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15話 家に誘ってみた
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「いやいや、いきなり女の子を家に呼ぶって、それはさすがに無理だって!」
俺は、優木坂さんを家に呼ぼうという姉の提案に対して、頭を大袈裟にブンブンと振って否定した。
いくら友達とはいえ、俺は男で優木坂さんは女だ。それを突然家に招くなんて、ハードルが高すぎる。
「大丈夫だって。わたしの予想だとヨミちゃんきっと喜んで来てくれるから」
「なんの根拠があって……テキトーなこというなよ」
俺は口を尖らせる。
姉さんの言葉は完全に酔っ払いの戯言にしか聞こえない。
だけど、その一方で本人は自信満々な表情を浮かべていた。
「だって駅前で話すアンタとヨミちゃんをしばらく見てたけど、遠目でみてもハッキリ分かるくらい笑顔だったし」
「……優木坂さんは誰に対してもあんな感じだよ。別に俺が特別なわけじゃない」
「いーや、あの表情は、相当相手に気を許してないとできない」
姉さんはニヤリとした笑みを浮かべて言った。
「そもそも、二人で夕食を食べに行ってる時点で脈はあるんだから。大丈夫、わたしが保証する。ヨミちゃんはうちに来てくれます。だから誘いましょー! えいえいおー!」
「姉さん……酔ってるだろ」
「むふふ、強いていうなら立ち昇る青春の香りに酔っている」
「なに言ってんだコイツ」
「いやーこの歳になってくるとさー、恋愛でも相手の将来性とかー? 打算とかー? まあ、色んな余計なこと考えちゃうんだけどね。そういうの抜きにしたピュアな恋、飢えてるのよ。そりゃ飛びつくよね。アンタも二十歳超えると分かるわよ」
「だから俺と優木坂さんはそんなんじゃ――」
「そう! そういうの! もっと、もっと頂戴!」
ダメだ。
こいつ人の話し聞かねえ。
「ちゃんと大切な弟の青春をナイスアシストしてあげるから。大船に乗ったつもりでお姉ちゃんに任せなさい!」
姉さんは力強く宣言しているが、缶ビールを五本も空けて、赤ら顔でへらへらと笑っている姿には、説得力も何もあったもんじゃなかった。
「それ完全に泥舟じゃん……」
「失礼なっ! えい!」
俺がボソッと漏らした呟きを、耳ざとく聞き逃さなかった姉さんは、ガバっと勢いよくテーブルの上に身を乗り出して、俺の手元に置いてあったスマホを奪い取った。
「あ、何すんだよ!」
「アンタが誘いのLINKを送らないなら、代わりに私が送っちゃうけどいいの?」
「はぁ!? 何言ってんの? ダメに決まってるだろ!」
「えーと、スマホのロックは、どうせアンタの誕生日でしょ? 一、二……よし、開いた」
「ちょ、返せ!」
「えーと、LINKのアプリは……」
俺は姉さんの手からスマホを奪い返そうと、テーブルの上に身を乗り出してジタバタと手を伸ばす。だけど、姉さんは俺の手をひらりと交わして、操作を続けた。
そして俺の顔の前にずいっとスマホの画面を突き出して、宣ってきた。
「さあ、夜空! 選びなさい! わたしがこのままヨミちゃんを誘うか。それとも自分で誘うか。二つに一つだよー」
LINKのトーク画面にはこんな文章が表示されていた。
青井:(ヤッホー❗️ヨミチャン、元気カナ🤔⁉️突然だけど今度ウチにこない😃✌️⁉️⁉️早く会いたいナ😍🤲なんてね😜笑)
「なんだこのオッサン構文!? 馬ッ鹿じゃねえの!?」
「この前私にアプローチかけてきたバイト先の店長の文面を参考にしてみました。なんか? 恋は高見盛のように? とかいう漫画を読んだらしくて勘違いしてきたらしい。はっ、救えねぇ」
「こんなメッセージ突然送ったら百パー気持ち悪がられるって! つーか流石に俺が送った文じゃないってバレるでしょーが!」
「確かにこの文章はキモい。これが嫌なら自分で送るしかないね、うん」
極めて理不尽な二者択一を迫る姉さん。
そもそも、俺はひと言も優木坂さんを家に招きたいなんて言ってないのに。
ダメだ。酒に酔って面白半分に盛り上がってしまったこの姉を止める術はない。
この怪文書だって、このままだと本気で送りかねない。
「さーいいのー? 送っちゃうよー送っちゃうよー?」
「わかった、わかったから! 俺から誘うから。スマホ返して、マジで!」
「よしよし、それでこそ漢よ」
そう言って満足げに笑う姉の手から、俺はようやくスマホを取り戻すことができた。姉の入力したキモいメッセージをそそくさとこの世から抹消する。
「ささ、早くヨミちゃんを誘いなされ」
満面の笑みを浮かべる姉さんの顔を見て、俺はため息をつくしかなかった。
こうなったらとにかく無難に、自然な感じで、失敗したとしても傷口が浅くすむように、誘うしかないだろう。
しばらくスマホと睨めっこをして、俺はなんとか当たり障りのない、と思われるメッセージを捻り出した。
青井:(実は、姉に優木坂さんの話をしたら会いたいって言い出して聞かなくて)
青井:(もしよかったら今度家にこない?)
