13 / 38
第13話 剣聖は謝罪する
しおりを挟む
「どうする、ユーナ?」
「わたしとレオンさん、どっちがいいかな?」
「んー……」
俺とリディアが聞くとユーナは腕を組んで考え込んだ。視線は俺たち二人の間を行ったり来たりしている。
ユーナがどっちと一緒に寝るかというのが宿屋の前で持ち上がった問題だった。
「順当に行けばレオンなのだが……リディアも捨てがたい……」
ユーナは大いに悩んでいた。
俺としてはどっちでもいい…………いや、選んでもらえないのはなんか寂しい気がするな。
などと思っているとユーナは天啓を得たかのように「はっ……!」とした表情になった。
「名案を思いついた。レオンとリディアが一緒に寝て、そこに私が混ざる。これならば部屋も一つですむ。安上がり。完璧」
「…………ッ!」
ユーナの「名案」を聞いたリディアが固まった。その顔は見る見るうちに赤くなっていく。
ここは俺の出番か。
「あのなあ、ユーナ、それはダメなんだよ」
「なんでか?」
「なんでと言われると答えにくいんだが、大人ってのは本当に好きな人同士でないと一緒に寝ちゃダメなんだ」
「では問題ないのではないか。レオンはリディアが好きだし、リディアもレオンが好き」
「ちょ、ちょっと……ユーナちゃん……?」
ユーナの発言にリディアが盛大に狼狽えていた。
「ほほう、なぜそう思う?」
俺はユーナに聞いた。
「ランバートとの決闘が終わってからというもの、リディアはチラチラとレオンの方を見るようになっている。また、さっきはわざと冗談めかした雰囲気を出した上でレオンに対して「カッコよかった」と言っていた。そしてもちろん「優しい人は好きですよ」という発言も見逃せない。あれは確実に本気だった。本人は上手くやっているつもりのようだが、全体を通じてリディアはかなりあざとくストレートにアプローチをかけている」
「よく見てるじゃないか。えらいぞ、ユーナ。俺もそのあたりには気づいていた。おいおい、ずいぶん積極的に来るじゃねえか、と思ったもんだ」
「二人ともそんなこと考えてたんですか!」
リディアがなんか言っているが俺たち二人は無視して意見交換を続ける。
「流石は我が保護者。やはり気づいていたか」
「当然だろ? こちとら剣聖なんてやってる身だぜ? リディアはな、いまのこの関係を楽しんでいるのさ。好意を寄せている相手が自分のことを好きでいてくれる、というおいしい関係をな」
「ふむ……相手から好きだと言われるのは多少気恥ずかしいながらも気分はいいし、自分からのアプローチはどれほど雑にやっても成功するという状況……なるほど、これはたしかにおいしい」
「よくわかってるじゃないか」
俺はユーナの理解力を称賛した。
「五歳児を舐めてもらっては困る。だが、話を総合すると結局どっちも相手が好きなのだから一緒に寝れていいのではないか? 私はどっちとも一緒に寝たいのだが」
「あー、結局そこに戻っちゃうか。でもなー、その辺の理由を具体的に説明するわけにはいかないし……」
「…………お二人とも、お取り込み中申し訳ないんですが、ちょっとお話があるんですけど……」
俺が頭を悩ませていると穏やかな声がした。が、声の主であるリディアの瞳は怒りの炎に燃えていた。
叱られた。超叱られた。叱られた。
俺とユーナは宿屋の前でおよそ半時間に及ぶリディアからのマジ説教を受けたのだった。
いくら洞察力があるからといって他人の本心をズバズバと言い当ててはいけません。
俺たち二人はキツーくそう言われたのだった。
一応そのあと宿屋の食堂で夕食を済ませて二部屋取って(当然、ユーナは俺と一緒に寝る方を選んだ)廊下でリディアと別れて、鍵を開けて部屋に入ったのだが俺もユーナもリディアに叱られたあとの記憶がなんか曖昧だった。
本気で怒ったリディアからのマジ説教はそんな風になってしまうくらいの恐怖体験だったのだ。
ぼんやりとしたまま寝る準備をすませて、ユーナと二人で死人のようにバタッとベッドに倒れ込んだ。
「……怒ったときのリディアって、あんなに怖いんだな……」
「……タフな五歳児であるこの私も半泣きになってしまった……」
俺もユーナもずーんとへこんでいた。
冷静になって考えてみれば怒られて当然のことしかしてないので文句は言えない。俺たち二人とも決闘のときのランバート並みに反省していた。
「でもまあ」
「無事にリディアが仲間になってくれた」
死んだように横たわったまま俺が言うととなりのユーナがうなずいた。
そうなのだ。本気で怒ってはいたものの、リディアは俺たちを許してくれたのだ。廊下での別れ際、彼女はとびきりの笑顔を見せて「明日から一緒に頑張りましょうね!」と言ってくれたのだった。
やっぱり優しいよな……本気で怒るとマジで怖いけど。
「ともかく、明日からは三人で冒険だぞ、ユーナ!」
