触れる唇(短編詰め合わせ)

イツキカズラ

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若返り(中後期)

彼氏が中学の時の姿に戻っていた①

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 浮き上がった意識の中でなんとなく寝すぎたなと思う。目も開かないまま、無造作に布団の上に手を置いて葉大の気配を探す。この狭いベッドでは隣に気配がなければもうここにはいないということだ。頭ではわかっていても体が動くのは僅かな期待が捨てきれないからかもしれない。諦めかけて無造作に伸ばした手が何かを掠めた。

「うお」

「ん…葉?なにしてんの」

 驚いた声の聞こえた方へ未だ眠い目を擦りながら視線を向ける。すると、ベッドの縁からこちらを覗く葉大と目が合う。葉大…確かに葉大だ。だが、その姿は今のものではない。2人の間に長い沈黙が流れる。

「…やっぱ久ってこと!?顔とかホクロとか一緒だし!!!え、なっ…なんで急に大人になってんの?!てか俺んち…なんで俺の部屋で寝てんのっ!?俺んちなのになんか違うしこれって俺がおかしいの?!」

 口を開いた小さい葉大から次々と疑問が溢れ出る。そりゃそうだ。俺だってわけがわからない。

「や、お前こそなんで?どういう…」

 ぐるりと部屋を見回すと家具の配置は現在のままで安堵する。何かがおかしいのは葉大だ。小さいし記憶もない。昔の葉大そのまんまだ。

「…まあ、お前の予想通り。俺は久。俺もなんでこんなんなってるかわけわかんねぇけど…お前今何歳?小学6年とか?」

「はあ?…中二だし…。それにしたってなんで久が家にいるんだよ!な、なんで泊まってんの?!」

 中二…。改めてこう見ると葉大は変わったなと思う。この声のデカいクソガキからよくアレに成長したものだ。

「付き合ってるから」

「!?!!?……付き合ってるって…その、デートとかすんの?」

「する」

 驚いて一瞬漫画みたいな顔をした葉大の目がみるみるうちに輝いていく。この頃から俺を好きだったというのはどうやら本当らしい。デートの有無から聞いてくるとは…純情ボーイだ。

「マ、マジ?俺こないだ久に告ったらフラれたんだけど!てか久は先輩と付き合ってるし……からかってんじゃねーの…?」

「からかってねぇよ、なに?俺に告ったの?」

「うん」

 真っ直ぐと目を見て頷く姿に今度は俺が目を見開くことになった。中学時代、葉大に告白された記憶はない。幼なじみに告られてフッたとなれば おそらく気まずくなるし忘れているということはないだろう。それどころか葉大が俺のことを好きだったなんて一度も考えたことすらなかった。パラレルワールド的なところから来たのだろうか?

「…俺のことナシって言ってたけど本当はアリってことか?!」

「まあ……………結果的に」

 この無垢な葉大に「俺がお前をアリだと思うのは8年後だ」と言ったほうが良いのか、言わないほうが良いのかわからない。少し悩んだ末に余計なことは言わないことにした。

「俺のこと好きなの?」

「まあ」

「ふーん…」

 率直に答えるとチビ葉大の耳がじわりと赤くなる。

「1年前からな」

 からかうように笑うとムッと口を一文字に結ぶ。これも先日見た表情と似ていてふっと笑みが溢れる。かなり変わったと思っていたが意外と変わらない部分も多いらしい。

「……なあなあ、俺のどこが好きなの?デートは?どこ行った?てか、俺んちに住んでんの?!」

「質問が多い多い。ここは泊まってるだけ。デートは色々…買い物行ったり映画見たりテキトーに行きたいとこ行ってるよ。葉の好きなとこは…」

 ゴクリと息を呑む音が聞こえた。いくら昔の姿とはいえ、本人に真剣な面持ちで見つめられている状態で好きなところを言うのは少し恥ずかしい気もする。
 
「俺のこと好きってのがわかりやすいとこ…かな」

「あとは?」

 食い気味に急かされて視線をそちらにやると、おかしなくらい真剣にこちらを見ている目と視線が合う。小中高と一緒に過ごしてきた中で思ったことはなかったが意外とかわいいなこいつ。

