シルバーナイトガーデン~刀使いのハンターと氷のヴァンパイア~

遠鐘みすず

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4章

4.9*

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 窓から差す月明かりが、アパートのリビングを静かに照らしている。
 トウリは恭しく招き入れたエミリオをソファに座らせると、その足元に跪いて尋ねた。
「何か飲むか? それか、軽くつまめるものでも買ってこようか」
「あ……さっき、シャンパンをいただいたから。屋敷を出る前に軽く食べてきたから、お腹もそこまでは……」
「……そうか」
 トウリは頷きながら、エミリオの白い手に訳もなく触れる。これまで、尽くされるのが当たり前だったから、どうやって他人の機嫌を取ったらいいのかがわからない。
 普段とは様子が違うトウリを前に、落ち着かなさそうにしていたエミリオが、不意に思い出したようにスーツのポケットを探った。
「トーリ、これ……」
 エミリオはそう言って、白地の正絹に流水紋の刺繍が施されたハンカチをトウリに差し出した。それは、十年という時の流れを示すかのように、少し黄ばんでしまっているが、丁寧に手入れされていることがわかった。
 トウリはそれを受け取り、祈るように額に押し当てた。そうすると、エミリオの甘い香りがして、彼がこれを大切に持ち歩いていたことを証明してくれる。
「これを持っていてくれて、ありがとう……エミリ」
 エミリオはハンカチを握り締めるトウリの手に自らの手を重ねると、首を横に振った。
「……本当は、遊園地でこのハンカチがトウリのご両親のものだって知ったときに、返さなきゃいけなかったんだ。だけど、出来なかった。これがなくなったら、トーリとの繋がりがなくなっちゃうような気がして……」
「エミリ……」
「ごめんなさい……」
 トウリは俯くエミリオの頬に触れ、アイスブルーの瞳を覗き込む。
「謝るのは俺の方だ。俺は自分のことばかりを考えて、君を幾度となく傷付けた」
「トーリ……」
「すまなかった」
 エミリオはもう一度首を横に振ると、トウリの首の後ろにそっと腕を回して抱き締めてくれる。
「トーリがお祖父様から認められようとして頑張ってるの、わかってるから……」
 エミリオの不思議な甘い香りに包まれ、トウリは目の奥が熱くなるのを感じながら、彼の背へと腕を回そうとして、それを躊躇う。
 誰かの体に触れることなど、トウリにとって呼吸するのと同じくらいに容易いことだった。そうやって、いつかの夜も気安くエミリオに触れたのだ。
 なのに、今のトウリにとって、それは酷く難しいことのように感じられる。
 トウリが行き場のない手をしばし彷徨わせているうちに、エミリオは静かに抱擁を解いてしまう。そうして、顔を上げた彼と目が合うと、トウリは彼の唇にそっと触れて言った。
「……凄く、君に触れたい」
 これまで、トウリは何人もの相手と行きずりの関係を持ってきた。相手に困ったこともなければ、自分から求めたことなどなかった。
 なのに、今はこんなにもエミリオと肌を合わせたいと思っている。
 エミリオのことを、滅茶苦茶にしたい。考えるだけで体が熱くなっていくのを感じながら、トウリは彼の目を真っ直ぐに見詰めて言った。
「抱かせてくれないか」
 エミリオは視線を少しだけ逸らして、けれど、逃げ出そうとはせずに、
「……いいよ」
 そう言って、頬を朱色に染めた。



 二人でシャワールームに移動し、互いの体を流し合う。
 体があたたまってきたところで、トウリはエミリオの腰に腕を回すが、やんわりと胸を押し返されてしまった。
「っ……やだ……」
「何が嫌?」
「慣れた感じ……、……」
 そう言われても、実際、手慣れているのだ。トウリは濡れて目元に垂れてきた前髪をかき上げる。
「……なら……どうしたら、キスしていい?」
 そう言って、飼い主の指示を待つ犬のようにトウリが待っていると、エミリオはそちらから唇を重ねてきた。そうしてしばし、啄むようなキスを黙って受け入れていたのだが、そのうち辛抱ならなくなって、こちらから舌を差し入れる。
「、んんっ……」
「ん……」
「は、ぁ……っふ……トー、リ……」
 ピチャピチャと音を立ててエミリオと唾液を混ぜ合いながら、トウリはボディオイルを垂らした手で彼の尻の谷間をなぞり、秘められた場所に触れた。
「あ……」
「……触るぞ?」
 トウリが低い声でそう言うと、エミリオは首の後ろに腕を回してきた。それを承諾の返事とみなし、トウリは彼の体内にゆっくりと指先を埋めていく。
「ひ、ぅ……っ……」
 オイルが潤滑油となり、指一本がスルリと根元まで埋まる。トウリはエミリオの首筋を唇で愛撫しながら、ゆるゆると指を抜き差しし始めた。
「ぁ……ん、……」
「……少しは慣れてくれたか?」
「トーリだけ……ずるい……、……」
 エミリオはそう言って、トウリの腹部の筋肉をつ、と撫でてくる。トウリはその手を取り、自らの下腹部に誘導した。
「なら、触ってくれるか?」
 自分よりも温度の低い手指が、トウリのペニスの輪郭をなぞる。そのまま両手で包み込まれて、トウリはそこに熱が集まっていくのを感じながら、エミリオの体内を指で拡げていく。
「は、ぁ……っひ、ぅ……」
「ん……もっと強く握って」
「ぁ……こ、こう……?」
 体温の低いエミリオの手は、かえってその存在をトウリに強く意識させる。熱を吸い取ってくれるかのようで、酷く心地がいい。
「うん……それ、いいな」
 エミリオは気を良くしたのか、竿を上下に扱きながら、もう片方の手で亀頭を撫でてくる。トウリは息が上がっていくのを感じながら、エミリオの体内に埋めた指をゆっくりと折り曲げる。
「っぁ、う……」
 膝が折れそうになるエミリオの体を支え、トウリは彼に囁いた。
「……ベッドへ行こうか」
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