鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜

八ケ代大輔

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第五章「掛川城攻め」

第二十一話「朝比奈備中守」

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永禄十二年正月 掛川城

永禄十一年十二月、武田信玄の駿河侵攻により駿府の居城を失った今川氏真(うじざね)は、その家臣・朝比奈泰朝(やすとも)の居城、掛川城に身を寄せておりましたが、そこへ遠州に進出した我ら徳川軍が掛川城を包囲致しました。

「いい加減諦めい!」
拙者は槍を振い、迫り来る今川兵を押しのける。
我ら徳川軍は、掛川城から打って出て来た今川兵を返り討ちにするべく攻撃をしておる最中でございまする。
「さっさと掛川城を明け渡さんか!」
拙者の気迫に押され、掛川城の方に向かい逃げ帰る今川兵。
周囲でも徳川と今川の兵が戦いを行っておりますが、戦況は徳川軍が圧倒的に優勢でございました。そんな中で、拙者の視界に一騎討ちをする二人の騎馬武者の姿が入って来ました。
「あれは・・・」
一人は、石川伯耆守(ほうきのかみ)数正殿。徳川譜代の家臣で、この掛川城攻めの後、西三河を統べる旗頭になる御仁でございまする。そして、もう一人は・・・。
「ほほー三河衆にしては中々やるのう」
立派な甲冑を身に纏い、相手を蔑(さげす)むような高圧的な口ぶり。
拙者は、その者の名を知っておりました。
「朝比奈備中守!」
名前を呼ばれた騎馬武者は思わずこちらに目を向ける。
「ん?」
そう、この騎馬武者こそこの掛川城の城主・朝比奈備中守泰朝でございまする。
拙者は足を進め、両者の間に割って入る。
「誰だ貴様は?」
馬上から見下ろす朝比奈殿に拙者は槍を構えて答える。
「あんたは覚えていなくとも、儂はしっかり覚えておる。十年前の借り、返させてもらう」
「十年前?」
朝比奈殿は首を傾げる。
「伯耆殿、ここは拙者にお任せ下され」
拙者は、朝比奈殿の方を向いたまま伯耆殿にそう告げる。
「何やら訳ありのようじゃな・・・では、ここは任せるぞ半蔵」
拙者が頷くと、伯耆殿は別の戦場へと馬を駆ける。
朝比奈殿は、そんな伯耆殿には目もくれず落ち着いた口調で拙者に尋ねる。
「十年前、儂がお主に何かしたか?」
拙者は朝比奈殿をじっと見据え答える。
「ああ、あの鷲津砦でのこと忘れはせん・・・掛川城にあんたがいると聞いて相見(まみ)える機会があるかもしれんと思っておったが、こう早くも実現するとは」
「鷲津砦・・・」
朝比奈殿が眉間にしわを寄せ思い出そうとしたその直後、多くの今川兵がこちらに向かって慌てふためきながら退却して参りました。
「・・・ちっ、ここまでか」
朝比奈殿は、今川兵の方に一瞬目を向けるもすぐさまこちらに向き直る。
「このまま相手をしてやりたいところじゃが、儂は城兵たちを守らねばならん義務があるでな」
そう言うと朝比奈殿は、拙者に背を向け今川兵と共に掛川城へと馬を駆ける。
「待て、逃がすか!」
拙者が朝比奈殿を追おうと足を踏み出した、その直後・・・。
「ぐっ!」
拙者の胸に一発の銃弾が直撃致しました。

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