「…秘密。お前がそっちの俺と付き合えたら聞いてみ」

「ぜってぇ好きにさせる」

 その真剣な顔に笑みがこぼれる。きっと小さな俺もいずれこの小さな葉大のことを好きになるのだろう。

「頑張れよ。てか起きてからなんか食った?」

 ふるふると首を横に振る。まあ当然だ。悠長に何かを食べていられるような状況じゃないだろう。

「なんか食うか」

「うん、腹減ってた!久ってば突いたりしても全然起きねーんだもん」

「ごめんなー、俺ずっと寝起き悪いよ」

「ふーん、直せよ」

 真っすぐ飛んできた言葉を少し意外に思った。成長していく中でいつからか俺に甘くなっていたが、中高生の頃は確かにはっきりというタイプだった。懐かしささえ感じる言い方も悪くない。

 部屋から出て、リビングへと向かうその後ろをソロソロと着いてくる。ふらふらとぶら下げていた手を前触れもなく掴まれた。

「どうした?」

「別に。手繋いでみたかっただけ。…ちょっとだけ、いいだろ」

 予想外の返答だった。へたくそで妙に強気だが、これまでの言動を見ていると葉大も根本的な部分はあまり変わっていないのかもしれない。手を引いてまた歩き出すと、如何にも嬉しそうに少し早足でぴったりと俺の隣を歩く。

「大人の俺がここにいたらさ」 

「んー」

「怒られちゃうな」

「んー…いや、なんで?」

 ヘヘッと笑う顔に疑問を投げかけると、ドヤ顔でまた口角をあげる。

「手!繋いじゃってるからな!」

「葉はこんくらいで怒らない。第一、お前も葉大で同一人物なんだし」

 事実、葉大が嫉妬してうんぬんというようなことは0に等しい。俺と友人との距離が近くなるのが嫌なことはわかるが、それについて直接釘を刺してきたり、ましてや怒られたりしたことなんてなかった。

「成長した俺がどんなのか知らないけど、俺は成長した俺と久が手繋いでたらムカつくから同じだと思うんだけど…成長してんのかなぁ俺。あっ、久って久じゃなくて、俺の…俺と一緒の!同い年の久な!」

 その嫉妬深さと勢いに笑ってしまった。ハツラツとしていて今よりずっと口数が多く、身ぶり手ぶりも多い。この異常事態にテンションが上がっているのかわからないが、黙っていたら10分は一人で話し続けるんじゃないだろうか。懐かしさと愛しさが相まって自然と笑みがこぼれるこの時間も案外悪くない。

「めちゃくちゃ成長したよ葉大は」

「かっこいい?」

「うん」

「ふーーーん」

 またもや満足げな笑みを浮かべたチビ葉大にカップ麺を3種類差し出す。塩ラーメンに醤油ラーメン、カップ焼きそば、手前にあったものだ。奥にはまだまだカップ麺が並んでいる。想像以上に大量に保管されていた麺類に驚く。あいつまさか俺が来ていない時は全部これで済ませてるんじゃないだろうか。

「ここ葉大んちだし、俺普通に料理できないからこんなんしか食えないけどいい?」

「いいよ!ラーメンのカレーがいい」

「カレー…カレー…はい、これな」

「さんきゅー!久は醤油だろ!」

 俺、知ってます。とでも言うように目を輝かせてくるチビ葉大によく知ってんな、と返して醤油ラーメンを手に取る。俺が中学生の時、葉大はここまで好きだということを全開にしていなかった。ここまで好意を露わにされて何も考えないほど俺は鈍くないはずだ。隠す必要がないからなのか、舞い上がっているのかわからないが、今も昔もまっすぐに好きな人に好きだと示せる葉大をまぶしいと思う。
 
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