死体は考えた

黒三鷹

文字の大きさ
3 / 3

しおりを挟む
 いつの間にか眠りに着いていたらしい。部屋の中は暗く、どうやら現在は夜らしい。
 私が学生の頃、暗所恐怖症だったが、その時は部活の合宿で部員全員で泊まっていて、他の部員に見栄を張る為に肝試しに参加した事を思い出した。妄想癖もあったせいか、暗い場所が余計に怖く感じた。ハンガーに掛けられていた服を幽霊と勘違いし、腰を抜かす程だった。今はもうそんな事は無くなり、笑い話になったが、当時の私からすると笑い事では無かったのだろう。
 いつの間にか部屋が明るくなっていた。時計を見ると、7時半を指していた。看護婦が点滴を交換しに来た。看護婦の体に注目し、多少は欲情したが、どうする事も出来ない虚しさがあった。
 さて、何を考えようか、と思い、倒れた日から何日経ったか数えてみることを思い付いた。時計の下に掛けられていたカレンダーに目をやる今日は2022年の10月5日なので、3日が倒れた日らしい。
このままカウントしていって、日数の分だけあの野郎を殴ってやる。
そう決心する。気持ち拳が握れた様な気がした。

 倒れてからずっと、点滴のみで一切口から食事をしなかったこともあり、耐え難き食欲に襲われた。そのせいか妄想する事も途中で遮られる。今なら苦手だったシイタケすらも喜んで食べられる、そんな気がした。カレンダーは2023年になっていた。この時点で欲に苛まれるのなら、起き上がる迄まともな思考をする事が出来るのだろうかという不安が襲った。

 カレンダーは2033年を示していた。缶コーヒーの1割程度しか飲んでいないから10年もすれば動けるようになるだろう、という考えをした事が間違いだった。あの時、課長が不敵な笑みを浮かべていた理由が何となく分かったように思えた。という言葉を使い、量によって年数が短くなる、と私が勝手に思う事に既に気が付いていたのだろう。
 私は目の前が暗転した。


 カレンダーは2102年を示していた。60年が経過したようだ。私は動こうと思えば動けたのだろう。しかし、余りにも大き過ぎる時間を失った。寝たきりの為筋肉は衰え、長期間退屈に縛られており、考える事すらままならなかった。
微かに動かせる脳内では、
もう殺してくれ。
という言葉が浮かんで消えた。

 私が動く事は無かった。

 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

セレン☆
2019.01.11 セレン☆

こんばんは、惹かれる題名だったので読ませていただきました(*´꒳`*)

アドバイス云々と言っていたので、遠慮なく言わせていただきます。傷ついたらごめんなさい。

私は、物語を考える上での大まかな筋書きというふうに捉えました。
主人公視点でブレずに年数毎に考える様子はよかったと思います。
コーヒーをどれだけ飲むかで生きられる年数が変わるのも逆の発想があって面白いと思いました。

ただ、ショートショートだからなのかは分かりませんが、中身がないと感じます。厳しく言いすぎたらごめんなさいなのですが、省略しすぎている部分があります。上·中と最後の終わり方はいいと思いますが、下の始めのあたりから時が進んでいく様子で、もう少し物語の展開が欲しかったかなと思います。

あとは、セリフを書く時、改行した方が読者が読みやすいですよ。

初めてだそうですので、これから磨いていけばきっと良い作品が書けると思います。
黒三鷹さんの作品、気に入りました。私にはない発想の持ち主なので、参考になりました👏
ありがとうございます☺️

2019.01.11 黒三鷹

ありがとうございます。
初めてで色々分からなかったので、遠慮なく言って頂いて助かりました。
次作へと活かしていけるよう、頑張りたいと思います。

解除

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。