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駆け出した足
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林間学校の朝は、いつもよりざわついていた。
教師の点呼が終わったとき、天音の名前が呼ばれても、返事はなかった。
班の誰も、彼女の姿を見ていないという。
……村崎天音が、いない。
その事実を知ったとき、僕の胸の奥がひどくざわついた。
ただの寝坊かもしれない。
疲れてどこかで眠ってしまっただけかもしれない。
けれど、そんな言い訳が、どうしても胸に引っかかった。
昨日の写真の件。
SNSでの騒ぎ。
そして、あの夜の彼女の様子。
(……おかしかった。明らかに)
普段の彼女なら、もっと軽口を叩いて、周囲の雰囲気を和ませるはずだ。
だけどあの夜、彼女は終始、何かを言いかけては飲み込んでいた。
僕の隣にいながら、どこか遠くにいるような――そんな目をしていた。
僕は、胸騒ぎを抑えられなかった。
「……探してくる」
班のメンバーにそう告げて、気づけば走り出していた。
林の中。
裏手の道。
バンガローと食堂をつなぐ小径。
どこにも、彼女の姿はなかった。
空は晴れていた。
小鳥が囀り、虫の声が朝の湿気に混じる。
けれど、僕の鼓動だけは異常な速さで鳴り響いていた。
(……なぜ、いないんだ)
(なぜ、何も言わずに――消えたんだ)
足が止まらない。
普段なら絶対に通らないような、人の気配のない旧修道院の裏道や、林道の獣道にまで足を踏み入れていく。
膝下のズボンが濡れても、泥がついてもかまわなかった。
「……村崎……!」
何度も名前を呼んだ。返事はない。
だけど、それでも呼ばずにはいられなかった。
彼女は、何かを隠していた。
ずっと何かを――僕に言えずにいた。
「……だから、聞かせてくれ。頼むから……」
誰に向けるともなく、喉の奥から絞り出すように声が漏れる。
(あの夜の笑顔が嘘だったとは思えない)
(あんなに近くで話して、同じ歩幅で歩いて――)
あれが全部、嘘だったなんて思いたくない。
だけど――
もし仮に、あれが全部“任務”だったとしても。
誰かに命じられて、僕に近づいたのだとしても。
(それでも、僕は……)
本当のことが知りたかった。
笑顔も、言葉も、仕草も。
全部を信じるには、何かが足りない。
彼女の口から、彼女の声で、
あの夜の“真実”を聞かなくては。
(じゃないと、前に進めない)
走り続ける。
全身から汗が流れても、構わなかった。
遠くの木陰に、小さな影が見えたような気がして――
僕は、泥を蹴って踏み込んだ。
目が、血走っていた。
息が荒くて、喉がひりついていた。
けれど、それでも構わなかった。
見つけたい。
彼女の、隠しているものを。
(……頼むから、どこかにいてくれ)
教師の点呼が終わったとき、天音の名前が呼ばれても、返事はなかった。
班の誰も、彼女の姿を見ていないという。
……村崎天音が、いない。
その事実を知ったとき、僕の胸の奥がひどくざわついた。
ただの寝坊かもしれない。
疲れてどこかで眠ってしまっただけかもしれない。
けれど、そんな言い訳が、どうしても胸に引っかかった。
昨日の写真の件。
SNSでの騒ぎ。
そして、あの夜の彼女の様子。
(……おかしかった。明らかに)
普段の彼女なら、もっと軽口を叩いて、周囲の雰囲気を和ませるはずだ。
だけどあの夜、彼女は終始、何かを言いかけては飲み込んでいた。
僕の隣にいながら、どこか遠くにいるような――そんな目をしていた。
僕は、胸騒ぎを抑えられなかった。
「……探してくる」
班のメンバーにそう告げて、気づけば走り出していた。
林の中。
裏手の道。
バンガローと食堂をつなぐ小径。
どこにも、彼女の姿はなかった。
空は晴れていた。
小鳥が囀り、虫の声が朝の湿気に混じる。
けれど、僕の鼓動だけは異常な速さで鳴り響いていた。
(……なぜ、いないんだ)
(なぜ、何も言わずに――消えたんだ)
足が止まらない。
普段なら絶対に通らないような、人の気配のない旧修道院の裏道や、林道の獣道にまで足を踏み入れていく。
膝下のズボンが濡れても、泥がついてもかまわなかった。
「……村崎……!」
何度も名前を呼んだ。返事はない。
だけど、それでも呼ばずにはいられなかった。
彼女は、何かを隠していた。
ずっと何かを――僕に言えずにいた。
「……だから、聞かせてくれ。頼むから……」
誰に向けるともなく、喉の奥から絞り出すように声が漏れる。
(あの夜の笑顔が嘘だったとは思えない)
(あんなに近くで話して、同じ歩幅で歩いて――)
あれが全部、嘘だったなんて思いたくない。
だけど――
もし仮に、あれが全部“任務”だったとしても。
誰かに命じられて、僕に近づいたのだとしても。
(それでも、僕は……)
本当のことが知りたかった。
笑顔も、言葉も、仕草も。
全部を信じるには、何かが足りない。
彼女の口から、彼女の声で、
あの夜の“真実”を聞かなくては。
(じゃないと、前に進めない)
走り続ける。
全身から汗が流れても、構わなかった。
遠くの木陰に、小さな影が見えたような気がして――
僕は、泥を蹴って踏み込んだ。
目が、血走っていた。
息が荒くて、喉がひりついていた。
けれど、それでも構わなかった。
見つけたい。
彼女の、隠しているものを。
(……頼むから、どこかにいてくれ)
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