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1公爵令嬢、気づく

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「リーナ」

「はい、お嬢様。如何なさいましたか?」

夏の昼下がり、公爵令嬢アンリ・ブーケは婚約者であるクリス第二王子とのお茶会を待っていた。

「今日のクリス様はどのような装いかしら。瞳に合わせて深い蒼色かしら。それともシックな黒かしら。」

「お嬢様はどのような装いでもきっと素敵に褒められますわ。」

「そうよね、沢山イメージトレーニングしたのだもの。」

「クリス第二王子様、いらっしゃいました。」

いよいよだわ、と気持ちが高まっていく。通例通りお辞儀をしてお迎えして顔を上げた。
 アンリの目の色に合わせて藤色を主とした装いだった。私の顔がかぁ~と真っ赤になっていった。と同時にあんに練習した言葉の中のレパートリーになく、言葉に詰まってしまった。

「…ようこそいらっしゃいました。どうぞお召し上がりくださいませ。」

 あぁぁぁ!なんて素っ気ない態度なの!
 クリス王子は気にした様子もなく椅子に座り、いつもの如くぽつりぽつりとクリス王子が問いかけ、私は短く答えるだけでお茶会は終わってしまった。





その夜、私はベッドに寝転がり今日のお茶会を考えていた。
 これでは、クリス様に愛想を尽かされて妾や側室を沢山持たれてしまうのでは…?
なんて恐ろしいこと!どうしましょう。どうしたら…

チリンチリン
「リーナ、クリス様に妾を持たれてしまうわ!」

「え…と、お嬢様それは一体…?」

リーナにベッドでの考えを話した。やはり、リーナも心配をしていたようで、2人で繋ぎ止める方法を考えて、来週のお茶会に備えることにした。





1週間後



「喋れないのなら、行動で示せばいいのよ!」

「そうですね、お嬢様!今日は思い切って手を繋いで下さいませ!」

「ええ、それなら出来そうだわ!」



「クリス第二王子様、いらっしゃいました。」


ドキドキが最高潮のまま、お辞儀をしてクリス様と対面した。
 はぁ、今日も麗しいわ。睫毛もシルバーなのが作り物のお人形みたい。はっ!クリス様のお人形を作りましょう。どうして気が付かなかったのかしら。

「…ぉ…ま…お嬢様」

ああ、いけないいけない、大切なクリス様とのお茶会に別のことを考えているなんて不覚!
 今日の目的の手を………

ドキドキ
  ドキドキ

「そういえばアンリ」

「ひゃぁっい!」
なんて事!クリス様の毛穴も見れそうなほど近くにいたなんて、はしたない!

「私の友達を連れてきたんだけど、紹介してもいいかな?」

「へ……?」

友達ですって?!側近候補の方々は顔見知りだし……まさかやはり妾候補!?

さぁーと血の気が引いてカタカタ震える手を無理やり抑えて
「ええ、勿論ですわ。」
とだけ答えた。


「おいで」


「え?」
クリス様の顔ばかり見てきた私は手元にフカフカした感触で初めて自分の手元を見た。
 つぶらな瞳に三角の耳

「キツネ…?」

なんて可愛らしいのかしら!面影がなんとなくクリス様に似ていらっしゃるわ!

「可愛らしい…」

「だろう?きっとアンリは好きだと思ったから今日連れてきたんだ。」

「…ありがとう存じます」



その後ずっとキツネを撫でてお茶会は終わってしまった。
 そう、終わってしまった!!

「キツネを渡したり、一緒に撫でたりって手を触れさせる方法は沢山あったのに…私はなぜずっとキツネを独占して撫でていたのかしら!?」

「それはお嬢様が緊張しすぎて手元の癒しを離されなかったからですわ」

「そうなのよ!私は何をしていたのかしら!!」

なんて事を…!
でもまだチャンスはあるわ、次のパーティーで2人でダンスを踊る間は私から沢山お喋りするわ。
 いつもほぼ無言だけど…きっと大丈夫。私なら出来るわ。


「リーナ、次の舞踏会よ!」

「丁度クリス第二王子様のお誕生日パーティーですね!」

はっ!プレゼントをどうしましょう。いつも既製品をプレゼントしているけれど、今回は手作りとかどうかしら?刺繍を入れたハンカチーフとかも素敵よね!

「リーナ、私手作りプレゼントを用意するわ!」

「素晴らしいです!お嬢様!きっとクリス第二王子様もお喜びになりますよ。」

「ええ、頑張るわ。」


次の日から刺繍の図案を考え、この間見せて貰ったキツネの目をクリス様の蒼色にすることにした。
 図案は完璧。布も失敗しても良いように何枚も用意できたし、あとはがむしゃらに刺すだけ!



1週間後

「で…出来たわ」

少しヨレがあるけれど、許容範囲だろう。

「お嬢様、おめでとうございます!前日に間に合いましたね!」

「ええ、今日はゆっくり休んで明日の舞踏会に備えるわ。無くしてはいけないから、ベッド横のテーブルに置いておくわね。」

「はい、ゆっくりお休み下さいませ。」



次の日

「今日はいよいよね、朝からエステと衣装と忙しくなるわよ!でも私はこれを今日渡せると思うと…!フフフッ」

きっと笑顔で喜んで下さるわ。楽しみ!




やはりパーティーの準備は半日かかるわね。あとはメイクだけだわ。

「お願いするわね」

「はい、今日1番美しいご令嬢はお嬢様ですよ。」

 あら、昨日この紅が似合うかと思ったけれど、もう少し薄いピンクの方が良いわね。

「紅をもう少し薄いピンクにしてもいいかしら?」

「はい、そちらの方がより可憐になりますね。」


横にあったちり紙でぽんぽんと紅を拭き取って薄ピンクの紅を塗り直した。

「うん、やっぱりこちらの方が良いわね。」


さぁ、出陣よ!ハンカチーフを持って…………

「え…?!」

「如何なさいました?お嬢様……え!」


クリス様を思って用意した銀色のハンカチーフに紅が…!

「私の管理が悪かったせいですわ、申し訳ありません!」

「いいえ、違うわ。私が近くに置いておきたいって言って置いたじゃない。ちり紙だと思ったものがまさか…」

折角作った物が無駄になってしまったのは勿論悲しいが、自業自得なので納得している。しかし、今日のクリス様のプレゼントを何も用意していない事の方が大問題だ。

「クリス様のプレゼントが無いわ…!」

「…僭越ながら、お嬢様が完成すると思っておりませんでしたので、代わりの万年筆をご用意してございます。」

「リーナ!ああ、良かった。貴方が私のメイドで本当に良かったわ!」

「しかし、よろしいのですか?折角綺麗に完成しましたのに…」

「いいのよ、ヨレが気になっていたし、紅が着いたハンカチーフなんて渡すほど非常識ではないわ。本当にありがとう。行ってくるわね。」


その後は いつも通りなんの問題もなくパーティーは終わった。
いつも通り、あまり喋らないまま。いつもよりクリス様のお顔を見れなかったのはあるけれど、 クリス様はいつも通り ニコニコと笑ってくださったのが救いね。

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