青井:(もちろん都合が合わなかったら無理しなくて全然いいから!)
まあ、こんな感じでいいだろう。
実際、優木坂さんに会いたいって言うのは、姉さんが言い出したことなんだから嘘は一つもついてないし。
俺は深呼吸をひとつしてから、送信ボタンをタップした。
するとすぐに既読マークがついたかと思ったら、その後間髪を入れずに返事がきた。
優木坂:(いいの!? 行きたい!)
そのメッセージを見た瞬間、頬がカッと熱くなる感覚があった。そのあと急に脱力感が身体を襲って、思わずスマホを握る手を放してしまいそうになる。
俺は脱力感に身を任せて、椅子の背もたれにもたれかかり天井を見上げた。
「どう? ヨミちゃん来てくれるって?」
「……来るって」
「ッシャオラ! やっぱり! 私の言ったとおりでしょ」
俺が天井から正面の方へゆっくりと視線を移すと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる姉さんの顔が見えた。
「いやまあ……結果オーライだったけど。こういうのホントやめて……ドッと疲れる……」
「はいはい……お疲れ。でもね、夜空」
姉さんは意味ありげな笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込んだ。
「自分がなんでそんなに疲れてるのか、その意味をちょっとは考えてみなよ」
「はあ?」
「なんでもないよ。そんなことより次は日程! どうする? 早速今週末呼んじゃう? 私、予定空けるわよ!」
「いや、今週末って明日か明後日じゃん。流石に早過ぎでしょ……優木坂さんの予定があるかもしれないし。とりあえず聞いてみるよ」
などと姉さんと話していると、俺のスマホが再び震えた。
優木坂:(いつにしようか?)
優木坂:(私は週末は大抵ヒマだから!)
優木坂:(別に今週でもいいよw)
「マジかよ……なんでそんなに前向きなの……?」
優木坂さんからのメッセージからは、彼女のテンションの高さが伝わってくるようだった。
そんなに会いたいのだろうか。こんな姉なのに。
とはいえ、家の掃除や心の準備やらで俺的にはちょっと時間がほしい。
ということで、優木坂さんとやりとりをした結果、彼女が俺の家にくる日は、来週の土曜日に決まった。
俺は、優木坂さんを家に呼ぼうという姉の提案に対して、頭を大袈裟にブンブンと振って否定した。
いくら友達とはいえ、俺は男で優木坂さんは女だ。それを突然家に招くなんて、ハードルが高すぎる。
「大丈夫だって。わたしの予想だとヨミちゃんきっと喜んで来てくれるから」
「なんの根拠があって……テキトーなこというなよ」
俺は口を尖らせる。
姉さんの言葉は完全に酔っ払いの戯言にしか聞こえない。
だけど、その一方で本人は自信満々な表情を浮かべていた。
「だって駅前で話すアンタとヨミちゃんをしばらく見てたけど、遠目でみてもハッキリ分かるくらい笑顔だったし」
「……優木坂さんは誰に対してもあんな感じだよ。別に俺が特別なわけじゃない」
「いーや、あの表情は、相当相手に気を許してないとできない」
姉さんはニヤリとした笑みを浮かべて言った。
「そもそも、二人で夕食を食べに行ってる時点で脈はあるんだから。大丈夫、わたしが保証する。ヨミちゃんはうちに来てくれます。だから誘いましょー! えいえいおー!」
「姉さん……酔ってるだろ」
「むふふ、強いていうなら立ち昇る青春の香りに酔っている」
「なに言ってんだコイツ」
「いやーこの歳になってくるとさー、恋愛でも相手の将来性とかー? 打算とかー? まあ、色んな余計なこと考えちゃうんだけどね。そういうの抜きにしたピュアな恋、飢えてるのよ。そりゃ飛びつくよね。アンタも二十歳超えると分かるわよ」
「だから俺と優木坂さんはそんなんじゃ――」
「そう! そういうの! もっと、もっと頂戴!」
ダメだ。
こいつ人の話し聞かねえ。
「ちゃんと大切な弟の青春をナイスアシストしてあげるから。大船に乗ったつもりでお姉ちゃんに任せなさい!」
姉さんは力強く宣言しているが、缶ビールを五本も空けて、赤ら顔でへらへらと笑っている姿には、説得力も何もあったもんじゃなかった。
「それ完全に泥舟じゃん……」
「失礼なっ! えい!」
俺がボソッと漏らした呟きを、耳ざとく聞き逃さなかった姉さんは、ガバっと勢いよくテーブルの上に身を乗り出して、俺の手元に置いてあったスマホを奪い取った。
「あ、何すんだよ!」
「アンタが誘いのLINKを送らないなら、代わりに私が送っちゃうけどいいの?」
「はぁ!? 何言ってんの? ダメに決まってるだろ!」
「えーと、スマホのロックは、どうせアンタの誕生日でしょ? 一、二……よし、開いた」
「ちょ、返せ!」
