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47話 はじめまして文ちゃん
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俺と詠はしばらくの間、しみじみといった感じでミルクティーを味わった。
それから、ぽつりぽつりと会話が生まれだす。
「夜空くん、勉強はどんな感じ?」
「それがさ、俺史上最高に集中できた二時間だったよ」
「え、ほんと?」
詠は目を丸くして聞き返す。
「ホント。詠の真剣な様子を見てたらさ、俺も頑張らなくちゃって思えてきてさ。それで集中して勉強できた。だから、詠のおかげだよ。ありがと」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」
詠はホッと胸を撫で下ろしながら、嬉しそうにはにかんだ。
「でも、わたしだって同じだよ。夜空くんのおかげで頑張れてる。だから、お互い様だね」
「そっか。じゃあ、俺たち二人とも、お互いの存在に感謝だね」
「うんっ」
詠は元気よく返事をした。
詠のそんな様子を見てから、俺は加代子さんが用意してくれたクッキーをつまんで、しげしげとそれを眺めた。
「これかわいいね。猫の形のクッキー」
俺の言葉を聞いて、詠も同じようにクッキーをつまんだ。
「たぶんこれ。お母さんが今日のために焼いたんだと思う」
「え、手作りってこと?」
「うん。お母さん、お菓子作りが趣味でね。色々作ってくれるんだ」
「そうなんだ」
「夜空くんが来るって話したら、とっても張り切ってたから」
「まじで? なんか気を遣わせちゃったみたいで悪いね」
「ううん、そんなことないよ」
とはいえ、ほんとーに失礼な話なんだけど。
詠の言葉を聞いて、俺は内心、ちょっとだけ身構えてしまった。
指先のクッキーをしげしげと見つめる。
というのも、俺は詠の手作り弁当の狂気の味を身をもって体感してしまっているからだ。
その詠のお母さんが焼いた手作りクッキー。
見た目はとても可愛らしく、美味しそうなのだが。果たして、その味は。
「ん、美味しい」
俺に先んじて、詠がひとくちクッキーをかじって、感嘆の声を上げた。
その表情は、とても満足げなものだ。
「夜空君も遠慮しないでね?」
詠は目を細めながら、俺に向かって優しい声を投げかける。
「いただきます」
詠の後押しを受けて、俺は、クッキーを口の中に放り込んだ。
サクッとした食感。バターの風味が口の中いっぱいに広がって、舌の上でほろりとくずれ、そして溶けていく。
「うまっ」
俺の口からは、素直な感想が飛び出していた。
「ほんと? よかった」
詠はそんな俺を見て微笑む。
「うん。詠のお母さん、料理上手なんだね。めっちゃ美味いよ。こんな美味しいクッキー生まれて初めて食べた」
「大げさなんだから。でも、お母さんが聞いたら、きっと喜ぶよ。ありがとう」
詠は、まるで自分が褒められたように嬉しがっていて、ちょっと誇らしげな様子を見せる。
俺はその姿を見ながら、とある大変失礼な疑問を胸に抱いていた。
なぜ、詠の料理のウデマエは、かように壊滅的なんだろう。
もしかして、料理をきちんと勉強すれば、上達する伸びしろは残されているのかな。
俺の胃を守るために、今度、一緒に台所に立ってみようか。
***
俺たちがミルクティーとクッキーを堪能していると、ふと、視線のようなものを感じた。
その元を探ると、俺の向かいに座る詠の、更に奥側――部屋のドアが僅かに開いていることに気がついた。
一瞬、加代子さんが戻ってきたのかと思った。
だけど、ちょっとおかしい。ノックもないし、ドアの隙間から覗き込んでいるのも不可解だ。
もしかして。
「妹さん……?」
