14 / 24
バレンタイン
バレンタイン①
しおりを挟むバレンタインの季節になった。リビングで妹の紗世がスマホとにらめっこして「こっちは楽だけど…でもこっちが…」なんて言いながら唸っている。
「ねー、どっちがいいと思う?どっちが美味しそう?」
「俺?」
「兄ちゃんにあげないけど」
「んなことわかってるわ」
渡された画面にはブラウニーやら生チョコやら市販のお菓子を使ったチョコの写真が並んでいた。その下にはレシピのリンクもある。
「一個はマフィンで、もう一個で悩んでるんだけどさぁ」
「本命か」
「なんも言ってないじゃん!」
ぽつりと呟くとすごい勢いで紗世が反論してきた。図星らしい。
「告白すんじゃねぇの」
「違うし」
「ふーん」
「違うってば!兄ちゃんに聞いた私が馬鹿だった!返せっ」
「やだ。これとか美味そう」
スマホへと伸ばされた手を華麗に避け、【コーヒー生チョコ】と紹介されている写真を見せる。紗世が呆れてため息をついた。
「………友達用に二種類作るだけだし」
ふん、と鼻を鳴らした紗世を見る。なんてこいつはわかりやすいんだろうか…。こんな調子では相手にも既に好意がバレている可能性が高い。
「コーヒーとか苦いじゃん。甘いほうがいい絶対。こっちどう?」
「いいんじゃね」
「テキトー?」
「テキトーじゃない」
「じゃあ!こっちとこっちならどっち?」
「…ちょっと見せて」
並んだ可愛らしい写真を見比べ、レシピを開いて見てみる。さっき軽く見た中には溶かして混ぜて固めるようなものもあったけれど、紗世の選んだものはなんだか工程が多くて時間もかかりそうだ。
「こんなムズそうなの作るの?」
「せっかくのバレンタインだし頑張ったのあげたいじゃん」
「…なるほどな。こっちのほうが失敗しないじゃないか」
「でも、こっちの方が映えるよね?それに味も好きな感じかも」
「…ならそっちのほうが喜ぶんじゃないか」
やっぱ本命だろ、という言葉は胸の中にしまっておいた。
「よし、これに決まり!さんきゅー兄ちゃん」
俺の意見は参考にすらされていなかった気はするが、頷いておくことにした。鼻歌を歌いながら買い物へ行く支度をする紗世を横目に自分のスマホでさっきのリンクを探す。
それらしきリンクをタップすると先ほど見た写真がずらりと並んでいた。ビンゴだ。
スクロールしながら考える。そもそも俺が葉大にチョコをあげてもおかしくないんだろうか。付き合っているし葉は喜ぶだろうけど、世間一般的には女子が好きな男子や友達にチョコを渡すといったイベントな気がする。男から渡すとしたらホワイトデーの方がいいのかもしれない。
ふと頭の中にチョコを受け取って喜ぶ葉大の姿が浮かんだ。少し驚いてから満面の笑みを浮かべて一口食べる。そしてまた笑う。そんな姿だ。…渡すのはいいかもしれない。
だが、手作りなんて普段キッチンに立たない俺では失敗する可能性も高いし買うべきか。
…また見えた。今度は「えっ!?久が作ったの!?」なんて喜んでパクパク食べている姿だ。
晩飯を作った時も反応がよかったし、市販より喜んでくれるはず。…手作りにするか。
そうと決まれば次は作るチョコ選びだ。
紗世のようにマフィンだとかケーキだとかは作れないから失敗しないようにできれば簡単なものがいい。
簡単というだけなら色々あるが、葉大の好みを考えるとなかなか難しい。妙に可愛らしいものを渡すのは忍びないし、かといってシンプルすぎるのも味気ない。
散々悩んだ結果、ナッツチョコに決めた。まず、チョコレートを溶かし、クルミと混ぜて型に流し込む。上からナッツを置いて固めたら完成というもので、俺にもできそうだし見た目も悪くない。葉もナッツやクルミは普通に好きだったはず。
渡した時の姿がまた目に浮かんで思わず口角があがった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
だいぶ時期外れですが書きたくなったので。
続き書き終え次第更新予定
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる