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第六章「虎視眈々」
第二十七話「足利」
しおりを挟む慶長二十年五月 大坂
「以上が、我ら徳川と武田との長い戦いの始まりでございまする」
老将の話に若武者は溜め息をつく。
「遠江を手に入れても、まだ一息つくこともできない。今に至るまでは、まだまだ長い道のりじゃな」
若武者の言葉に老将は頷く。
「ええ。この頃の徳川は、まだ三河・遠江を治めるだけで精一杯でございました。これでもし西側からもさらに脅威が迫って来たのであらば、徳川の命運は尽きていたやもしれませぬな」
「西側というと・・・尾張。盟約を結んでおる織田か」
若武者の返答に老将は頷く。
「左様。西の織田と盟約を結んでいたが故に、我ら徳川は東に勢力を拡大することができた」
「なるほど・・・そういえば、この頃の織田軍は何をしておったのじゃ?」
若武者の疑問に、老将は落ち着いた口調で答える。
「我ら徳川が遠江の争奪戦を行っておる頃、かの織田信長は室町幕府第十三代将軍・足利義輝の弟・足利義昭(よしあき)を伴い上洛を果たし、彼を室町幕府の第十五代将軍に擁立させました」
「傀儡(かいらい)、というやつか」
若武者は、ぽつりと呟く。
「その通り。織田信長は、将軍・足利義昭の名目で各地の武将に上洛を促しますが、そんな中、度重なる上洛要請に応じない武将がおりました・・・それが、越前の朝倉義景でございまする」
若武者は、老将の話を熱心に聞き入る。
「そして元亀元年、織田信長は上洛に応じない朝倉義景を討つべく越前へと出兵。我ら徳川軍も織田からの援軍要請に伴い越前へ出兵をするのでございますが・・・」
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