俺はドアの向こうにいるであろう人影に声をかけた。
俺の声を受けて、詠も「え?」と言いながら振り返る。
すると、ドアの向こう側の影は、ビクッと体を震わせたあと、ドアの隙間をさらに少しだけ開いて、そこからそろそろと顔を出した。
出てきたのは小学生くらいの女の子。
袖部分が薄い紫になったレイヤードシャツに、同じく紫のスカートを身にまとい、長い黒髪を二つに分けて結んでいる。結び目の部分にはリボンが飾られていた。
「文。どうしたの」
詠が少女の名前を呼ぶ。
やっぱりそうだ。
この少女は、詠の妹の文ちゃんだった。
「えっと、こんにちは……」
文ちゃんは、俺の顔を見るなり、か細い声で挨拶をする。
ぱっちりと開いた大きな黒い瞳が、不安そうに揺れている。
「ど、どうも」
俺はペコリと頭を下げて、そう返した。
というか、もっと愛想よく挨拶しろよ俺! ただでさえ見た目が怖いんだから。
文ちゃんが怖がっちゃうだろ。
「ほら、こっちおいで? 今休憩中だから、一緒にクッキー食べよ?」
詠は優しい口調で言うと、自分の隣にクッションを置いて、文ちゃんを手招きした。
文ちゃんはちょっぴり躊躇いながらも部屋に入ってきて、詠の隣にぺたんと腰かけた。
「夜空くん。私の妹の文。ほら、文、夜空くんに挨拶して」
「はじめまして。優木坂文です」
「あ、こちらこそ。えっと、お姉ちゃんのお友達の青井夜空です。よろしくね……」
小さい子供に慣れていない俺は、ぎこちなく自己紹介をした。
「文ちゃんは何歳かな?」
「じゅっさい」
「そっかー……そっかそっか……えーと」
か、会話が続かん。どうしよう。
オロオロしながら、寄る辺を求めて、すがるように視線を詠に向ける。
彼女は助け舟を出してくれると思いきや、困ったように、ただクスクスと笑うだけだ。
「あ、う」
俺は詠と文ちゃんをフルフルと交互に見る。
そんな、俺の様子をみて。
「夜空さんって、こみゅしょーですか?」
俺は、小学四年生の女の子に、自分の核心を言い当てられてしまった。
それから、ぽつりぽつりと会話が生まれだす。
「夜空くん、勉強はどんな感じ?」
「それがさ、俺史上最高に集中できた二時間だったよ」
「え、ほんと?」
詠は目を丸くして聞き返す。
「ホント。詠の真剣な様子を見てたらさ、俺も頑張らなくちゃって思えてきてさ。それで集中して勉強できた。だから、詠のおかげだよ。ありがと」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」
詠はホッと胸を撫で下ろしながら、嬉しそうにはにかんだ。
「でも、わたしだって同じだよ。夜空くんのおかげで頑張れてる。だから、お互い様だね」
「そっか。じゃあ、俺たち二人とも、お互いの存在に感謝だね」
「うんっ」
詠は元気よく返事をした。
詠のそんな様子を見てから、俺は加代子さんが用意してくれたクッキーをつまんで、しげしげとそれを眺めた。
「これかわいいね。猫の形のクッキー」
俺の言葉を聞いて、詠も同じようにクッキーをつまんだ。
「たぶんこれ。お母さんが今日のために焼いたんだと思う」
「え、手作りってこと?」
「うん。お母さん、お菓子作りが趣味でね。色々作ってくれるんだ」
「そうなんだ」
「夜空くんが来るって話したら、とっても張り切ってたから」
「まじで? なんか気を遣わせちゃったみたいで悪いね」
「ううん、そんなことないよ」
とはいえ、ほんとーに失礼な話なんだけど。
詠の言葉を聞いて、俺は内心、ちょっとだけ身構えてしまった。
指先のクッキーをしげしげと見つめる。
というのも、俺は詠の手作り弁当の狂気の味を身をもって体感してしまっているからだ。
その詠のお母さんが焼いた手作りクッキー。
見た目はとても可愛らしく、美味しそうなのだが。果たして、その味は。
