仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

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秋の温泉

甘いの担当

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 倉庫の仕事も順調に終わり、十一月中旬始めの土曜日、富塚君に家に来て……と言われたので行ってみると、何やら家中が甘い匂いで満ち溢れていた。
「これ、何の匂い?」
「作ったんだ、食べてみて?」
 そう言って、手渡されたのはほんのり緑色な茶色のカヌレ。
「え? これ……」
「抹茶味」
 ほぉ……と一口食べる。
「本当、そうだね」
「じゃあ、次はこれ」
 そう言われて食べるのは濃い目の緑色したフィナンシェ。
「また抹茶だ……」
「じゃあ、次はね……口開けて?」
「え?」
 早く! と催促され、口を開ける。
「もっと大きく」
 何で?! と思いながらも言われた通りにしたら。
 何か入れられた!!
「どう?」
 口の中にあるの……。
「美味しい……」
 ころころしたのがすぐにとろけて……今はドロドロなんだけど。
 これは……生チョコ?!
 それにまた抹茶味……。
「あのぉ……富塚君? こんなにいっぱい甘いの作ちゃって……どうしたの?」
「あれだよ……」
 そう言って、富塚君は何やらメモした紙を見せて来る。
「ノートに書くほど、俺の頭は今、茶弁当のデザートなんだ!」
「あー……、そういえば、それの担当だったね、富塚君」
「だからだよ!! 日下、俺、言ったよな? 日下居れば大丈夫だって、それに日下、自分で言ったよな? 前に。何か手伝うとか何とか……」
「あー……言ったかもしんない……」
「それを今、やってほしいんだ!」
 かなり前の事……だと思ってしまうのは何でだろう……。一年も経ってないのに。
「じゃあ、次はこれね……」
 そう言って、次々と富塚君は試作品だと言う抹茶味とか、それ以外のお茶の味がする甘い物を出して来る。
 これだけでお腹いっぱいになりそうだ。
「それで最後にして! 今日は……」
「うーん……、良いけど。これじゃなくて、今ので最後で。その代わり、明日も来るんだよ?」
「うぇ?!」
「どんな声? 本当にお腹いっぱいなんだ……。じゃあ、しょうがないね……、また明日も作っとくから食べにおいでね?」
「うん……、分かった……」
 かなり明日もハードそう……。
「富塚君、じゃあ帰るね?」
「うん……また明日」
 素直に帰してくれた。こんなに頭を抱えてる富塚君見た事ない。私も明日、ここに来るまでの間に何か考えなくては!! という気分だったけど、何も出て来なくて、次の日も申し訳なく富塚君の新たに作ったという試作品を食べることになった。
 いろんな物を知ってるな……と同時に富塚君はどんどんとやる気をなくして行った。
 そんなに私、褒めてないかな……?
「あ~! やっぱ……弁当にデザートって、そんなにないような気がする……」
 ガックリと。
 あー……良い案が出ないから、どんどん富塚君が落ち込んで行く。
 何とかしないと……。でも、お弁当の中に入ってる甘い物……って。
 おかずでも甘い物って言ったら大学芋とか……。
「ねえ、思ったんだけど。めちゃんこ甘い! 卵焼きにすれば良いんじゃない?」
「え?」
「ほら、お弁当のおかずにも卵焼きは入ってるし! あー、でも、それだと全然デザートって感じじゃないよね……」
「いや……、卵焼き……、甘い……と来れば……そう! そこに抹茶を入れて……、それで……」
 やっとこ、後日、富塚君が考え出したのが……。
「バームクーヘンッ?!」
「そう、抹茶入れて、薄緑色にしたし、卵焼きだよ! これでも」
「えー!? そう言われると、そんな気も……」
 それをまじまじと見る。平日の仕事帰りにこんな物を作ってしまった富塚君って……。
「名付けるなら、これは『めちゃんこ甘い! 抹茶風バームクーヘン(卵焼き)』かな?」
「名前長い!! もっと短くして!」
「えー、じゃあ、抹茶バームクーヘン風卵焼き」
「めちゃんこ……消しただけじゃん」
「文句は良いから、食べてみて」
「うん……」
 ぱくっと一口。
「うん……卵焼きだ。柔らかくて良いね」
「甘さは?」
「調節がいるね、これは」
「甘いの大丈夫な日下が言うほどか……頑張ろう、期限近付いてるし」
 そう言って、富塚君はそれを一心にやった。
 会社の会議でその卵焼きが通ったのか? と言えば通らなかったみたいだけど、おもしろい発想だな! と社長に言われたらしい。
 それも日下のおかげ! と笑顔で言って来たけど、帰りの駅のホームで私は言う。
「最近、富塚君が投げやり気味だったのって、甘い物作ってたから? 自分は食べないのに何で作ってるんだろう? っていうやつ?」
「そうかもね……。だけど、これで俺は甘いの担当じゃなくなったし、まあ、良かったよ」
「あー! それで!? それで私に頼んだの? 仕事できない人間だもんね! 私! だから、富塚君、私の舌で試したんだ!? 味音痴だと思ったんでしょう!!」
「いや、普通に俺が甘いのの味見したくなかったからだよ。それに甘さが足りないって言われた。会議で出したのは」
「えー、そんなミス、富塚君がしたの?」
「いや、作って出したのは俺じゃなくて他の人」
「誰?」
「教えない」
「……その人のこと、かばってんの?」
「違う。もう終わったしね。これでやっとゆっくりと日下ともっと仲良くなれる時間が増えたわけだ」
「あの……でも……」
 私は言いたい。そろそろ仲良くなる時間もそれだけではつまらないと。
「あー、楽しみだな~温泉」
 周りに誰もいないからって、この男は~!!!
「一緒に温泉入るわけじゃないのに楽しみなの?」
「うん……、紅葉見るの好きなんだ。真っ赤よりも緑や黄色、オレンジ、赤とかが一枚のモミジの中に混ざって入ってるのがね」
「ちょっとロマンチスト……」
 そう言って私はちょっとぷぷぷ……と笑ってしまった。
「うん、良い笑顔だね! 最近、そういう日下の笑顔見てなかったから、ちょっと癒されたわ、俺」
「えっ! こんなので良いの?! 良いんですか? 富塚さんは」
「ん?」
 富塚君も気付いた。
 私達の後ろに今日、会社見学しに来てた新しい派遣候補の三十代くらいのスーツ姿の女性がスマホを見て並んでいた。
「まあ、そんな訳で、日下さん、よろしくね」
「え……」
 どこから居たんだろう……。この後ろでスマホ弄ってる女の人は。指、左に指輪してる……ってことは既婚者?
「電車だよ、日下さん」
「あ、はい!」
 何か、ぎこちなくなる。
 まだ、私達は会社の目があると普通に振る舞えない。
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