覇王の子

八ケ代大輔

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第六幕「覇王の子」

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 減敬、登場。
減敬「二俣城に立て籠り起死回生を狙う信康。一方、家康は信康を止めるべく二俣城へと向かう。信康と家康。岡崎衆と浜松衆。そして、徳川と織田。別々の道を進み、相対する者たちが二俣城へと集う・・・さて、私も最後の仕上げといきましょうか」
 減敬、退場。
信康「秀吉殿から連絡はないか?」
石川「秀吉殿は中国の毛利攻めに参加している為、来る事はできないようです」
信康「左様か・・・では儂らだけという事じゃな」
石川「はい」
信康「すまんな。お主たちまで巻き込んでしまって」
石川「いえ、拙者は信康様と御心を共にしております故」
平岩「拙者も信康様の為ならば、どこまででもついて行きまする」
清政「某も同じく」
信康「すまんな、皆」
 鬨の声か法螺貝の音
信康「来たか」
石川「信康様、ここは我らにお任せを」
信康「うむ、任せたぞ」
 信康、退場。浜松衆、登場
酒井「数正・・・本当にやるのか?」
石川「信康さまの為、それが自ずと徳川の為となる」
酒井「否。それは徳川を滅ぼす行為じゃ」
石川「何とでも言うが良い。儂は最後まで信康さまについて行くと決めたのだ」
 石川、太刀を抜く。平岩、清政もそれに続く。
酒井「そうか・・・儂も最後まで家康さまについて行くと決めておる」
 酒井、刀を抜く。本多、康政も続く。
石川「ならば仕方ないという事だな」
酒井「ああ・・・いざ!」
 混戦になり全員退場。本多、平岩登場。
平岩「忠勝!」
本多「平岩殿。御止め下さい。信康さまの死はどうあっても免れませぬ」
平岩「止めてみせる!儂の首を信長に渡してでも止めてみせる」
本多「何故そこまで?」
平岩「子のいない儂にとって、信康さまは我が子同然。子の為に命を張るのは親として当然であろう!」
 本多、平岩退場。代わって清政、康政登場。
康政「兄上、もう御止め下さい!これ以上徳川同士で争うべきではありませぬ」
清政「ならば共に織田を倒せばよかろう!」
康政「それこそ信長の思う壺。徳川は織田に滅ぼされまする」
清政「やってみなければわかるまい!」
康政「兄上。今は耐える時ですぞ」
清政「黙れ、康政!」
 清政、康政退場。代わって酒井、石川登場。
酒井「信康さまが死なねば徳川が滅びるのじゃ」
石川「主君の子をむざむざ殺すと言うのか?」
酒井「致し方なかろう」
石川「お主に義はないのか!?」
酒井「ならば徳川が滅んでもよいと言うのか?」
石川「潔く滅んだ方が徳川の名誉となろう」
酒井「滅んでしまっては何の意味もない!」
石川「汚れた道を進むくらいならば潔く滅ぶ」
酒井「辛くても耐え天下を掴む」
酒井・石川「それが、徳川の為じゃ!」
 酒井、石川退場。信康、登場。続いて信忠も登場。
信康「信忠殿・・・何故ここにおる?」
信忠「お主の死を見届けにな」
信康「儂は死なん」
信忠「ならば、儂が引導を渡してやる」
 刀を抜く信忠。
信康「以前のように手加減はしませんぞ」
信忠「それはこちらも同じ」
 信康、刀を抜き立ち回り。信忠、優勢。
信忠「どうした、信康殿。この程度か?」
信康「はぁはぁはぁ」
信忠「もう少しおとなしくしておれば、こんなに早く死ぬ事もなかったのにな」
 信康、膝をつく。
信忠「織田家を倒そうなど、身の程もわきまえず調子に乗り過ぎなのだ」
信康「・・・」
信忠「いいか、信康。この国の王になるのは、お前でも徳川家康でもない。我が父・織田信長だ」
信康「この国の王になるのは、織田ではない・・・」
信忠「何?」
信康「我が、徳川だ」
信忠「口では何とでも言えよう」
信康「お主こそ父親に頼ってばかりで、自分で何かを成し遂げようとは思わんのか?」
信忠「黙れ!」
 信忠、信康の胸を刺す。
信康「ぐはあっ!」
信忠「父上が徳川を滅ぼし天下を取る。そして、この儂が後を引き継ぐ。儂こそ、覇王の子なのだ!」
 信忠、信康に斬りつける。減敬、登場しそれを止める。
減敬「信康さまを殺させはしません」
信康「減敬」
信忠「何者だ、貴様?」
減敬「信康さまに死んでもらっては困る者です。信康さまには織田を倒していただかなくては」
信忠「徳川に織田を倒せる力はない」
減敬「それでも構いません」
信忠「では、信康と共に心中するがいい」
減敬「心中するのはあなた方の方です」