「ん! テンション上がる……ッ!」
俺もユーナもベッドの上でわくわくしていた。
剣聖と五歳児は気持ちの切り替えが早いのだ。さっきは豪快にへこんだが、いまはもう明日が来るのが待ち遠しくてならなかった。
「いよいよ本格的に活動開始だ。忙しくなるぞ」
「私はタフな五歳児。キレたときのリディア以外に怖れるものなどない」
キリッとした顔でユーナが言った。
そうか。本気で怒ったリディアはそんなに怖かったか。まあ俺も二度と彼女を本気で怒らせるようなことはすまいと思ったが。
ユーナの回復魔法のことは気になるが、今日は色々あった。俺もこの五歳児もよく働いたし、明日出来ることは明日やるとしよう。
「じゃ、寝るか」
「ん。今日はここまで」
ランプの火を消し目を閉じる。
「おやすみ、ユーナ」
「おやすみ、レオン」
そうして俺はちょっと変わった娘の保護者として、眠りについたのだった。
子供らしくユーナは朝早くから起き出していた。
「冒・険! 冒・険!」
「わかったから朝から手拍子つきの冒険コールはやめてくれ」
「ふふっ、元気いっぱいだね、ユーナちゃん」
身支度をして廊下に出るとリディアと出くわした。
俺とユーナはビシッと頭を下げて謝罪した。
「昨日は!」
「申し訳ありませんでした!」
「ふ、ふたりとも、朝からそんなことしなくていいから! あれはもうすんだことで……」
朝一番の全力謝罪にリディアは慌てていたが、俺たち二人とも改めてきちんと謝らないと気が済まなかった。
そう、これは仲間としてのケジメなのだ。
「私たちは反省しているッ!リディアの本心を完璧に見抜いてしまったことを謝りたいッ!」
「ああ! 上手いこと恋の駆け引きを楽しんでるつもりが実は相手に全部見抜かれててアプローチの仕方があざといとか思われてたなんて……そんなの恥ずかしいに決まってる!」
「私たち二人とも、リディアの気持ちも考えずにズバズバと本心を言い当ててしまった……」
「悪かったよ、リディア。いくら君のアプローチがあからさまでわかりやすいからって、それを指摘したりすべきじゃなかったんだ……」
「もう! 本当に反省しているのならそんな歯に衣着せない言い方しないでください!」
俺たち二人は正直に謝罪したのだが、なんかまた怒られてしまったのだった。
「わたしとレオンさん、どっちがいいかな?」
「んー……」
俺とリディアが聞くとユーナは腕を組んで考え込んだ。視線は俺たち二人の間を行ったり来たりしている。
ユーナがどっちと一緒に寝るかというのが宿屋の前で持ち上がった問題だった。
「順当に行けばレオンなのだが……リディアも捨てがたい……」
ユーナは大いに悩んでいた。
俺としてはどっちでもいい…………いや、選んでもらえないのはなんか寂しい気がするな。
などと思っているとユーナは天啓を得たかのように「はっ……!」とした表情になった。
「名案を思いついた。レオンとリディアが一緒に寝て、そこに私が混ざる。これならば部屋も一つですむ。安上がり。完璧」
「…………ッ!」
ユーナの「名案」を聞いたリディアが固まった。その顔は見る見るうちに赤くなっていく。
ここは俺の出番か。
「あのなあ、ユーナ、それはダメなんだよ」
「なんでか?」
「なんでと言われると答えにくいんだが、大人ってのは本当に好きな人同士でないと一緒に寝ちゃダメなんだ」
「では問題ないのではないか。レオンはリディアが好きだし、リディアもレオンが好き」
「ちょ、ちょっと……ユーナちゃん……?」
ユーナの発言にリディアが盛大に狼狽えていた。
「ほほう、なぜそう思う?」
俺はユーナに聞いた。
「ランバートとの決闘が終わってからというもの、リディアはチラチラとレオンの方を見るようになっている。また、さっきはわざと冗談めかした雰囲気を出した上でレオンに対して「カッコよかった」と言っていた。そしてもちろん「優しい人は好きですよ」という発言も見逃せない。あれは確実に本気だった。本人は上手くやっているつもりのようだが、全体を通じてリディアはかなりあざとくストレートにアプローチをかけている」
「よく見てるじゃないか。えらいぞ、ユーナ。俺もそのあたりには気づいていた。おいおい、ずいぶん積極的に来るじゃねえか、と思ったもんだ」
「二人ともそんなこと考えてたんですか!」
リディアがなんか言っているが俺たち二人は無視して意見交換を続ける。
「流石は我が保護者。やはり気づいていたか」
「当然だろ? こちとら剣聖なんてやってる身だぜ? リディアはな、いまのこの関係を楽しんでいるのさ。好意を寄せている相手が自分のことを好きでいてくれる、というおいしい関係をな」
「ふむ……相手から好きだと言われるのは多少気恥ずかしいながらも気分はいいし、自分からのアプローチはどれほど雑にやっても成功するという状況……なるほど、これはたしかにおいしい」
