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ヒトのキョウカイ1巻(異世界転生したら未来でした)

19 (機械仕掛けの魔法使い)

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 暗い部屋に電気スタンドの灯りが1つ、パイプ椅子と机があり警察が高圧的に机を叩く、そんな光景を想像をしていた。
 が、ふかふかのソファーが向かい合う形で2台あり、テーブルにはコーヒー…。
 部屋にはトイレ、簡易キッチンなど一通りが揃《そろ》っていて、照明も明るく、四方にマイク内蔵型の監視カメラが設置されている事を除けば、取調室と言うより応接室と言う感じだ。
 ナオの腰には リボルバーが全弾装填状態でぶら下がっており、要求通り武装解除はされていない。
 ナオはソファーに深く腰掛けた状態でこれから取調だと言うのに足を伸ばし、かなり場慣れした感じがしている。
 ドアをノックされ、開き取調官が入ってくる。
 取調官の視線がナオに向いた所で、1息ほど場慣れした態度を見せ、その後ゆっくりと姿勢を戻して取調に備える。
「今回カンザキ・ナオトさんの取調を担当する ブライアンです。
 よろしくお願いいたします。」
 褐色《かっしょく》の肌にスキンヘッドの見た目で、ネクタイ無しの背広を着ていて、靴も蛍光灯からの光を反射する程 磨かれている。
 腰を見るが、ハンドガンの類は装備されておらず、後は背広の中にショルダーホルスターで銃を隠し持っている可能性だ。
「随分と用心深い人ですね…。
 私は デスクワークが基本なので銃なんか持っていませんよ…。」
 腰と背広に向かう視線を見たのか ブライアンは そう言い、背広のボタンを外し上着をめくる。
 しっかりアイロン掛けされている白いYシャツ、ショルダーホルスターの類や内ポケットの銃などは見当たらない。
「オレよりアナタの方が用心深いと思いますがね…オレの態度より真っ先に武装確認したでしょう…。」
 ブライアンは少し驚き、口調を少し崩して
「武装した相手と話すんです…当然でしょ?」と答える。
「アナタ盛大にブーメラン食らっている事をご存じで?」
 ここの警察はすべて軍人だ…。
 有事しか活躍の無い軍隊は、必要ではあるのもの平時は比較的暇だ。
 その為、この都市の軍隊には治安維持などの警察の仕事も含まれる。
 つまりこのブライアンは、最低でも年間30日の軍事カリキュラムをこなしている人になる…。
 ナオも礼儀としてホルスターを外しテーブルに置いた。
「安全確認は出来ました…どうぞお掛けください。」
「あなたも重要参考人だと理解しています?」
 名目上、重要参考人扱いにはなっている物の事実上、容疑者だ。
 ブライアンは向かいのソファーに腰を下ろしタブレットPCの中の書類データを確認する。
「はい…では始めます。まずは基本情報の確認から…。」
 タブレットPCに表示されていたのは、昨日のステルスキラーとの戦闘の映像だ。
 肝心のステルスキラーは見当たらず、オレがナイフを素振りをしている状態になってる。
「こちらは、ケインズからの通報時の映像です。あなたで間違いないでしょうか?」
 画面を拡大し画面内のナオに指をし確認を取る。
「ええ、オレですよ…。」
「映像を見る限り、戦闘をしていたとの事でしたが…。
 相手側が映っていません…状況を詳しく聞かせて貰ってよろしいでしょうか?」
「ええ、レーザーサイトを相手に向けて、貫通したので敵に実体が無い事を確認…。
 ただコンバットナイフが一瞬だけ実体化して、オレを攻撃してきたので甲手で受け止めました。
 ナイフの軌道はただ浮かんでいるだけじゃなくて、ヒトが切り付ける動作です。
 オレを斜め上から攻撃してきた事から、角度から見て身長160cm、受けた時の質量から考えて体重80kg程度の相手です。」
 ナオがジェスチャーを交えて答える。
「へぇそこまで分かるもんなんですね。」
「で、クオリアが原因は ハナダで気絶させれば解決すると解析したので、病室に行ってハナダに非殺傷弾を1発頭に撃ち込んで気絶…。
 クオリアから敵の反応が消えたと報告を受けた直後にあなた達、警察が突入してきたという訳です…これが使用した弾薬ですね。」
 ナオは空薬莢《からやっきょう》と未使用の銃弾が入ったシリンダーを入れたポリ袋をブライアンに出す。
「証拠品として回収させて頂きます。」
「45口径非殺傷弾3発に、殺傷弾3発、それにシリンダー…。
 警察持ちで頂きますよ」
「発注して置きます。
 銃弾の売店の管理官が出勤が8時からですから3時間ほど待ってもらう事になりますが…。」
「そう言えばしょっ引かれたのが3時でしたっけ…随分早い取調だと思ってましたが…。」
「常時何人かは、当直で待機していますから…。
 あ~それとステルスキラーでしたか?彼の存在が謎で調書が書けないのですが…。」
「そっちはクオリアに聞いてくれ…もう来てるんでしょ?」
「いえいえ まだ迎えに行った車が帰ってきた報告は 来ていませんよ…あっ来たかもしれません。」
 ブライアンは、頭の中でコールがあったのか?
 右手の親指と小指を伸ばした電話のジェスチャーをし、親指を耳に当てる。
 思考通話でしゃべっているのか、ブライアンの唇は動かず、左手でARウィンドウを開き何か操作している。
「お連れさんが来ましたよ…今こっちに向かっています。」