信忠「何?」
減敬「徳川と織田が争えば、そこに隙が生まれます」
信忠「隙?」
減敬「そうです。漁夫の利と言ったところでしょうか。鳥と貝が争っている間に漁師が二つとも手に入れる」
信忠「どういう事だ?」
減敬「信康さま、もう後戻りはできません。一緒に織田を倒しましょう」
信康「減敬。お主、一体何者だ?」
減敬「何者?私も、覇王の子ですよ」
信忠「馬鹿にしておるのか?」
減敬「いえいえ、本当の事です。私の俗世での名は、武田義信」
信康「武田、義信?」
減敬「ええ。今は亡き武田信玄の長男に当たります」
信忠「武田義信と言わば、信玄に謀反を企てた罪で自害に追い込まれたはずでは?」
減敬「父・信玄とて人間。実の息子を殺すのは忍びなかったのでしょう。しかし、私が生きていては後々、御家騒動になりかねない。故に私は国外追放となった訳です」
信忠「そんな人間が何故、今になって戦国の世に戻って来た?」
減敬「長篠の戦いです。あの戦いで武田の多くの者たちが死に、武田家の将来に暗雲が立ちこめた。人間誰しも故郷が無くなるのは悲しい。そうならない為に、私は戦国の世に戻ってきたのです」
信忠「そして、織田と徳川を争わせ武田の窮地を救うと」
減敬「ええ。しかし、ここまで来るには大変でした。家康も我慢強い上に、信長もああ見えてとても慎重。さすが我が父と渡り合っただけの事はありますね。あなた方とは大違い」
信忠「貴様」
減敬「さあ信康さま、私はこの為に瀬名姫さままで手にかけたのです。もう行く所まで行くしかありません」
信康「何、お主が母上を!?」
減敬「ええ。瀬名姫さまの御命を無駄にしない為にも、私がなし得なかった下克上を成し遂げましょう。家康とて、実の子を殺す事などできません。家康を倒し、そして織田を倒すのです」
信康「減敬ぉー!」
 信康、減敬に斬り掛かり、三つ巴の戦い。減敬、信忠の腕を刺す。
信忠「ぐはっ!」
 信康も減敬の腕を斬る。
減敬「くっ!」
家康「信康!信康はどこじゃ!?」
信忠「くっ、ここまでか」
 信忠、退場。代わって家康、井伊登場。
家康「信康。ここにおったか」
減敬「家康!?」
 減敬、家康を刺そうとする。
信康「父上!」
 信康が減敬を斬りつける。
減敬「くっ!」
信康「減敬ぉ!」
 信康、減敬を刺す。
減敬「ぐああ!」
 倒れる減敬。
家康「信康」
石川「信康さま!」
 徳川家臣団、登場。再び相対する両衆。
信康「もう良い。止めるのだ」
平岩「信康様」
信康「父上、申し訳ありません。全ては、この男の謀(はかりごと)、拙者はまんまと踊らされていたようです」
家康「良い、良いのだ信康」
信康「此度の一件、全て拙者一人がしでかした事。岡崎衆には何の罪もありませぬ。どうか岡崎衆をお赦し下さいませ」
家康「わかっておる。此度の件で、我々も多くを学んだ。お主の想い、岡崎衆、浜松衆の想い、そして、儂の想いもな。皆、徳川の事を思っての事じゃ。誰も悪くはない」
信康「父上」
酒井「して殿、この後は如何致しますか?織田も黙ってはいないでしょう」
家康「うむ、そうじゃな・・・」
酒井「織田と、刃を交えまするか?」
家康「・・・」
信康「・・・父上、儂の首を信長にお渡し下さいませ」
清政「信康様!」
信康「拙者が死ぬ事で織田との戦は避けられまする」
家康「信康」
信康「拙者の為に徳川は二つに分かれ、母上も命を落としました。もうこれ以上、多くの命を失う事もありませぬ。拙者の命一つで全て収まります」
家康「信康」
信康「父上、覚悟は出来ておりまする」
平岩「信康様」
 信康、座して切腹の準備をする。
信康「どなたか介錯を頼めんか?」
 動揺する家臣団。誰も名乗り出ようとしない。
石川「・・・それでは、拙者」
家康「儂がやろう」
酒井「殿!」
家康「信康、お主一人に辛い思いはさせん。儂もこの手を汚すとしよう」
信康「父上、すみませぬ。これで父上は本当に覇王になってしまいますな」
家康「構わぬ」
信康「父上、必ずや徳川の天下をお取りくださいませ。父上こそが天下人になるのです」
家康「あいわかった。信康、お主の命、無駄にはせん」
信康「では、拙者は母上の元へ参ります。不肖な息子をお許し下さいませ」
 信康、腹に短刀を突き刺すと同時に家康は刀を振り下ろす。倒れる信康。
石川「信康さま・・・」
平岩「の、信康さま・・・う、うぅ」
清政「う、うああああああああーーーーー!」
  暗転。
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