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第四章「三河平定」
第二十話「服部半蔵」
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慶長二十年五月 大坂
「仇をば恩をもって報ずる」
若武者の呟きに、老将が言葉を繋げる。
「大御所様は、生涯その言葉を常に心に留め、いかなる時も寛容の心をもって対処していきもうした」
「寛容の心を持って一揆を鎮め、そして三河を統べる覇者になると」
若武者の言葉に老将は頷く。
「左様。永禄九年、家康公は朝廷より従五位下(じゅごいのげ)に任ぜられ、徳川姓に復姓し三河守を名乗られました。これにより、三河の統治者としての大義名分を・・・!」
その時、老将は何かに気づくと、振り返り腰に差していた短刀を投げつける。
「何奴!?」
音をたて木に突き刺さる短刀。
すると、木の陰から軽装の武者が一人ゆっくりと現れる。
その人物を見るや否や老将は驚きの声を上げる。
「・・・服部半蔵正成」
老将の言葉に、その武者は口元に笑みを浮かべる。
「否・・・その子、服部源左衛門正就でございます」
軽装の武者がそう答えると、老将ははっと我に返る。
「おう、そうじゃった。あやつは、とうの昔に死んでおったわ・・・しかし、よう似ておるな。親父に」
その武者が頭を下げると、老将はふと何かを思い出す。
「はて、服部の息子といわば・・・確か、伊賀同心と諍(いさか)いを起こして支配役の任を解かれたと聞くが」
老将がそう言うと、その武者は顔を曇らせる。余程のことがあったのか、何も語ろうとしない武者に対し老将は話を変える。
「・・・して、お主は何故ここにおる?」
すると、その武者はゆっくりと歌を歌い始めた。
『徳川殿は、よい人持ちよ。服部半蔵は鬼半蔵、渡辺半蔵は槍半蔵、渥美源吾は首取り源吾』
「懐かしいな、昔流行っておった臼(うす)引歌か・・・」
「ええ」
武者は話を続ける。
「我が父と同じ名で、共に歌にまでなった『槍の半蔵』殿を、死ぬ前に一度、お目にかかりたく思いまして・・・」
「・・・此度の戦で、死ぬつもりか?」
その武者は、質問に答えようとはせず老将に背を向ける。
「では念願も叶いました故、某はこれで」
「おい、待たぬか!」
老将の制止も聞かず、その武者はすぐさま走り去ってゆく。
その後ろ姿を眺めながら、若武者が老将に声をかける。
「服部半蔵・・・儂も聞いた事がある。確か、忍びの頭領だとか」
「ええ、確かにそうではありまするが・・・あやつは元々、忍びではなく一介の武将でございました」
「ほほう」
若武者は、老将の言葉に耳を傾ける。
「あやつと拙者の出会いは、確か永禄十二年の掛川城攻めの折でしたかな。服部半蔵・・・それに、朝比奈泰朝」
「仇をば恩をもって報ずる」
若武者の呟きに、老将が言葉を繋げる。
「大御所様は、生涯その言葉を常に心に留め、いかなる時も寛容の心をもって対処していきもうした」
「寛容の心を持って一揆を鎮め、そして三河を統べる覇者になると」
若武者の言葉に老将は頷く。
「左様。永禄九年、家康公は朝廷より従五位下(じゅごいのげ)に任ぜられ、徳川姓に復姓し三河守を名乗られました。これにより、三河の統治者としての大義名分を・・・!」
その時、老将は何かに気づくと、振り返り腰に差していた短刀を投げつける。
「何奴!?」
音をたて木に突き刺さる短刀。
すると、木の陰から軽装の武者が一人ゆっくりと現れる。
その人物を見るや否や老将は驚きの声を上げる。
「・・・服部半蔵正成」
老将の言葉に、その武者は口元に笑みを浮かべる。
「否・・・その子、服部源左衛門正就でございます」
軽装の武者がそう答えると、老将ははっと我に返る。
「おう、そうじゃった。あやつは、とうの昔に死んでおったわ・・・しかし、よう似ておるな。親父に」
その武者が頭を下げると、老将はふと何かを思い出す。
「はて、服部の息子といわば・・・確か、伊賀同心と諍(いさか)いを起こして支配役の任を解かれたと聞くが」
老将がそう言うと、その武者は顔を曇らせる。余程のことがあったのか、何も語ろうとしない武者に対し老将は話を変える。
「・・・して、お主は何故ここにおる?」
すると、その武者はゆっくりと歌を歌い始めた。
『徳川殿は、よい人持ちよ。服部半蔵は鬼半蔵、渡辺半蔵は槍半蔵、渥美源吾は首取り源吾』
「懐かしいな、昔流行っておった臼(うす)引歌か・・・」
「ええ」
武者は話を続ける。
「我が父と同じ名で、共に歌にまでなった『槍の半蔵』殿を、死ぬ前に一度、お目にかかりたく思いまして・・・」
「・・・此度の戦で、死ぬつもりか?」
その武者は、質問に答えようとはせず老将に背を向ける。
「では念願も叶いました故、某はこれで」
「おい、待たぬか!」
老将の制止も聞かず、その武者はすぐさま走り去ってゆく。
その後ろ姿を眺めながら、若武者が老将に声をかける。
「服部半蔵・・・儂も聞いた事がある。確か、忍びの頭領だとか」
「ええ、確かにそうではありまするが・・・あやつは元々、忍びではなく一介の武将でございました」
「ほほう」
若武者は、老将の言葉に耳を傾ける。
「あやつと拙者の出会いは、確か永禄十二年の掛川城攻めの折でしたかな。服部半蔵・・・それに、朝比奈泰朝」
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