあげるノ!」
サーシャは悪びれた様子もなく天使のような微笑みを振りまく。珍しくキャスペル殿下が「三番目か」と言って大笑いしている。
カオスな時間が過ぎ、メダリオン城に戻って来た。とても報告できそうにない、アルテミシア様、報告はお願いします。視線で合図してみたが首をブンブンと横に振られてしまった。
俺は疲れ果て、報告義務を忘却の彼方へ投げ出すと帰路についた。
疲れたのだろう、サーシャは頭を俺の膝に乗せて横の席で眠っている。
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