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202.2薄くて軽くて強い布を求めて2(物々交換)✔ 2024.2.11修正 文字数 前3,723後2,606減1,117

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 今日はエルフと約束した日だ。前日から別荘に泊まり準備に抜かりはない。ポート港に龍で行くと驚かせてしまうため、早めに出発し、海上でエルフの帆船に乗り込むつもりでいる。

 ベビの背中には木箱を積んでおり、中には乳液、ピンクスライムポーション、ブルースライムポーションが各十本ずつ入れてある。木箱の中に麦殻を詰めて破損対策も万全だ。

 だが、ポート港の上空まで飛んで来ると、白い帆船は入港済みだった。大勢のエルフが甲板に並んで、こっちに向けて手を振っている。

 予定が狂ったせいでポートの港が大騒ぎになっている。ベビを見て海竜のことを思い出したのかもしれないな。ギルド長から龍と来るなら事前に連絡してほしいと言われていたからな~、連絡してないから後で苦情を言われそうだ。

 白い帆船の甲板上に何度か会話したエルフを見つけた。

《ベビ、真ん中の白い帆船に降りてくれる》

《任せてなの》

 指さしながら念話すると、ベビは一気に高度を下げて帆船の甲板に降りた。エルフ達は遠巻きにベビを見つめている。

「お待たせしてすみません。龍の名前はベビといいます。優しくていい子なんですよ!」

「本当に龍と仲がいいのですね」

 男性は微笑みながらチラリと後ろを振り向いた。視線の先には、十六歳くらいの女の子と十二歳くらいの男の子のエルフが立っている。ふたり共、肌がよく日焼けしており、海の上で生活している期間が長いことを物語っているようだ。男性の態度や身につけた宝飾品から、ふたりの身分が高いことが窺える。

 前回、チラッとしか見えなかった船内のエルフは、このふたりなのではないだろうか。

「龍はあなたのお友達なのですね!」

 男の子はメダリオン語が話せるみたいだな。かなり高い教育をうけているのかもしれない。

「はい。仲のいい友達です」

「龍に乗っていましたが、僕が触っても嫌がりませんか?」

 男の子は好奇心六割、怖さ四割といったところだろうか。

《ベビを触ってみたいと言ってるよ、触らせてあげれる?》

 ベビは少し悩んでいるようだ。

《少しだけなら触らせてあげるの》

「ベビが少しなら触ってもいいと言ってます。ですが触るなら気を付けてください、怪我をするかもしれないですよ」

「ええ、聞いたことあります」

 男の子は嬉しそうに、ベビの傍に歩いて来ると横腹の辺りをそーっと指先で撫でた。

「ザラザラしてる、姉上、見ていましたか? ぼく龍に触りましたよ!」

 男の子はどこか分からない国の言葉で言った。だが、翻訳先生がいい仕事をしてくれる。

「ワタシも撫でたい!」

 女の子も男の子と同じ辺りを手の平でペタペタと触った。

「ザラザラ、動かすと切れてしまいそう。帰ったら御父上と御母上に自慢しましょう!」

 ふたりとも大喜びだ。執事的存在の男性がふたりを諫めるように何か言っているようだ。

「すみません。龍は我がエルフには特別な存在なものでお許しください」

 男性は俺に向き直ると丁寧な口調で言った。

 ふたりは興奮冷めやらぬといった表情でベビに熱い眼差しを注いでいる。というか、全てのエルフから同じような視線がベビに集中している。ベビが嫌がりそうだから他に注意を向けさせないといけないな。

 ベビの背中から高そうに見える木箱を下ろした。俺の思惑通り、エルフ達の視線は木箱に注がれている。興味津々な様子だな。俺は中から乳液、ピンクスライムポーション、ブルースライムポーションを取り出すと使用方法を簡単に説明した。

「こんな所で探していたポーションに出会えるなんて! 神様、この出会いに感謝いたします!」

 突然、女の子が飛び跳ねそうな勢いで言った。まだ、効果も見ていないというのにこの喜びようは普通ではない。

「効果が無かったらがっかりされちゃいますからあまり期待されない方がいいと思いますよ」

「龍とお友達の方からのプレゼントなら、必ず効果があります!」

 なんの根拠もない思い込みだが、何を言っても無駄なようだな。シルクスパイダーの布や糸を取引したいので良好な関係を築いておきたい。これ以上は触れずにおこう。

 俺達が来るのを帆船の上で待っており、上陸できていないようだ。早めに帰ってあげた方がいいみたいだな。宿に泊まるなら、ギルド長に口を利くくらいならできる。

「シルクスパイダーの帆は大事に使わせてもらいます。高価な物をありがとうございました。忙しそうなので帰ります。宿に泊まるなら、仕事斡旋ギルドのギルド長に一声掛けてみてください。便宜を図ってくれるはずです」

 貰ったシルクスパイダーの帆を網の中に詰め込んでベビの背中にロープで固定した。もう心はウキウキだ。早く帰って確認したい。

「「もう少しゆっくりしてもいいのでは?」」

 女の子と男の子が声を揃えて言った。ベビともう少し一緒にいたいのだろう。だけど、港がベビを見たい人たちで大騒ぎになっている。早く撤収しないと絶対に怒られる。

「また、縁があれば会えますよ。……そうだ! 我がハイルーン領には露天風呂の温泉もあります。来ることがあればぜひどうぞ。ですが、そこには宿はないので、大勢ならテントで寝る覚悟が必要ですけどね」

 社交辞令のあいさつとして、うちの領地に来てねと言っておいた。

「明日にはここを発ち母国に帰りますが、許可を貰えたら必ず伺いますからその時はお願いしますね! 約束ですよ! あれは社交辞令でしたとか言わないで下さいよ。……命を助けてもらいありがとうございました! 絶対来ますからね! 忘れないで下さいよ!」 

 女の子は目を輝かせて力強く言った。

「ありがとうございました。……御父上に報告して許可をもらいましょう。姉上も協力してください!」

 男の子も元気いっぱいだ。

「当然です! 急ぎ帰り許可を得て会いしに来ますよ! 露天風呂ですか楽しみですね!」

 余計なことを言ってしまった可能性が高いな。執事っぽい男性の仕事を増やしてしまったんじゃないかな。

 帰ろうとしたら、女の子が直径十センチ近い大きなメダルを渡してくれた。メダルの片方には二つの月が描かれ、もう片面には太陽が描かれていた。メダリオン王国よりも製鉄技術が進んでいるようだな。シルクスパイダーの帆や糸も技術的に進んでいる。もしも、魔大陸に来ることがあれば、持っていれば役に立つはずだと言われた。魔大陸から来たんだろうな。

 魔大陸を想像しながら、ベビの背中に乗ると帰路についた。きっと、俺の顔はにやけているだろうな。シルクスパイダーの布で作りたいものがあり過ぎる。
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