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第10話 足音
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それは、夜の入り口だった。
焚き火を囲んでいた村人たちの談笑が、ふっと止まる。
遠くで、地を踏みしめるような“重い音”が聞こえた。
ドン……ドン……ドン……
規則的で、ゆっくりとした足音。
けれど、そのひとつひとつに、静かに“圧”があった。
「な、なあ……今の音……聞こえたか?」
「誰か来てる……? こんな時間に……?」
不穏な空気が村を包む。
僕は立ち上がり、音のする方角――東の森を見やった。
足音の主は、明らかに“普通の人間”ではなかった。
あれは、もっと“組織的”で、“訓練された者”の動きだ。
間もなく、村の門の向こうに影が現れた。
何人もの人影。
鎧に身を包み、紋章の入ったマントをなびかせている。
そして、先頭に立つ者が名乗った。
「――王都より派遣された調査隊である」
その一言に、村中の空気が張り詰めた。
◇ ◇ ◇
調査隊の一行は、武装こそしていたものの、今のところ“敵意”は見せていない。
けれど、その視線は明らかに僕を捉えていた。
「この村に、“神の使い”と称される存在がいると報告を受けた。
名は“ユイ”。……該当する人物に、話を聞きたい」
リルが、ぎゅっと僕の手を握った。
「ユイ、行かないで……」
「大丈夫。話すだけだよ。すぐ戻る」
そう言いながらも、胸の奥に微かな不安があった。
――ここからは、もう“ただの平和な村暮らし”では済まされない。
◇ ◇ ◇
集会所の中、僕は調査隊の隊長らしき男と向かい合っていた。
「……あなたが、“ユイ”ですね?」
「そう呼ばれていることは、否定しません」
「あなたの存在は、王都でも議論の的です。
目撃情報、異常な魔力、魔物の鎮静。――どれも、ただの旅人が持ち得る力ではない」
僕は何も返さなかった。
男は続ける。
「ですが、我々は敵ではありません。
本当の問題は――“魔王軍”の動きです」
その言葉に、僕の眉が動いた。
「つい先日。王都に近い村が、夜のうちに壊滅しました。
目撃されたのは、従来の魔物ではない、新たな“進化型”の魔族です」
「……なぜ、それを僕に?」
「……君の力が、“それ”と近い性質を持っている可能性があるからです」
僕は目を見開いた。
「……どういうこと?」
「君の力は、明らかにこの世界の通常の魔術体系とは違う。
その“起源”を知ることで、我々は魔王軍の新たな力にも対抗できると考えている」
――つまり僕は、戦力として“利用”されようとしている。
僕は、言葉を慎重に選んだ。
「……僕は、人を助けたいだけです。
誰かを傷つけるために、力を使うつもりはありません」
隊長は黙ったまま、こちらを見つめていた。
その表情は読めない。けれど、ほんの少しだけ、口元が緩んだ気がした。
「――ならば、こちらも強制はしません。
ただ……君が自ら望んで、歩み寄ってくれる日が来ることを、我々は信じています」
◇ ◇ ◇
夜が深まる。
調査隊は村に一泊することになり、静けさの中に、剣と鎧の気配が混ざった。
リルが僕の隣に座って、ぽつりと言った。
「……ユイ、やっぱり、すごいんだね」
「そんなことないよ」
「でも、世界はユイを放っておかない気がする」
「……うん。僕も、そう思う」
だからこそ、僕は選ばなくてはいけない。
逃げるのか、戦うのか、守るのか――
それとも、ただ“生きる”のか。
静かな夜に、まだ答えはなかった。
焚き火を囲んでいた村人たちの談笑が、ふっと止まる。
遠くで、地を踏みしめるような“重い音”が聞こえた。
ドン……ドン……ドン……
規則的で、ゆっくりとした足音。
けれど、そのひとつひとつに、静かに“圧”があった。
「な、なあ……今の音……聞こえたか?」
「誰か来てる……? こんな時間に……?」
不穏な空気が村を包む。
僕は立ち上がり、音のする方角――東の森を見やった。
足音の主は、明らかに“普通の人間”ではなかった。
あれは、もっと“組織的”で、“訓練された者”の動きだ。
間もなく、村の門の向こうに影が現れた。
何人もの人影。
鎧に身を包み、紋章の入ったマントをなびかせている。
そして、先頭に立つ者が名乗った。
「――王都より派遣された調査隊である」
その一言に、村中の空気が張り詰めた。
◇ ◇ ◇
調査隊の一行は、武装こそしていたものの、今のところ“敵意”は見せていない。
けれど、その視線は明らかに僕を捉えていた。
「この村に、“神の使い”と称される存在がいると報告を受けた。
名は“ユイ”。……該当する人物に、話を聞きたい」
リルが、ぎゅっと僕の手を握った。
「ユイ、行かないで……」
「大丈夫。話すだけだよ。すぐ戻る」
そう言いながらも、胸の奥に微かな不安があった。
――ここからは、もう“ただの平和な村暮らし”では済まされない。
◇ ◇ ◇
集会所の中、僕は調査隊の隊長らしき男と向かい合っていた。
「……あなたが、“ユイ”ですね?」
「そう呼ばれていることは、否定しません」
「あなたの存在は、王都でも議論の的です。
目撃情報、異常な魔力、魔物の鎮静。――どれも、ただの旅人が持ち得る力ではない」
僕は何も返さなかった。
男は続ける。
「ですが、我々は敵ではありません。
本当の問題は――“魔王軍”の動きです」
その言葉に、僕の眉が動いた。
「つい先日。王都に近い村が、夜のうちに壊滅しました。
目撃されたのは、従来の魔物ではない、新たな“進化型”の魔族です」
「……なぜ、それを僕に?」
「……君の力が、“それ”と近い性質を持っている可能性があるからです」
僕は目を見開いた。
「……どういうこと?」
「君の力は、明らかにこの世界の通常の魔術体系とは違う。
その“起源”を知ることで、我々は魔王軍の新たな力にも対抗できると考えている」
――つまり僕は、戦力として“利用”されようとしている。
僕は、言葉を慎重に選んだ。
「……僕は、人を助けたいだけです。
誰かを傷つけるために、力を使うつもりはありません」
隊長は黙ったまま、こちらを見つめていた。
その表情は読めない。けれど、ほんの少しだけ、口元が緩んだ気がした。
「――ならば、こちらも強制はしません。
ただ……君が自ら望んで、歩み寄ってくれる日が来ることを、我々は信じています」
◇ ◇ ◇
夜が深まる。
調査隊は村に一泊することになり、静けさの中に、剣と鎧の気配が混ざった。
リルが僕の隣に座って、ぽつりと言った。
「……ユイ、やっぱり、すごいんだね」
「そんなことないよ」
「でも、世界はユイを放っておかない気がする」
「……うん。僕も、そう思う」
だからこそ、僕は選ばなくてはいけない。
逃げるのか、戦うのか、守るのか――
それとも、ただ“生きる”のか。
静かな夜に、まだ答えはなかった。
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