静寂の歌(逢魔伝番外編)

当麻あい

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第三章

3-4

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    四


 「僕とみのるは、一緒に座っていたんだ。でも、向こうの車両で銃声がしたから、身を低くしてすみっこにいた。うまいこと当たらなかったみたいだね。耳元で、きんきん、うるさく鳴っていたから、たぶん吊革とか、鉄の棒にぶつかってはじき返されたんじゃないかな」
 座敷に上がって見ると、子供たちが座卓の前でぐるりと円を描いて、みつばちのように集まっていた。純一は、声をひそめて内緒話でもするように話している。
 「一人ずつ確認しながら、撃っていたんじゃないですね。よかった」と、ななこはようやく安心したのか、金色のポニーテールをゆらして笑った。
 「そりゃ、無差別でしたからね。すごい速さで、走って行ったんです。確認なんかできないでしょう」と、みのるは邪植の淹れた緑茶をすすりながら、小さくつぶやいた。「でも僕より純一さんのほうが、しんどかったんじゃないですか」
 「なんでだよ。お前だって泣いてたじゃないか」
 「そういうことじゃないですよ」
純一は、眉間に皺をよせて、みのるの無表情をじっと見つめた。二人のやりとりを眺めながら、僕は苦笑をもらした。黙りこんだみのるに代わって、ゆるやかに話し始めた。
 「純一は、ずっとみのるにくっついていてやったんだろう?そばで、人が倒れても、君はみのるを優先して動いていた。そうだね?」
 純一は僕の顔を見上げると、途端、眉尻を下げて、いまにも泣きだしそうな表情をした。しかし、ぐっとうつむいてこらえた。僕は「よっこらせ」と、座卓の前に座り込んで、純一の頭をなでた。
 「だから、みのるは泣いたんだ。怖かったからじゃない。悲しかったんだ。でも、嬉しかったんだね」
 「先生」
みのるは眉間に皺をよせて顔を上げたが、くちびるをとがらせて、黙りこんだ。それに微笑を浮かべて、座卓の上で両手を組んだ。
 「二人とも、無事でよかった。知りあいの刑事に事情を話しておいたから、今日はみんな送ってもらいなさい」
 「僕たちは、事情聴取とか受けなくていいんですか?」純一は、少しだけはにかんだ顔で、つぶやいた。
 「その刑事とはつきあいが長いもんですから、どうにかしてもらいます」
 「先生にも、友達っていたんですねえ」
今まで黙って話の流れを見守っていたさゆりが、ここに来てようやく軽口を訊いて、からかいはじめた。みなも緊張の糸をふっと解いて、口を大きく開けて、笑いだした。みのるだけは、眉をひそめて「時々、悪いんだよなあ。先生は」と、ぼやいていた。時々ではなく、実質的に悪いです。とも言えず、苦笑しておいた。
 ひとまず、子供たちを木下にあずけることにした。彼は家に上がるなり、僕の勝手な行動に対して散々文句をわめいたが、それ以上に重要な話しがあるようで「また来る」と、だけ言って出て行った。
僕は、ようやっと一息つける、と思いながら縁側で茶をすする。紅葉で彩られた庭先は鮮やかで、錦が丸池に飛び込んだり、空中をただようたびに、風に舞いあげられてはらはらと、辺りを黄や赤に染めていった。
 「こっちは、特に問題なかったぞ」
 いつの間にそこにいたのか、八枯れは、僕の隣で丸くなると大きなあくびをもらした。黄色い双眸を薄く細めて、牙をのぞかせた。
 「うるさかったから、中継も見せていない。電話を奪ったら、ひどくあわてとった。少しからかってやったわい」
 「お前と遊んでいるうちに、僕たちが帰って来たのか」
 「そんなこと知るか」
 「良かったよ」
 そっぽを向いた八枯れの頭をなでながら、苦笑した。こいつはまったく素直じゃないが、案外僕よりもやさしいやつなのかもしれない。それにしても、と頬づえをつくと、小さくため息をついた。
 「どうやら、あの歌が影響を及ぼしているようだ。お前、中継から歌が流れているのに気がついたか?」
 「いいや、そんなものは聞こえんかったな」
 「いずれにせよ、厄介なことになった」
僕は、湯呑を縁側の板張りの上に置くと、釣った右手の上に左手を重ねて、腕を組むようにして、体を休めた。
 「おそらく、乱射した奴も、歌をどこかで聴いたんだろうな。だが、妙だと思わないか?銃まで手に入れて、ずいぶんな念の入用だ」
 「不自然さなど、はじめからそうだろう。自然な流れなど、期待しないことだな」
 「では、自然に見えたことも、もしかしたら不自然だったのかもしれないな」
 「どういう意味じゃ?」
 「まずは、本当にそうかどうか。木下から話しを聞く必要がある」
八枯れは眉間に皺をよせると、横たえていた体を持ち上げて僕をじっと、見据えた。丁度そのとき、庭先に顔を出した男の子がいた。ヒーロー物のお面をつけて、ひょろっと長い背を一度曲げて、あいさつをした。その足元には、以前よりも数段太く、でかくなった蛇の影が、ぬらっとうごめいていた。
「先に面倒なのが来たな」と、つぶやいた八枯れの声に、気づかれないよう深いため息をついた。

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