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第十章「長篠の戦い」
第四十七話「山本勘蔵」
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さて、では儂はどうするかな・・・。
拙者が再度周囲を見渡そうとした矢先、敗走する武田軍の中から大きな声が聞こえてきました。
「どけどけぇ!徳川家康、御命頂戴!」
拙者が声のする方に目を向けると、そこには一人逆走し、こちらに向かって来る若武者の姿がありました。
単騎駆けとは威勢がええな。
拙者は感心しつつも、その武者の前に立ちはだかる。
「邪魔をするな!」
激昂する若武者に対し、拙者は冷静に答える。
「主君を討とうと進む者を、はいどうぞと道を開ける訳にもいかんじゃろ」
そう言うと拙者は若武者に対し身構える。
「くっ」
若武者も拙者の動きに合わせ槍を構える。
「一応、名前を聞いておこうか」
拙者の問いに、若武者は声を荒らげて答える。
「武田家家臣、山本勘助晴幸が嫡男・山本勘蔵信供!」
若武者の威勢のいい名乗りに応じ拙者も名乗りを上げる。
「徳川家家臣、渡辺半蔵守綱。単騎で敵陣に駆けるお主のその心意気に免じ、某が一騎討ちでお応えしよう」
拙者の提案に若武者は顔を顰(しか)める。
「一騎討ちでなくとも結構。一度に十人でも二十人でもかかってくればよいわ」
今し方聞いたような言葉を口にする若武者に拙者はにやりと笑う。
先ほどの六連銭の武将といい、この若武者といい武田の者たちはどうしてこうも粋なのかね。まったく、儂好みの奴らじゃ。
拙者は笑みを浮かべながら独り言のように呟く。
「勘違いしとるの~」
「何?」
「お主如き儂一人で十分だと言う事じゃ。ぶつくさ言っとらんで、さっさとかかってこんか」
「なんだと!」
拙者の挑発に激昂する若武者。
「儂を愚弄した事、後悔させてくれるわ!」
そう言うと若武者は拙者に向かって駆け出す。
「はぁー!」
若武者の勢いのある突きが繰り出されるが、拙者はそれを難なく避ける。
「がぁー!」
続けざまに攻撃を繰り出す若武者。しかし、無念にも攻撃は全て拙者には当たらずに空を切る。
若さ故、戦の経験が少ないのか、動きに斑(むら)が多い・・・しかし。
「まだまだぁ!」
絶えず攻撃を繰り出す若武者。技量はさほどではありませんが、負けまいというその執念だけは凄まじいものでございました。しかし、戦いというものは想いだけではどうにもいかないもの。
そろそろか。
拙者は若武者が疲労の様相を見せたところ、隙をついて若武者の鎧の隙間から脇腹に槍を突き刺す。
「ぐうっ!」
拙者が槍を引き抜くと、苦悶の表情を浮かべ膝をつく若武者。
「お主、ええ心意気じゃ。もうちっと経験を積めば、ええ侍になる」
そして、拙者は周囲を見渡す。
辺りでは武田の兵たちの姿が徐々に消え、代わりに徳川の兵たちが増えてくる。
「この戦、お主たちの負けじゃ・・・今ならまだ逃げられる。逃げりん」
拙者の言葉を受け、若武者の顔が苦悶の表情から憤怒の表情へと変わる。
「ぐっ、貴様!さらに儂を愚弄する気か」
そう言うと、若武者は足をふらつかせながらも立ち上がる。
「川中島で散った父のように、儂も武田の盾となり、武田の守り神とならん!」
若武者は吐血しながらそう叫んだ後、歯を食いしばり槍を構える。
・・・馬鹿が。
拙者は槍を地面に突き刺し刀を抜く。
対峙する両者。束の間の静寂の後、若武者は拙者に向かって駆け出す。
「はあぁー!」
それに合わせ拙者も若武者に向かい地面を蹴る。
決着は一瞬でつきました。
両者の距離が縮まり、お互いが重なり合ったかと思うと、ゆっくりと膝をつき倒れる若武者。拙者の刃が若武者の喉元を切り裂いておりました。
「ぐっ、がぁ、あぁ」
仰向けになり口から血を吐き出しながら苦しむ若武者。拙者は彼に止めを刺す。
「ぐっ!」
一瞬身動(みじろ)いだ後、絶命する若武者。拙者は、若武者から刀を引き抜き血を拭(ぬぐ)う。
山本勘蔵と言ったか・・・若年(じゃくねん)ながら見事な武士であった。
拙者が刀を鞘に納めると、その直後、少し離れたところから断末魔の叫び声が聞こえて来た。
「ぐがあぁっー!」
声のする方に目を向けると、そこには半十郎の槍に体を貫かれた真田信綱殿の姿がありました。
あっちも決着がついたか。
拙者は半十郎の勝利に安堵する一方で、この状況に一抹の憂いを抱く。
山県昌景をはじめ、真田信綱、そして山本勘蔵。今回の戦で数多くの武田の勇士たちが次々に散っていった。甲斐の名門・武田家はこれでもう終わりであろう。これが、時代の趨勢(すうせい)というものなのか・・・空(むな)しいものだな。
拙者は再度、地面に倒れている山本勘蔵を見詰める。
時代の流れに消えて行く前に、せめて生きた証として、こやつの墓でも作ってやるか・・・。
拙者がそんな事を考えておると突如、半十郎の叫び声が聞こえて来る。
拙者が再度周囲を見渡そうとした矢先、敗走する武田軍の中から大きな声が聞こえてきました。
「どけどけぇ!徳川家康、御命頂戴!」
拙者が声のする方に目を向けると、そこには一人逆走し、こちらに向かって来る若武者の姿がありました。
単騎駆けとは威勢がええな。
拙者は感心しつつも、その武者の前に立ちはだかる。
「邪魔をするな!」
激昂する若武者に対し、拙者は冷静に答える。
「主君を討とうと進む者を、はいどうぞと道を開ける訳にもいかんじゃろ」
そう言うと拙者は若武者に対し身構える。
「くっ」
若武者も拙者の動きに合わせ槍を構える。
「一応、名前を聞いておこうか」
拙者の問いに、若武者は声を荒らげて答える。
「武田家家臣、山本勘助晴幸が嫡男・山本勘蔵信供!」
若武者の威勢のいい名乗りに応じ拙者も名乗りを上げる。
「徳川家家臣、渡辺半蔵守綱。単騎で敵陣に駆けるお主のその心意気に免じ、某が一騎討ちでお応えしよう」
拙者の提案に若武者は顔を顰(しか)める。
「一騎討ちでなくとも結構。一度に十人でも二十人でもかかってくればよいわ」
今し方聞いたような言葉を口にする若武者に拙者はにやりと笑う。
先ほどの六連銭の武将といい、この若武者といい武田の者たちはどうしてこうも粋なのかね。まったく、儂好みの奴らじゃ。
拙者は笑みを浮かべながら独り言のように呟く。
「勘違いしとるの~」
「何?」
「お主如き儂一人で十分だと言う事じゃ。ぶつくさ言っとらんで、さっさとかかってこんか」
「なんだと!」
拙者の挑発に激昂する若武者。
「儂を愚弄した事、後悔させてくれるわ!」
そう言うと若武者は拙者に向かって駆け出す。
「はぁー!」
若武者の勢いのある突きが繰り出されるが、拙者はそれを難なく避ける。
「がぁー!」
続けざまに攻撃を繰り出す若武者。しかし、無念にも攻撃は全て拙者には当たらずに空を切る。
若さ故、戦の経験が少ないのか、動きに斑(むら)が多い・・・しかし。
「まだまだぁ!」
絶えず攻撃を繰り出す若武者。技量はさほどではありませんが、負けまいというその執念だけは凄まじいものでございました。しかし、戦いというものは想いだけではどうにもいかないもの。
そろそろか。
拙者は若武者が疲労の様相を見せたところ、隙をついて若武者の鎧の隙間から脇腹に槍を突き刺す。
「ぐうっ!」
拙者が槍を引き抜くと、苦悶の表情を浮かべ膝をつく若武者。
「お主、ええ心意気じゃ。もうちっと経験を積めば、ええ侍になる」
そして、拙者は周囲を見渡す。
辺りでは武田の兵たちの姿が徐々に消え、代わりに徳川の兵たちが増えてくる。
「この戦、お主たちの負けじゃ・・・今ならまだ逃げられる。逃げりん」
拙者の言葉を受け、若武者の顔が苦悶の表情から憤怒の表情へと変わる。
「ぐっ、貴様!さらに儂を愚弄する気か」
そう言うと、若武者は足をふらつかせながらも立ち上がる。
「川中島で散った父のように、儂も武田の盾となり、武田の守り神とならん!」
若武者は吐血しながらそう叫んだ後、歯を食いしばり槍を構える。
・・・馬鹿が。
拙者は槍を地面に突き刺し刀を抜く。
対峙する両者。束の間の静寂の後、若武者は拙者に向かって駆け出す。
「はあぁー!」
それに合わせ拙者も若武者に向かい地面を蹴る。
決着は一瞬でつきました。
両者の距離が縮まり、お互いが重なり合ったかと思うと、ゆっくりと膝をつき倒れる若武者。拙者の刃が若武者の喉元を切り裂いておりました。
「ぐっ、がぁ、あぁ」
仰向けになり口から血を吐き出しながら苦しむ若武者。拙者は彼に止めを刺す。
「ぐっ!」
一瞬身動(みじろ)いだ後、絶命する若武者。拙者は、若武者から刀を引き抜き血を拭(ぬぐ)う。
山本勘蔵と言ったか・・・若年(じゃくねん)ながら見事な武士であった。
拙者が刀を鞘に納めると、その直後、少し離れたところから断末魔の叫び声が聞こえて来た。
「ぐがあぁっー!」
声のする方に目を向けると、そこには半十郎の槍に体を貫かれた真田信綱殿の姿がありました。
あっちも決着がついたか。
拙者は半十郎の勝利に安堵する一方で、この状況に一抹の憂いを抱く。
山県昌景をはじめ、真田信綱、そして山本勘蔵。今回の戦で数多くの武田の勇士たちが次々に散っていった。甲斐の名門・武田家はこれでもう終わりであろう。これが、時代の趨勢(すうせい)というものなのか・・・空(むな)しいものだな。
拙者は再度、地面に倒れている山本勘蔵を見詰める。
時代の流れに消えて行く前に、せめて生きた証として、こやつの墓でも作ってやるか・・・。
拙者がそんな事を考えておると突如、半十郎の叫び声が聞こえて来る。
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