63 / 85
天城観察ノート第2巻
しおりを挟む
それは、あの事件――
“天城観察日記晒し事件”の翌日だった。
「……ぁぁあ……恥ずかしかった……」
自宅の自室で、村崎天音はベッドに顔を埋めて、何度目かの呻きを漏らしていた。
あのノートが、よりによって朝のHRで晒されるとは思わなかった。
しかもよりにもよって“感情入りすぎ”なページを開かれて――
“爆発したい”とか、“ぎゅっと握ってあげたい”とか――
「し、死にたい……」
ベッドの中でバタバタと暴れながら、赤く染まった顔を隠す天音。
だが、その横には――
封筒に入った、一冊のノートが静かに置かれていた。
表紙には、手書きの柔らかな文字でこう記されている。
『天城観察ノート・第2巻(非公開版)』
「……でも」
布団から顔だけ出した彼女の瞳は、
ほんの少しだけ、強い光を宿していた。
「……あたしがやってたこと、間違ってなかったって、天城くんが……言ってくれたから」
事件の直後、天城は決して怒らなかった。
むしろ、あの最悪の瞬間に――
「怒ってない」と笑ってくれた。
「それに、セラフィーナ会長にも“観察は許可してる”って言ってもらったし……」
天音は起き上がって、ノートをそっと抱きしめる。
「だったら、今度はもっと……ちゃんと、バレないようにやればいいよね」
その呟きは、もはや使命感に近いものを帯びていた。
翌朝から、彼女の“観察”は再開された。
だが第2巻のテーマは「可視化されない愛」。
公開は絶対にされない。
だからこそ、記録精度と情報密度を極限まで高めていく方向へ進化した。
■ 第2巻 記録
7:58 昇降口にて。靴の向き、今日は完璧。寝坊しなかった様子。
→評価:◎(心のゆとりあり。月曜にしては上出来)
8:45 1限開始直後、天城くんの鉛筆が転がった。無意識に隣席を見たあと、すぐ拾う。
→考察:周囲に頼らず、自立心を鍛えている? →要観察。
10:20 2限目、窓の外を2.8秒間見つめる。左目のまばたき頻度がやや高。
→疲労度:中程度。水分補給を促すべきだが今回は我慢。記録のみ。
天音は慎重になっていた。
観察の際は、メモ帳ではなく極小イヤホン型レコーダーを使い、授業中はひたすら頭の中で暗記。
放課後には自宅でまとめ直し、ノートに手書きで清書。
ページの端には、「天城くん本日笑顔回数:3」「目を合わせてくれた秒数:合計9.2秒」など、もはやプロファイリングレベルの数値管理が並んでいた。
そして第2巻には、ある“裏ページ”が存在した。
そこには、彼女の中の誰にも見せない気持ち――
第1巻には書けなかった本音が記されている。
――どうして、こんなに気になるのか。
わたしにも、ちゃんとはわからない。
でも、天城くんが笑ってると、胸の奥があったかくなる。
誰かにいじられて、照れてる顔を見ると、自分のことのようにドキドキする。
……それだけで、今日も“見守ってよかったな”って、思える。
そう、これはただの観察じゃない。
彼女にとっては、祈るような気持ちなのだ。
“今日の天城くんが無事で、優しくて、いつも通りでありますように”
その願いを、一ページずつ綴るように――
天音の“観察ノート第2巻”は、今日も静かに増えていく。
もちろん、天城はまだ気づいていない。
――彼が何気なく笑ったその瞬間。
隣の席の少女が、そのすべてを記録していることに。
“天城観察日記晒し事件”の翌日だった。
「……ぁぁあ……恥ずかしかった……」
自宅の自室で、村崎天音はベッドに顔を埋めて、何度目かの呻きを漏らしていた。
あのノートが、よりによって朝のHRで晒されるとは思わなかった。
しかもよりにもよって“感情入りすぎ”なページを開かれて――
“爆発したい”とか、“ぎゅっと握ってあげたい”とか――
「し、死にたい……」
ベッドの中でバタバタと暴れながら、赤く染まった顔を隠す天音。
だが、その横には――
封筒に入った、一冊のノートが静かに置かれていた。
表紙には、手書きの柔らかな文字でこう記されている。
『天城観察ノート・第2巻(非公開版)』
「……でも」
布団から顔だけ出した彼女の瞳は、
ほんの少しだけ、強い光を宿していた。
「……あたしがやってたこと、間違ってなかったって、天城くんが……言ってくれたから」
事件の直後、天城は決して怒らなかった。
むしろ、あの最悪の瞬間に――
「怒ってない」と笑ってくれた。
「それに、セラフィーナ会長にも“観察は許可してる”って言ってもらったし……」
天音は起き上がって、ノートをそっと抱きしめる。
「だったら、今度はもっと……ちゃんと、バレないようにやればいいよね」
その呟きは、もはや使命感に近いものを帯びていた。
翌朝から、彼女の“観察”は再開された。
だが第2巻のテーマは「可視化されない愛」。
公開は絶対にされない。
だからこそ、記録精度と情報密度を極限まで高めていく方向へ進化した。
■ 第2巻 記録
7:58 昇降口にて。靴の向き、今日は完璧。寝坊しなかった様子。
→評価:◎(心のゆとりあり。月曜にしては上出来)
8:45 1限開始直後、天城くんの鉛筆が転がった。無意識に隣席を見たあと、すぐ拾う。
→考察:周囲に頼らず、自立心を鍛えている? →要観察。
10:20 2限目、窓の外を2.8秒間見つめる。左目のまばたき頻度がやや高。
→疲労度:中程度。水分補給を促すべきだが今回は我慢。記録のみ。
天音は慎重になっていた。
観察の際は、メモ帳ではなく極小イヤホン型レコーダーを使い、授業中はひたすら頭の中で暗記。
放課後には自宅でまとめ直し、ノートに手書きで清書。
ページの端には、「天城くん本日笑顔回数:3」「目を合わせてくれた秒数:合計9.2秒」など、もはやプロファイリングレベルの数値管理が並んでいた。
そして第2巻には、ある“裏ページ”が存在した。
そこには、彼女の中の誰にも見せない気持ち――
第1巻には書けなかった本音が記されている。
――どうして、こんなに気になるのか。
わたしにも、ちゃんとはわからない。
でも、天城くんが笑ってると、胸の奥があったかくなる。
誰かにいじられて、照れてる顔を見ると、自分のことのようにドキドキする。
……それだけで、今日も“見守ってよかったな”って、思える。
そう、これはただの観察じゃない。
彼女にとっては、祈るような気持ちなのだ。
“今日の天城くんが無事で、優しくて、いつも通りでありますように”
その願いを、一ページずつ綴るように――
天音の“観察ノート第2巻”は、今日も静かに増えていく。
もちろん、天城はまだ気づいていない。
――彼が何気なく笑ったその瞬間。
隣の席の少女が、そのすべてを記録していることに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる