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第十四章「関ヶ原の戦い」
第八十三話「鬼島津」
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最後まで抵抗を続けた石田勢もようやく敗走する。上方勢の相次ぐ敗走に南宮山の毛利も撤退。関ヶ原の地に残った上方勢は残すところは島津勢のみ。開戦から島津勢は終始傍観の姿勢をとっておりました。故に、島津勢もこのまま撤退するかに思えたのですが・・・。
勝利に沸く徳川本陣に驚きの報がもたらされました。
「島津勢一丸となり喊声(かんせい)を上げながら、真っ直ぐこちらに向かって来ております!」
伝令の知らせに家康公も驚きの声を上げる。
「何だと?島津め、儂と刺し違えるつもりか?」
そして、家康公は家臣に下知する。
「皆の者、本陣の守備を固めよ!」
「はっ」
配下の家臣たちは、すぐさま戦陣を整えるべく動き出す。
慌ただしい本陣。拙者も急ぎ槍を持ち駆け出そうとしたところ・・・。
「半蔵、どこへ行く?」
家康公が拙者を呼び止める。拙者は首だけ向けて答える。
「島津は儂が止めてみせます」
拙者の答えに家康公は静かに頷く。
「・・・任せたぞ、半蔵」
そして、拙者は急いで本陣の前に躍り出る。
まだ距離はあるが、拙者は前方からこちらに向かって来る一団を視認する。
十字紋の旗印・・・島津。
こちらに向かって直進して来る島津勢に味方の軍勢は慌てた様子で道を開ける。
「何やっとるだ!」
拙者は大きな声で愚痴をこぼす。
勝敗が決まったにも関わらず鬼気迫る勢いで突撃して来る島津勢に、誰もが無駄に命を落とすのを嫌がっておるのでしょう。
「儂が止めるしかないかの~」
島津勢を率いるは『鬼島津』の異名で畏れられる島津惟新斎義弘。
拙者は、にやりと笑う。
「天下泰平の世まであと一歩。ここで殿を死なせる訳にはいかん。さ~て、最後の鬼退治といこうかや」
拙者は槍を身構える。
敵の数はざっと千以上・・・やれるか?
拙者は冷や汗をかく。すると、そこへ・・。
「半蔵殿一人にいい格好はさせませんぞ」
「我らとて殿にこの命捧げておりまする故」
続々と家康公の近習たちが拙者の背後に並ぶ。
「お主ら・・・」
そこで拙者は気を取り直す。
「ほだら皆、気張っていこまい!」
「おう!」
主君を守るべく身構える旗本勢の前に迫り来る島津勢。
拙者は武者震いを必死に抑える。
死んでも殿を守る。万が一の時は、あの世で殿の作る天下泰平を見守るさ。
そう思った瞬間、なぜか拙者はふと古い友人の言葉を思い出す。
『極楽浄土は死後の世にあらず、現世にこそあるべきなり』
拙者は苦笑する。
生きて泰平の世を見守れってか?あーそうさな、死んでいった仲間たちの為にも儂は生きて泰平の世を見にゃあかんな。
拙者は気を引き締め、改めて前方の島津勢を見る。
家康公の本陣まであとわずか。皆それぞれ大声で喊声を上げている。
・・・止められるか?
次の瞬間、拙者の不安はすぐに消え去る。
前方の島津勢が急に向きを変えて本陣の横をかすめて行く。
?
呆気に取られる一同。
「な、何じゃ?」
「どういう事だ?」
困惑する近習たち。拙者は一人槍を下ろして呟く。
「・・・敵中突破か?」
本陣の横をかすめて行った島津勢はそのまま突き進み、こちらに戻って来る様子は無い。そこで拙者は島津勢の敵中突破を確信し胸を撫で下ろす。
「・・・ふはは、ふはっはははっはははは」
拙者は大声で笑い出す。周囲の近習たちも、ようやく状況を理解し声を上げる。
「おのれ島津!」
「逃がすか!」
島津勢に追撃を仕掛けようとする近習たちを拙者は抑える。
「深追いすな。追撃は他のもんに任せい。我らの役目は殿を守る事じゃ」
「う、うむ」
近習たちが冷静さを取り戻した直後、一騎の騎馬武者がやって来る。
「皆、大丈夫か?」
本多平八郎忠勝。拙者は馬上の平八郎に答える。
「ああ、問題ない」
「そうか。殿も無事じゃな?」
「うむ」
平八郎の問いに拙者は頷く。
「万千代が島津を追って行った。深追いせねばよいが」
「お主も行ってやりん」
「ああ」
平八郎は、すぐさま島津勢を追いかける。
平八郎の背中を見ながら拙者はようやく勝利を実感し安堵する。
勝った・・・。
「勝ったぞーーーー!」
拙者の声が関ヶ原の地に木霊する。
こうして天下分け目の関ヶ原の戦いは徳川勢の勝利に終わりました。
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