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魔女の来訪
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「……ふぅ」
玄関の扉を閉めて、僕はようやく息を吐いた。
天音が帰ったあとの静寂が、耳に心地いい。
騒がしかったわけじゃないけど、ずっとテンパりっぱなしの彼女の空気は、どこか“張りつめた癒し”という妙な感じがあった。
(……でも、楽しそうだったな。あいつ)
あんなに真っ赤な顔して、コップ持つ手が震える奴、初めて見た。
こっちまで緊張するっての。
僕は軽く肩を回して、ソファに倒れ込む。
ようやく一人。
やれやれ、今日は珍しく疲れた……
と思った矢先――
「……天城君。まさかとは思いましたが、“誰かを招いていた”ようですね」
「――ひゅっ!?!?!?」
背筋が凍った。
(いま……いま、なんか、声が……)
振り向くと、そこには――
「ごきげんよう。失礼します。
……私は“訪問予告なし訪問”を好む主義ですので」
玄関のドアが――すでに開いていた。
「うわあああああああああああ!?!?!?」
「落ち着いてください。驚くほどのことではありません。
……日課の見回り、です」
「えっ!? うち、見回りエリアに入ってたの!? 防犯カメラかよ!!?」
そこにいたのは、完璧な制服姿に、風一つ乱れぬ白銀の髪。
圧倒的な存在感を放ちながら、なぜか玄関マットで靴を丁寧に脱いでいる。
「え、あの、なんで……本当に……?」
「“空気”で察しました」
「怖ッ!? もう意味わからないんだけどこの人……!」
そのまま、なぜか当然のように居間へ入ってくるセラフィーナ。
カツ、カツと音を立てて歩き、僕のソファの正面に座る。
「…………」
「…………」
「……天音さん。先ほどまで、ここにいらっしゃいましたね?」
「っ……ま、まあ……うん……」
「ごく自然な流れで訪問された、と?」
「いや、ちょっとお礼っていうか、お茶くらい出そうかなって……」
「――ふむ」
彼女は視線を落とし、指先でスカートの裾を一度つまんで、整える。
そして顔を上げたときには、
いつもの微笑み――ではなく、どこか静かに怒ったような、無表情の仮面が戻っていた。
「……私には、“自然”ではなかったように思えますが」
「ひっ……!」
その一言に、なぜか冷や汗が出る。
「いえ、責めているわけではありません。
あなたが誰を招こうと、私が干渉することではありません。
ただ……」
「ただ?」
「私も、“同様の権利”を行使する権限がありますよね?」
「権利!? 何の!?!?!?」
「あなたの生活サポートを担当する私にも、
“家庭訪問による状況確認”の資格があるはずです。
……天音さんだけ、特別に許されたわけではないのですから」
「何その定款みたいな理屈!? いつ僕そんな契約したの!?!?」
「この家には、彼女の“温度”がまだ残っている気がします」
そう呟いた彼女は、リビングの空気を感じるように目を伏せた。
「天城君」
「な、なに……」
「ソファ……どちらに座っていたのですか?」
「え、えっと……天音? こっち……」
「なるほど」
す、と彼女はその天音が座っていた場所に、無言で腰を下ろした。
「………………」
「…………なんで黙ってるの? こわいって」
「……いえ。ただ、なんとなく――“確認”しておきたかっただけです」
(何をだよ!?!?!)