 数分経ち、クオリアが取調室に入ってき、ナオの隣に座る。
「お疲れ、書類まとめるのに時間がかかってな…。
 早速だが、1TB以上のメディアはあるだろうか?
 今回の行動ログを提出したいのだが…。」
「先ほど頼んでおきましたから…もう そろそろ来ますよ…ほら来た。」
 コンコンとドアをノックし、警官が立方体のメディアをクオリアに渡す。
 クオリアは右手でメディアを掴《つか》みデータを書き込んでいく。
 クオリアの手には『Fポート』と呼ばれる接触通信の端末が入っており、その相手が規格に対応していれば、触れた記録媒体にアクセスする事が出来る。
「書き込みを完了した…私はこれを証拠として提出する。」
「はい確かに受け取りました…。
 では、ステルスキラーについて話してもらえますか?」
「?……データは送ったが?」
「公式のカメラがある所であなたの口頭で話を聞きたいのです…。
 わざわざ迎えを出したのもそれが理由です。」
「情報の正確性より段取りを優先するのか…。
 分かった。こちらの慣習に従おう。」

「詳しくはデータを見てくれればいいとして、概要を簡単に説明するとハナダの思い込みが原因だ。」
「思い込み?」「いやいやいや実際に切られたし」
 ブライアンとナオがそう答える。
「量子論の実体化だ…まずそこに暗殺者がいると思い込む。」
 クオリアが真ん中のテーブルを指で差し、ブライアンとナオに言う。
「この時、空間に暗殺者が存在する『概念』が放たれ、1ヨクト%の可能性で存在する事になる。
 ここで重要なのは、思い込む事で0%から1ヨクト%に出来る事。」
「ヨクト?」
「10の-24乗だ。
 コインを100回投げて、全て表が出る確率よりは高い。
 作為無しでギリギリ起こせる可能性だ。」
「それで、この概念の存在確率を51%以上にする。
 そうすると実体化する…おそらく、ハナダと周囲の人間がサイレントキラーがいると思ったせいで、50%付近になったのだろう。
 周りの人間は切り付けられるイメージが大きかったのか、実体化したのはナイフだけだったがな…。」
「実際にありえるのか?」
「他人まで影響を出せるレベルになったのは今回が初だ。
 実際にあり得たのだから、あり得たとしか言えない。
 他の方法として空間をハッキングして作為的に存在確率を上げる方法もあるが、おこなった際に発生する量子光は観測出来なかった。
 可能性としては、ハナダが電子的な特殊薬物を使っていた可能性がある…。
 だがエレクトロンが把握《はあく》していない薬物となると やはり可能性は低いようにも感じる…。
 やはり何かしらの未知のファクターが絡んでいると予想するのが現実的だろうか?」
「とにかくハナダを電子解析してワクチンを作るしかなですね…。
 ただこっちは、ほぼオカルトだし…再現性もないだろうしな…。」
 ブライアンは悩む。
「どうやって実体化したかは謎だが…再現は可能だ。」
 クオリアは右手を2人に見える位置に置き、手のひらが緑色の粒子の量子光が現れる。
「概念を入れた」
 そして粒子が集まり、形を形成して量子光が弾けて消えた。
「確率操作…。」
 手のひらにあるものは、焼きパンだった。
「どうぞ」
 パンをブライアンに差し出し、ブライアンは食べてみる。
「……焼きたて?」
「これ質量保存の法則はどうなっているんだ?」
 ナオが聞いてみる…明らかに無から有を生み出している状態だ。
「質量保存の法則は、三次元物質までで使える法則…確率は四次元だから適応範囲外」
「四次元って時間じゃなかった?」
「立方体より上で、時間より下の次元の確率が証明されたから、時間が繰り上がった。
 今は五次元…。」
「と言う事は、永久機関も実現も可能になった訳か…。」
「最大出力に問題があるが 永久機関は既にある。
 エレクトロンが売っている商品だ。」
 2人の前にARウィンドウが表示され、エレクトロンが運営している通販サイトが表示される。
 商品名は『AQB』atomアトムquantumクアンタム batteryバッテリーだ。
 原子と量子で電池になるのか?おまけにAQと永久をかけていている。
 写真が見た所、AQBと書かれたラベルを貼られた単1電池にしか見えない、ただ大きさが50cmと かなりデカい…。
 お値段が脅威の10万UMユニバーサルマネー…。
 これ1つで家20軒分のフル電力に耐え、車は1つで、輸送機も2~3機もあれば十分に動かせるとの事。
「本当に何でもありな世界なんだな、この世界は…。」
「こちらからすると殆《ほとん》ど魔法と区別つかないですしね。
 こりゃ上に説明するのに苦労しますわぁ」
「クラークだったか?
 とりあえず、オレ達の取調は終了でいいか?」
「ええ問題ありませんよ…あーそろそろ」
『業務連絡です…5時30分になりました。
 砦学園都市警察所は、6時で次のシフトに移ります。
 各自、業務の引継ぎや帰宅の準備をお願いします。
 本日は、砦学園都市警察所で働いて頂き、誠にありがとうございます。』
 自動音声ながら、やけにかしこまった『業務終了のお知らせ』だった。
「よし終わった…。」
「定時まで時間潰していただけかよ」
 ナオがブライアンに突っ込む。
「こっちのシフトで解放しますので、30分以内に警察署からの退出をお願いします。」
「私のドラムは?」
「こちらで預かっています。
 武装解除と内部火器があるかの簡易スキャンをかけましたが…それ以外は手を付けていませんよ。」
「引取書は?」
「用意します…。」

 その後オレらは、6時に警察署を出て、ドラムに乗り帰宅するのだった。
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