鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜

八ケ代大輔

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第十三章「小牧・長久手の戦い」

第七十四話「関ヶ原」

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「あえて秀吉殿の元へ行き出奔したと見せかけて、秀吉殿の元で大御所様の手助けをする」
「本当にそうであったという確たる証拠はあるのか?」
若武者の問いに老将はきっぱりと答える。
「ありませぬ。しかし、石川数正殿の出奔の後、徳川と羽柴との和睦が順調に進んでいったのは確かです」
「うむ・・・」
「石川数正殿の出奔後、秀吉殿はご自身の実の妹である朝日姫様をわざわざ離縁させ、大御所様の正室に差し出します。さらには、秀吉殿の御母上・大政所様まで岡崎に送られました。そこで、さすがの大御所様も腰を上げられ大坂に赴き和睦と相成りました」
「これで秀吉の天下が訪れたという訳か」
「ええ。小牧・長久手の戦いの後、九州や関東も平定し天下を取った秀吉殿。関白となり、朝廷から『豊臣』の姓を授かる。その治世はまるで神仏が如く、大陸出兵に加え、千利休殿や甥の秀次殿の切腹など、大御所様も慣れ親しんだ海道から関東に移されました。しかし、そんな秀吉殿の天下もそう長くは続きませんでした・・・」
若武者は老将の話に聞き入る。
「慶長三年八月十八日・・・豊臣秀吉殿が亡くなる」
「天下人の呆気ない最期か」
「ええ。しかし、これですぐに大御所様が天下を取れた訳ではなく、大御所様の天下取りにはもう一人欠かせない者がおりました」
「ほう、誰じゃ?」
若武者の問いに老将は、にやりと笑い答える。
「石田三成でございます」
「何?」
首を傾げる若武者だったが、すぐに事を理解し納得する。
「うむ。確かに、あの者がいなければ父上も天下を取れはせなんだろう」
「左様。秀吉殿の側近であった石田三成。しかし、この石田三成という人物は人望薄く敵も多くございました。秀吉殿の死後、同じく秀吉殿の家臣であった加藤清正、福島正則などの武将との対立が表立ち一触即発の状態でございましたが、それを抑えていたのが前田利家殿。しかし、その前田利家殿も秀吉殿が死んだ翌年に亡くなると、ついに両者の対立は抑えきれず・・・」
「戦、か」
「ええ。それが、関ヶ原の戦いでございまする」
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