「よくわかってるじゃないか」
俺はユーナの理解力を称賛した。
「五歳児を舐めてもらっては困る。だが、話を総合すると結局どっちも相手が好きなのだから一緒に寝れていいのではないか? 私はどっちとも一緒に寝たいのだが」
「あー、結局そこに戻っちゃうか。でもなー、その辺の理由を具体的に説明するわけにはいかないし……」
「…………お二人とも、お取り込み中申し訳ないんですが、ちょっとお話があるんですけど……」
俺が頭を悩ませていると穏やかな声がした。が、声の主であるリディアの瞳は怒りの炎に燃えていた。
叱られた。超叱られた。叱られた。
俺とユーナは宿屋の前でおよそ半時間に及ぶリディアからのマジ説教を受けたのだった。
いくら洞察力があるからといって他人の本心をズバズバと言い当ててはいけません。
俺たち二人はキツーくそう言われたのだった。
一応そのあと宿屋の食堂で夕食を済ませて二部屋取って(当然、ユーナは俺と一緒に寝る方を選んだ)廊下でリディアと別れて、鍵を開けて部屋に入ったのだが俺もユーナもリディアに叱られたあとの記憶がなんか曖昧だった。
本気で怒ったリディアからのマジ説教はそんな風になってしまうくらいの恐怖体験だったのだ。
ぼんやりとしたまま寝る準備をすませて、ユーナと二人で死人のようにバタッとベッドに倒れ込んだ。
「……怒ったときのリディアって、あんなに怖いんだな……」
「……タフな五歳児であるこの私も半泣きになってしまった……」
俺もユーナもずーんとへこんでいた。
冷静になって考えてみれば怒られて当然のことしかしてないので文句は言えない。俺たち二人とも決闘のときのランバート並みに反省していた。
「でもまあ」
「無事にリディアが仲間になってくれた」
死んだように横たわったまま俺が言うととなりのユーナがうなずいた。
そうなのだ。本気で怒ってはいたものの、リディアは俺たちを許してくれたのだ。廊下での別れ際、彼女はとびきりの笑顔を見せて「明日から一緒に頑張りましょうね!」と言ってくれたのだった。
やっぱり優しいよな……本気で怒るとマジで怖いけど。
「ともかく、明日からは三人で冒険だぞ、ユーナ!」
「ん! テンション上がる……ッ!」
俺もユーナもベッドの上でわくわくしていた。
剣聖と五歳児は気持ちの切り替えが早いのだ。さっきは豪快にへこんだが、いまはもう明日が来るのが待ち遠しくてならなかった。
「いよいよ本格的に活動開始だ。忙しくなるぞ」
「私はタフな五歳児。キレたときのリディア以外に怖れるものなどない」
キリッとした顔でユーナが言った。
そうか。本気で怒ったリディアはそんなに怖かったか。まあ俺も二度と彼女を本気で怒らせるようなことはすまいと思ったが。
ユーナの回復魔法のことは気になるが、今日は色々あった。俺もこの五歳児もよく働いたし、明日出来ることは明日やるとしよう。
「じゃ、寝るか」
「ん。今日はここまで」
ランプの火を消し目を閉じる。
「おやすみ、ユーナ」
「おやすみ、レオン」
そうして俺はちょっと変わった娘の保護者として、眠りについたのだった。
子供らしくユーナは朝早くから起き出していた。
「冒・険! 冒・険!」
「わかったから朝から手拍子つきの冒険コールはやめてくれ」
「ふふっ、元気いっぱいだね、ユーナちゃん」
身支度をして廊下に出るとリディアと出くわした。
俺とユーナはビシッと頭を下げて謝罪した。
「昨日は!」
「申し訳ありませんでした!」
「ふ、ふたりとも、朝からそんなことしなくていいから! あれはもうすんだことで……」
朝一番の全力謝罪にリディアは慌てていたが、俺たち二人とも改めてきちんと謝らないと気が済まなかった。
そう、これは仲間としてのケジメなのだ。
「私たちは反省しているッ!リディアの本心を完璧に見抜いてしまったことを謝りたいッ!」
「ああ! 上手いこと恋の駆け引きを楽しんでるつもりが実は相手に全部見抜かれててアプローチの仕方があざといとか思われてたなんて……そんなの恥ずかしいに決まってる!」
「私たち二人とも、リディアの気持ちも考えずにズバズバと本心を言い当ててしまった……」
「悪かったよ、リディア。いくら君のアプローチがあからさまでわかりやすいからって、それを指摘したりすべきじゃなかったんだ……」
「もう! 本当に反省しているのならそんな歯に衣着せない言い方しないでください!」
俺たち二人は正直に謝罪したのだが、なんかまた怒られてしまったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,439
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる