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第十章「長篠の戦い」
第四十八話「武藤喜兵衛」
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「貴様、何をする!?」
拙者が半十郎の方に目を向けると、そこには半十郎に斬り掛かる一人の武者の姿がありました。拙者たちよりも歳は下でしょうか、剛勇と言うよりも理知的な印象を与える面持ちの武者。
半十郎は、その武者の攻撃を捌き間合いを取る。
「貴様、何奴?」
半十郎の問いに、その武者は答える。
「武藤喜兵衛昌幸。真田信綱が実弟なり」
仇討ちか・・・。
しかし、武田の兵が消え徳川の兵が増えている現状、仇討ちを行ったところで、雑兵に邪魔をされ成功するとも限らない。
半十郎も、それを承知でその武藤喜兵衛と名乗る武者に告げる。
「下がれ。もう勝敗は決しておる」
しかし、その武者はまったく下がる気配を見せない。
馬鹿が。
拙者がそう思った直後、一人の足軽がその武者に向かって攻撃を仕掛ける。
「死ねぇー!」
足軽がその武者に対し刀を大きく振り上げた瞬間、足軽の体が何者かの槍によって貫かれる。
背後から胴を貫かれた足軽は口から血を吐きながら身悶える。
そして、足軽の背後から槍の主である武将がゆっくりと現れる。
髭面で立派な陣羽織を身に纏った武将。拙者は、幾度となく戦場で目の当たりにして来たその姿を見るや冷や汗をかく。
・・・来たか、鬼美濃。
『鬼美濃』馬場美濃守信春の思いも寄らぬ登場に拙者と半十郎は尻込みする。三年ほど経ったとはいえ、まだ三方ヶ原での戦いの事は鮮明に思い出される。あの時の美濃守の迫力は、まさに鬼神のようでありました。
美濃守は槍を薙ぎ払い足軽を宙に捨てると、武藤喜兵衛に声をかける。
「・・・退け、退くのだ」
「美濃守様、しかし!」
納得のいかない喜兵衛に対し、美濃守は故事を持ち出す。
「孫子曰く『怒りを以て師を興すべからず』一時の感情に流されて行動しては良からぬ結果を招くだけぞ」
「くっ」
美濃守の言葉に、喜兵衛は顔をしかめる。
「お主はまだ若い。勝頼様をお守りし武田の家を守るのだ」
「・・・はっ」
喜兵衛は美濃守に頭を下げると真田信綱殿の亡骸を抱え後退を始める。
「徳川の者たちよ、覚えておれ。いつか必ずや我が兄の仇、晴らしてみせん」
捨て台詞を吐き、拙者たちに背を向け退却して行く喜兵衛。
武藤喜兵衛昌幸か・・・将来、徳川にとって恐ろしい敵になるやもしれんな。
拙者と半十郎、そして美濃守は、それぞれの思いを胸に喜兵衛の後ろ姿を見詰める。
拙者が半十郎の方に目を向けると、そこには半十郎に斬り掛かる一人の武者の姿がありました。拙者たちよりも歳は下でしょうか、剛勇と言うよりも理知的な印象を与える面持ちの武者。
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しかし、武田の兵が消え徳川の兵が増えている現状、仇討ちを行ったところで、雑兵に邪魔をされ成功するとも限らない。
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「下がれ。もう勝敗は決しておる」
しかし、その武者はまったく下がる気配を見せない。
馬鹿が。
拙者がそう思った直後、一人の足軽がその武者に向かって攻撃を仕掛ける。
「死ねぇー!」
足軽がその武者に対し刀を大きく振り上げた瞬間、足軽の体が何者かの槍によって貫かれる。
背後から胴を貫かれた足軽は口から血を吐きながら身悶える。
そして、足軽の背後から槍の主である武将がゆっくりと現れる。
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・・・来たか、鬼美濃。
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美濃守は槍を薙ぎ払い足軽を宙に捨てると、武藤喜兵衛に声をかける。
「・・・退け、退くのだ」
「美濃守様、しかし!」
納得のいかない喜兵衛に対し、美濃守は故事を持ち出す。
「孫子曰く『怒りを以て師を興すべからず』一時の感情に流されて行動しては良からぬ結果を招くだけぞ」
「くっ」
美濃守の言葉に、喜兵衛は顔をしかめる。
「お主はまだ若い。勝頼様をお守りし武田の家を守るのだ」
「・・・はっ」
喜兵衛は美濃守に頭を下げると真田信綱殿の亡骸を抱え後退を始める。
「徳川の者たちよ、覚えておれ。いつか必ずや我が兄の仇、晴らしてみせん」
捨て台詞を吐き、拙者たちに背を向け退却して行く喜兵衛。
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