「えーと、LINKのアプリは……」
俺は姉さんの手からスマホを奪い返そうと、テーブルの上に身を乗り出してジタバタと手を伸ばす。だけど、姉さんは俺の手をひらりと交わして、操作を続けた。
そして俺の顔の前にずいっとスマホの画面を突き出して、宣ってきた。
「さあ、夜空! 選びなさい! わたしがこのままヨミちゃんを誘うか。それとも自分で誘うか。二つに一つだよー」
LINKのトーク画面にはこんな文章が表示されていた。
青井:(ヤッホー❗️ヨミチャン、元気カナ🤔⁉️突然だけど今度ウチにこない😃✌️⁉️⁉️早く会いたいナ😍🤲なんてね😜笑)
「なんだこのオッサン構文!? 馬ッ鹿じゃねえの!?」
「この前私にアプローチかけてきたバイト先の店長の文面を参考にしてみました。なんか? 恋は高見盛のように? とかいう漫画を読んだらしくて勘違いしてきたらしい。はっ、救えねぇ」
「こんなメッセージ突然送ったら百パー気持ち悪がられるって! つーか流石に俺が送った文じゃないってバレるでしょーが!」
「確かにこの文章はキモい。これが嫌なら自分で送るしかないね、うん」
極めて理不尽な二者択一を迫る姉さん。
そもそも、俺はひと言も優木坂さんを家に招きたいなんて言ってないのに。
ダメだ。酒に酔って面白半分に盛り上がってしまったこの姉を止める術はない。
この怪文書だって、このままだと本気で送りかねない。
「さーいいのー? 送っちゃうよー送っちゃうよー?」
「わかった、わかったから! 俺から誘うから。スマホ返して、マジで!」
「よしよし、それでこそ漢よ」
そう言って満足げに笑う姉の手から、俺はようやくスマホを取り戻すことができた。姉の入力したキモいメッセージをそそくさとこの世から抹消する。
「ささ、早くヨミちゃんを誘いなされ」
満面の笑みを浮かべる姉さんの顔を見て、俺はため息をつくしかなかった。
こうなったらとにかく無難に、自然な感じで、失敗したとしても傷口が浅くすむように、誘うしかないだろう。
しばらくスマホと睨めっこをして、俺はなんとか当たり障りのない、と思われるメッセージを捻り出した。
青井:(実は、姉に優木坂さんの話をしたら会いたいって言い出して聞かなくて)
青井:(もしよかったら今度家にこない?)
青井:(もちろん都合が合わなかったら無理しなくて全然いいから!)
まあ、こんな感じでいいだろう。
実際、優木坂さんに会いたいって言うのは、姉さんが言い出したことなんだから嘘は一つもついてないし。
俺は深呼吸をひとつしてから、送信ボタンをタップした。
するとすぐに既読マークがついたかと思ったら、その後間髪を入れずに返事がきた。
優木坂:(いいの!? 行きたい!)
そのメッセージを見た瞬間、頬がカッと熱くなる感覚があった。そのあと急に脱力感が身体を襲って、思わずスマホを握る手を放してしまいそうになる。
俺は脱力感に身を任せて、椅子の背もたれにもたれかかり天井を見上げた。
「どう? ヨミちゃん来てくれるって?」
「……来るって」
「ッシャオラ! やっぱり! 私の言ったとおりでしょ」
俺が天井から正面の方へゆっくりと視線を移すと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる姉さんの顔が見えた。
「いやまあ……結果オーライだったけど。こういうのホントやめて……ドッと疲れる……」
「はいはい……お疲れ。でもね、夜空」
姉さんは意味ありげな笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込んだ。
「自分がなんでそんなに疲れてるのか、その意味をちょっとは考えてみなよ」
「はあ?」
「なんでもないよ。そんなことより次は日程! どうする? 早速今週末呼んじゃう? 私、予定空けるわよ!」
「いや、今週末って明日か明後日じゃん。流石に早過ぎでしょ……優木坂さんの予定があるかもしれないし。とりあえず聞いてみるよ」
などと姉さんと話していると、俺のスマホが再び震えた。
優木坂:(いつにしようか?)
優木坂:(私は週末は大抵ヒマだから!)
優木坂:(別に今週でもいいよw)
「マジかよ……なんでそんなに前向きなの……?」
優木坂さんからのメッセージからは、彼女のテンションの高さが伝わってくるようだった。
そんなに会いたいのだろうか。こんな姉なのに。
とはいえ、家の掃除や心の準備やらで俺的にはちょっと時間がほしい。
ということで、優木坂さんとやりとりをした結果、彼女が俺の家にくる日は、来週の土曜日に決まった。
応援ありがとうございます!
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