その後も彼女は、リビングのカップの位置を直し、ティッシュの箱を整え、
なぜかうっすら笑顔でこう呟いた。
「……彼女、とても楽しそうでしたね」
「えっ、うん……まあ」
「……その表情、あなたもまんざらではなかった。
ふふ……油断すると、すぐ誰かに懐きますね」
「いや、なんか物騒なこと言ってない?」
そして――
「私も、今度は“予告あり”で伺いますね。
……あなたのために、少しだけ料理の勉強もしておきます」
「やめて!? 絶対に!? 火の通し方だけは間違えないで!!?」
「大丈夫です。初回は“冷製サラダ”にします。切るだけですから」
「家庭的~~~!!」
こうして、天音が去った直後――
白銀の魔女は、何食わぬ顔で“同じ場所”に座ることで存在を主張し、
またひとつ、天城の家に「魔女の気配」を刻んでいった。
静かに、しかし確実に。
“自分だけの居場所”を、塗り重ねるように。
玄関の扉を閉めて、僕はようやく息を吐いた。
天音が帰ったあとの静寂が、耳に心地いい。
騒がしかったわけじゃないけど、ずっとテンパりっぱなしの彼女の空気は、どこか“張りつめた癒し”という妙な感じがあった。
(……でも、楽しそうだったな。あいつ)
あんなに真っ赤な顔して、コップ持つ手が震える奴、初めて見た。
こっちまで緊張するっての。
僕は軽く肩を回して、ソファに倒れ込む。
ようやく一人。
やれやれ、今日は珍しく疲れた……
と思った矢先――
「……天城君。まさかとは思いましたが、“誰かを招いていた”ようですね」
「――ひゅっ!?!?!?」
背筋が凍った。
(いま……いま、なんか、声が……)
振り向くと、そこには――
「ごきげんよう。失礼します。
……私は“訪問予告なし訪問”を好む主義ですので」
玄関のドアが――すでに開いていた。
「うわあああああああああああ!?!?!?」
「落ち着いてください。驚くほどのことではありません。
……日課の見回り、です」
「えっ!? うち、見回りエリアに入ってたの!? 防犯カメラかよ!!?」
そこにいたのは、完璧な制服姿に、風一つ乱れぬ白銀の髪。
圧倒的な存在感を放ちながら、なぜか玄関マットで靴を丁寧に脱いでいる。
「え、あの、なんで……本当に……?」
「“空気”で察しました」
「怖ッ!? もう意味わからないんだけどこの人……!」
そのまま、なぜか当然のように居間へ入ってくるセラフィーナ。
カツ、カツと音を立てて歩き、僕のソファの正面に座る。
「…………」
「…………」
「……天音さん。先ほどまで、ここにいらっしゃいましたね?」
「っ……ま、まあ……うん……」
「ごく自然な流れで訪問された、と?」
「いや、ちょっとお礼っていうか、お茶くらい出そうかなって……」
「――ふむ」
彼女は視線を落とし、指先でスカートの裾を一度つまんで、整える。
そして顔を上げたときには、
いつもの微笑み――ではなく、どこか静かに怒ったような、無表情の仮面が戻っていた。
「……私には、“自然”ではなかったように思えますが」
「ひっ……!」
その一言に、なぜか冷や汗が出る。
「いえ、責めているわけではありません。
あなたが誰を招こうと、私が干渉することではありません。
ただ……」
「ただ?」
「私も、“同様の権利”を行使する権限がありますよね?」
「権利!? 何の!?!?!?」
「あなたの生活サポートを担当する私にも、
“家庭訪問による状況確認”の資格があるはずです。
……天音さんだけ、特別に許されたわけではないのですから」
「何その定款みたいな理屈!? いつ僕そんな契約したの!?!?」
「この家には、彼女の“温度”がまだ残っている気がします」
そう呟いた彼女は、リビングの空気を感じるように目を伏せた。
「天城君」
「な、なに……」
「ソファ……どちらに座っていたのですか?」
「え、えっと……天音? こっち……」
「なるほど」
す、と彼女はその天音が座っていた場所に、無言で腰を下ろした。
「………………」
「…………なんで黙ってるの? こわいって」
「……いえ。ただ、なんとなく――“確認”しておきたかっただけです」
(何をだよ!?!?!)
その後も彼女は、リビングのカップの位置を直し、ティッシュの箱を整え、
なぜかうっすら笑顔でこう呟いた。
「……彼女、とても楽しそうでしたね」
「えっ、うん……まあ」
「……その表情、あなたもまんざらではなかった。
ふふ……油断すると、すぐ誰かに懐きますね」
「いや、なんか物騒なこと言ってない?」
そして――
「私も、今度は“予告あり”で伺いますね。
……あなたのために、少しだけ料理の勉強もしておきます」
「やめて!? 絶対に!? 火の通し方だけは間違えないで!!?」
「大丈夫です。初回は“冷製サラダ”にします。切るだけですから」
「家庭的~~~!!」
こうして、天音が去った直後――
白銀の魔女は、何食わぬ顔で“同じ場所”に座ることで存在を主張し、
またひとつ、天城の家に「魔女の気配」を刻んでいった。
静かに、しかし確実に。
“自分だけの居場所”を、塗り重ねるように。
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