鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜

八ケ代大輔

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第十章「長篠の戦い」

第五十話「信康」

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慶長二十年五月 大坂

「長篠の戦いにおける武田軍の主だった戦死者は、馬場信春、山県昌景、土屋景続、内藤昌秀、真田信綱、昌輝兄弟。この戦いにより『戦国最強の軍団』と言われた武田軍の戦力は大幅に減少したと言って過言ではないでしょう」
そして、老将は約一里ほど西方にある茶臼山に目を向ける。
「ちなみに現在、大坂方におる真田信繁は真田信綱殿の甥に当たりまする」
老将の言葉を聞き、そこで若武者が質問をする。
「真田家といえば、確か今までにも何度か我が徳川軍と上田城で戦っておるのだよな?」
「ええ。上田城攻めは計二回、天正十三年と慶長五年にありましたが、そのどちらも我ら徳川軍は勝つ事ができませなんだ」
「そして、此度も・・・正に徳川にとって天敵という訳か」
老将は、若武者の意見に頷くと話を続ける。
「さらに慶長五年に関しては、この上田城攻めのせいで秀忠様は関ヶ原の戦いに遅れるという大失態を犯してしまいました。その際、さすがの大御所様も、長男の信康様が生きておればこんな事にはならなかったであろうに、と嘆いておられました」
「信康・・・若くして亡くなった我が長兄か」
「ええ。しかし、今では秀忠様も二代将軍として随分ご立派になられました・・・」
そして、老将は数町先にある徳川秀忠の陣を眺める。
「ただ、もし長男の信康様が生きておられたならば、徳川の将来は少し変わっていたかもしれませぬ」
老将は、固唾(かたず)を呑んで話を聞く若武者の方に視線を移す。
「若には、信康様のお話もしなければなりませぬな・・・」
老将の力強い眼差しを若武者はしかと受け止める。
「あれは織田信長が居城を安土城に移し、栄華を誇った天正七年の事でした・・・」
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