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第三章
3-17
しおりを挟む十七
翌日からのニュースは、先日の暴動や放火、バラバラ殺人の犯人逮捕などで、騒がしくなった。
僕たちはそうした世情に頓着しないので、気にも止めていなかったが、私塾生たちにはうるさく詮索されて辟易した。八枯れなどは、しばらく愉快そうに子供たちの様子を見ていたが、すぐ飽きたのか、いつもの通り縁側でごろごろするようになった。錦も同様に、池のなかでくるくると回っているだけだったが、錦のことを見えるようになった純一や、さゆりとは、時折なにごとか話しをしているようだった。
変わったことと言えば、他にもある。邪植は、刈り取ってきた花と、歌を吸い込んだ葉の性質を調べたいとかで、かれこれ数日は奥座敷の部屋にこもってしまっていた。式のなかで一番好奇心の旺盛な邪植は、これを機にさまざまなことを学ぼうとするかもしれない。そう感心しながらつぶやくと、八枯れは「どうせすぐに飽きるぞ」と、言ってあくびをもらしていた。
数日して、木下がやって来た。担当を外されたはずがいち早く現場に居合わせたのと、容疑者として捕まえた高橋つぐもを自白させたのも手伝って、近々昇進するとかしないとか言う話しまで聞いた。だが、話しの中心は僕と八枯れの無茶に対する説教だった。諸々のことを合わせて説明しに来たのか、説教がしたいのか、よくわからない奴だ、と愚痴をこぼすと、なお怒りに口を動かしていった。面倒な男だ。
「良いじゃないか、無事だったんだから。それにあれは事故だ。巻きこまれたのは僕らのほうだ」
「だから巻き込まれる前に、警察を呼べと毎回、口すっぱく言っているじゃないか。君はいつだってその無謀癖が治らない。馬鹿だよ、本当に」
「わかったわかった」耳をほじくりながら、茶をすすると、ぎっ、と睨まれた。まったくつぐもと言い、木下と言い、すぐ人を睨むのだから短気でいけない。座卓の上でみかんをかじりながら、尻尾をゆらしている八枯れを眺めながら、ところで、と早々に話題を転化させた。
「よく自白したね」
「そのことで、今日は来たんだ」木下は神経質そうに眼鏡を押し上げると、ため息を吐いた。「なに、僕がさせた訳じゃない。君と関わりがあることを話して安心させようとしたら、君の名前を出した途端、僕が殺しました。ぺろり、と言ったよ」
「良かったじゃないか。おめでとう」
「良かないよ。君のことをごまかすのにどれほど苦労したと思っているんだ。頼むからもう無茶をしないでくれ」
また話しが怪しい方向へ向かいはじめたので、軌道を修正する。
「他に何か言っていたか?」
「ああ。何だか妙なことを言っていたよ」
「妙?」
「歌が変わってしまったからもう駄目なんだ、とかなんとか。こりゃ、暴動や放火を行った連中も言っていたことだよ」
「何て?」
「歌が聴こえたら気持ち良くなって、なんでもできる気がした。でも、変わってしまったから、こっちに帰って来てしまった。手をみたら血だらけで恐くなった。今までやってきたことの記憶が突然戻ってきた。もう無理だ、駄目だ。とか、まあいろいろだ」
あまりのことに、すぐ反応することができなかった。眉間に皺をよせて黙り込む。僕が葉に、歌を吸い込んだことと、歌そのものが変わってしまったことには何か関係があるのだろうか。木下は煙草盆を引き寄せると、一本くわえてそれに火をつけた。
「しかし、何だね。可哀想な子ではあるようだ」
「顔は見たのか?」
「ああ。だが、大きな傷が左側についているだけだった。君が形容したような化け物じみたことにはなっていなかったよ」
「そりゃそうだろう」
「どういうことだい」
ムッとして紫煙を吐き出した木下の顔をちら、と見ながら笑みを浮かべた。彼の顔を化け物のように変化させていたのは、こちらのものではない。物質的な傷が、心に傷をつけたとしても、ああはならない。それはおそらく僕にも見当のつかない何かであり、名前のつけようのない何かだったのだろう。
「知らないほうがいいよ」
煙草盆を引き寄せると、マッチをすって煙を吸い込んだ。ポケットにつっこんだままだった歌う葉の一枚を取り出すと、手のひらの上で眺める。そこには滲んだ文字で「Let well alone.」と、刻まれていた。
了
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