学院最弱底辺の僕にだけ従う最強生徒会長

塞翁が馬

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ひとときの時間

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 夕食を終え、片づけも一段落した頃。

 班の皆は宿舎の前でキャンプ用のランタンを囲み、他愛もない話を弾ませていた。
 結城が持ち込んだカードゲームを広げ、瑞穂と乙葉がルールに四苦八苦している。

 笑い声と火の揺らぎが、夜の森にぽつりぽつりと溶けていく。

 けれど僕は、そこから少しだけ外れた小道の先に立っていた。

 「天城くん、ここにいたんですね」

 背後から、柔らかな声。

 振り返ると、月明かりの中に村崎天音の姿があった。
 制服の上から羽織ったカーディガンが、彼女の華奢な体をふわりと包んでいる。

 「……騒がしいの、ちょっと苦手で」

 僕がそう言うと、天音はくすっと笑って、

 「はい、分かってました」

 と、僕の隣に立った。

 二人で並んで、しばらく何も言わず、夜の森を眺めた。

 静かだった。
 ランタンの明かりも届かないこの小道では、風の音と虫の声だけが支配していた。

 やがて天音が、少しだけ僕に身体を寄せた。

 「……こうしてると、不思議と落ち着くんです。何度も言ってますね、これ」

 「また匂いの話か?」

 「はい。甘いのと、ちょっとだけ木の香りが混ざってて……」

 「さっき料理したからじゃないか?」

 「そうかもしれません。でも、それも含めて“今日の天城くん”ですから」

 そんなふうに言われると、どうにもこそばゆい。
 けれど、嫌ではなかった。

 「村崎」

 「はい?」

 「……お前、けっこう、押しが強いよな」

 「そんなこと、ありませんよ?」

 首をかしげながら、彼女は自然に僕の袖をつまんだ。
 まるで、当たり前のような仕草で。

 「私、無理やり何かをしたいわけじゃなくて……」

 「うん」

 「ただ、こうしてそばにいたいだけなんです」

 淡く、真剣な声だった。

 「天城くんが一人でいると、どうしても気になってしまうんです」

 「……俺が、一人だと?」

 「はい。放っておけないっていうか……言葉にしにくいですけど」

 しばらく黙っていたが、彼女は続けた。

 「きっと、私自身が“そばにいてほしい”って、どこかで思ってるのかもしれません」

 「……それって、わがままだな」

 「はい。わがままです。でも、天城くんには言ってもいいかなって思ってしまって」

 また、そっと僕の袖を引いた。

 「ダメ……ですか?」

 その問いかけに、僕は少しだけ、視線を逸らした。

 「……ダメじゃない。ちょっとだけ、びっくりしてるだけだ」

 そのまま、天音は黙って僕の隣に座り込んだ。
 僕も、彼女の隣に腰を下ろす。

 小道に沿って据えられた古い切株が、ふたりの小さな居場所になる。

 天音はカーディガンの袖口を握りしめながら、小さな声でぽつりと言った。

 「ほんとは、今日……一緒に課題ができて嬉しかったんです」

 「なんで?」

 「天城くんと、ちゃんと“同じこと”をしたって、初めて思えたから」

 その言葉は、まるでどこか自分の奥にまで響いてくるようで、僕は黙って夜空を見上げた。

 星がいくつも、枝葉の隙間から瞬いている。
 その光の下、僕の隣にいる少女が、確かにここにいる。

 肩と肩が触れるか触れないかの距離。
 でも、それはもう“気を遣う距離”ではなかった。

 「……ありがとう、村崎」

 「……え?」

 「今日、いてくれて。助かったよ」

 彼女は、ぽかんとした顔をしてから、ふわりと微笑んだ。

 「……やっと、ちゃんと褒めてくれましたね」

 「今の、褒めたうちに入るか?」

 「入ります。私の中では、満点です」

 その笑顔は、少しだけ涙ぐんでいるようにも見えた。

 夜風が、また一度吹き抜ける。

 でも、今度はそれほど冷たくなかった。

 僕と天音は、誰にも邪魔されないその時間の中、しばらくのあいだ静かに座っていた。
 言葉もいらず、ただ隣にいることが心地よかった。
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