「ん、美味しい」
俺に先んじて、詠がひとくちクッキーをかじって、感嘆の声を上げた。
その表情は、とても満足げなものだ。
「夜空君も遠慮しないでね?」
詠は目を細めながら、俺に向かって優しい声を投げかける。
「いただきます」
詠の後押しを受けて、俺は、クッキーを口の中に放り込んだ。
サクッとした食感。バターの風味が口の中いっぱいに広がって、舌の上でほろりとくずれ、そして溶けていく。
「うまっ」
俺の口からは、素直な感想が飛び出していた。
「ほんと? よかった」
詠はそんな俺を見て微笑む。
「うん。詠のお母さん、料理上手なんだね。めっちゃ美味いよ。こんな美味しいクッキー生まれて初めて食べた」
「大げさなんだから。でも、お母さんが聞いたら、きっと喜ぶよ。ありがとう」
詠は、まるで自分が褒められたように嬉しがっていて、ちょっと誇らしげな様子を見せる。
俺はその姿を見ながら、とある大変失礼な疑問を胸に抱いていた。
なぜ、詠の料理のウデマエは、かように壊滅的なんだろう。
もしかして、料理をきちんと勉強すれば、上達する伸びしろは残されているのかな。
俺の胃を守るために、今度、一緒に台所に立ってみようか。
***
俺たちがミルクティーとクッキーを堪能していると、ふと、視線のようなものを感じた。
その元を探ると、俺の向かいに座る詠の、更に奥側――部屋のドアが僅かに開いていることに気がついた。
一瞬、加代子さんが戻ってきたのかと思った。
だけど、ちょっとおかしい。ノックもないし、ドアの隙間から覗き込んでいるのも不可解だ。
もしかして。
「妹さん……?」
俺はドアの向こうにいるであろう人影に声をかけた。
俺の声を受けて、詠も「え?」と言いながら振り返る。
すると、ドアの向こう側の影は、ビクッと体を震わせたあと、ドアの隙間をさらに少しだけ開いて、そこからそろそろと顔を出した。
出てきたのは小学生くらいの女の子。
袖部分が薄い紫になったレイヤードシャツに、同じく紫のスカートを身にまとい、長い黒髪を二つに分けて結んでいる。結び目の部分にはリボンが飾られていた。
「文。どうしたの」
詠が少女の名前を呼ぶ。
やっぱりそうだ。
この少女は、詠の妹の文ちゃんだった。
「えっと、こんにちは……」
文ちゃんは、俺の顔を見るなり、か細い声で挨拶をする。
ぱっちりと開いた大きな黒い瞳が、不安そうに揺れている。
「ど、どうも」
俺はペコリと頭を下げて、そう返した。
というか、もっと愛想よく挨拶しろよ俺! ただでさえ見た目が怖いんだから。
文ちゃんが怖がっちゃうだろ。
「ほら、こっちおいで? 今休憩中だから、一緒にクッキー食べよ?」
詠は優しい口調で言うと、自分の隣にクッションを置いて、文ちゃんを手招きした。
文ちゃんはちょっぴり躊躇いながらも部屋に入ってきて、詠の隣にぺたんと腰かけた。
「夜空くん。私の妹の文。ほら、文、夜空くんに挨拶して」
「はじめまして。優木坂文です」
「あ、こちらこそ。えっと、お姉ちゃんのお友達の青井夜空です。よろしくね……」
小さい子供に慣れていない俺は、ぎこちなく自己紹介をした。
「文ちゃんは何歳かな?」
「じゅっさい」
「そっかー……そっかそっか……えーと」
か、会話が続かん。どうしよう。
オロオロしながら、寄る辺を求めて、すがるように視線を詠に向ける。
彼女は助け舟を出してくれると思いきや、困ったように、ただクスクスと笑うだけだ。
「あ、う」
俺は詠と文ちゃんをフルフルと交互に見る。
そんな、俺の様子をみて。
「夜空さんって、こみゅしょーですか?」
俺は、小学四年生の女の子に、自分の核心を言い当てられてしまった。
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