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第十章「長篠の戦い」
第四十六話「真田源太左衛門尉」
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徒歩戦においても戦況は織田徳川連合軍が優勢でございました。
鉄砲戦の後ということもあり、疲弊した武田の兵たちが次々と討たれていく。
そんな状況に拙者は早くも嫌気が差しておりました。
つまらん戦いだ。
拙者は、どこかに良き相手がいないかと辺りを見渡す。
すると、少し離れたところに拙者の見知った顔を見つけました。拙者の一つ下の弟・渡辺半十郎政綱でございまする。半十郎は、誰かと対峙しているようでひどく疲れた様子でした。拙者は、半十郎に近づき声をかける。
「手助けはいるか?」
「いらん!」
即座に答える半十郎。
「勝敗が決まった戦での一騎討ち。その上、さらに二対一で戦うなど卑怯極まり無い!」
声を荒らげそう答える半十郎。やはり兄弟、おそらく半十郎も拙者と同じような思いで先ほどまでの戦を眺めていたのであろう。そう思うと、自然と口元に笑みがこぼれる。しかし、気持ちが和んだのも束の間、一人の男の声で現実に引き戻される。
「二対一でも構わんぞ」
そう答えたのは、半十郎と対峙している武田の武将。朱塗の具足に純白の陣羽織を身にまとい、三尺はあるであろう大太刀を手に持った大柄な男。拙者たちよりも少し年上であろうか、精悍な目つきでこちら見るその風貌は余裕すら感じさせる。
「こちらは一人でも多くの敵兵を足止めし、勝頼様を無事に退却させねばならんのでな。むしろ、二対一の方が好都合よ」
笑みを浮かべてそう述べる武田の武将。
二対一でも構わないとは、それほど己に自信があるのか、それとも我らを見くびっておるのか・・・。
この武将は一体何者なのかと拙者が訝(いぶか)しく見ておると、ふと背中の旗印に目がいく。丸い銭が六つ。珍しい旗印に拙者は首を傾げる。
「六連銭?」
拙者の疑問に、その武将が答える。
「六連銭は三途の川の渡り賃よ。不惜身命(ふしゃくしんみょう)。いつでも死ぬ覚悟はできておる」
命は惜しまずか・・・こりゃまた、半十郎もどえらい相手に出くわしたものだ。
そこで拙者が半十郎の方をちらりと見ると、半十郎は予想外にも不敵な笑みを浮かべておりました。そして、半十郎はその武者に向かって叫ぶ。
「見事な心意気、感服致す。まだ名を聞いておらんかったな。拙者は、渡辺半十郎政綱。貴殿の名は?」
半十郎の問いに、六連銭の武将は静かに答える。
「真田、源太左衛門尉信綱」
「真田信綱・・・」
真田家といえば、今でこそ名を知られてはおりますが、この頃はまだ武田の一武将にすぎませなんだ。そしてこの後、真田と徳川がただならぬ因縁になろうとは、当時の我々は露程も思ってはおりませんでした。
拙者は今一度、半十郎に問いかける。
「おい、半十郎。この者、お主には手に負えん相手かもしれんぞ。本当に手助けはいらんのか?」
拙者の言葉に、半十郎は声を荒らげて答える。
「たまには弟を信じろ!」
半十郎の思いがけない返答に拙者は笑みを浮かべる。
「ほだら、お主も死ぬ気でかかれ」
「わかっとるわ!」
前方を向いたまま荒い口調でそう答える半十郎。しかし、その表情はとても和やかなものでございました。三方ヶ原での共闘以来、拙者と半十郎は過去のわだかまりを捨て、血の繋がった兄弟として互いに唯一無二の存在と認め合うようになっておりました。
拙者は半十郎の決意を認め、この場は彼に任せる事に致しました。
鉄砲戦の後ということもあり、疲弊した武田の兵たちが次々と討たれていく。
そんな状況に拙者は早くも嫌気が差しておりました。
つまらん戦いだ。
拙者は、どこかに良き相手がいないかと辺りを見渡す。
すると、少し離れたところに拙者の見知った顔を見つけました。拙者の一つ下の弟・渡辺半十郎政綱でございまする。半十郎は、誰かと対峙しているようでひどく疲れた様子でした。拙者は、半十郎に近づき声をかける。
「手助けはいるか?」
「いらん!」
即座に答える半十郎。
「勝敗が決まった戦での一騎討ち。その上、さらに二対一で戦うなど卑怯極まり無い!」
声を荒らげそう答える半十郎。やはり兄弟、おそらく半十郎も拙者と同じような思いで先ほどまでの戦を眺めていたのであろう。そう思うと、自然と口元に笑みがこぼれる。しかし、気持ちが和んだのも束の間、一人の男の声で現実に引き戻される。
「二対一でも構わんぞ」
そう答えたのは、半十郎と対峙している武田の武将。朱塗の具足に純白の陣羽織を身にまとい、三尺はあるであろう大太刀を手に持った大柄な男。拙者たちよりも少し年上であろうか、精悍な目つきでこちら見るその風貌は余裕すら感じさせる。
「こちらは一人でも多くの敵兵を足止めし、勝頼様を無事に退却させねばならんのでな。むしろ、二対一の方が好都合よ」
笑みを浮かべてそう述べる武田の武将。
二対一でも構わないとは、それほど己に自信があるのか、それとも我らを見くびっておるのか・・・。
この武将は一体何者なのかと拙者が訝(いぶか)しく見ておると、ふと背中の旗印に目がいく。丸い銭が六つ。珍しい旗印に拙者は首を傾げる。
「六連銭?」
拙者の疑問に、その武将が答える。
「六連銭は三途の川の渡り賃よ。不惜身命(ふしゃくしんみょう)。いつでも死ぬ覚悟はできておる」
命は惜しまずか・・・こりゃまた、半十郎もどえらい相手に出くわしたものだ。
そこで拙者が半十郎の方をちらりと見ると、半十郎は予想外にも不敵な笑みを浮かべておりました。そして、半十郎はその武者に向かって叫ぶ。
「見事な心意気、感服致す。まだ名を聞いておらんかったな。拙者は、渡辺半十郎政綱。貴殿の名は?」
半十郎の問いに、六連銭の武将は静かに答える。
「真田、源太左衛門尉信綱」
「真田信綱・・・」
真田家といえば、今でこそ名を知られてはおりますが、この頃はまだ武田の一武将にすぎませなんだ。そしてこの後、真田と徳川がただならぬ因縁になろうとは、当時の我々は露程も思ってはおりませんでした。
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「おい、半十郎。この者、お主には手に負えん相手かもしれんぞ。本当に手助けはいらんのか?」
拙者の言葉に、半十郎は声を荒らげて答える。
「たまには弟を信じろ!」
半十郎の思いがけない返答に拙者は笑みを浮かべる。
「ほだら、お主も死ぬ気でかかれ」
「わかっとるわ!」
前方を向いたまま荒い口調でそう答える半十郎。しかし、その表情はとても和やかなものでございました。三方ヶ原での共闘以来、拙者と半十郎は過去のわだかまりを捨て、血の繋がった兄弟として互いに唯一無二の存在と認め合うようになっておりました。
拙者は半十郎の決意を認め、この場は彼に任せる事に致しました。
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